第19話 ♂はまる少年
七月に突入し、過酷な暑さが続くようになった。
そして、その暑さが原因でとある問題が発生している。
「あっつーい」
熱さにやられてだるそうにしている地葉。
問題の発生源である。
シャツ一枚の薄着の地葉。
他の生徒はシャツの下に体操着やインナーを着ているのだが、何故か地葉は着ていない。
それが原因で、光の加減によってはブラがうっすらと見えることがある。
ギャルだからかブラも派手なピンク色を付けていてわかりやすいしな。
さらには、ボタンを他の生徒より余分に開けていて胸元も見えてしまっている……
いや、えちが凄い!
「まじで日本の熱さどうなってんの?」
さらには半袖の袖を捲り巻いて、肩の位置まで上げている。
そのせいで、角度によっては脇から胸がチラッと見えてしまうこともある。
スカートもひと際短くなっており、太ももというか股下までたまに見えてしまう。
角度によってはパンツが見えてしまうレベルだ。
いやだから、えちが凄い!
「テレビでもじゃもじゃの髭面の人が、氷河期が近い内に来るとか言ってたけど、より暑くなってんじゃんか~」
そう、問題とは地葉の露出が激し過ぎる問題だ。
派手なギャルということもあり、校則を守らず肌色全開スタイル……
そんな地葉と日々間近にいる俺は、刺激を受け続ける毎日となっている。
「学校の冷房の効き目悪すぎでしょ。なんで職員室だけあんな涼しいの?」
地葉のおかげでギャルに怯えることは少なくなった。
だが、ギャルを見ても怯えないということは興奮だけが募るということだ。
今までは露出の多いギャルを見ても気分の悪さが勝っていたが、今では興奮が勝ってしまっている。
男としては喜ばしいことだが、地葉との関わり合いに支障が生まれてしまうかもしれない。
「何でさっきから真剣な顔して考え込んでんの? 何かあったの天海?」
俺の顔を覗き込んでくる地葉。
中学生にしては大きな胸が胸元に谷間を形成している。
汗の匂いを隠すためか、香水の香りが普段より強くなっていて、甘くて良い匂いがしっとりと香ってくる。
「……人類の救済について考えているんだ」
「めっちゃ凄いこと考えてんじゃん! そりゃ真剣な顔をしているわけだ」
俺の気持ちを悟られないように慌てて適当なことを言ってしまった。
それにしても……ギャルのトラウマを少し克服できたのはプラスになることばかりではなかったようだ。
何故なら、ギャルの異様なえちさに気づいてしまったからな。
「人類が救われるには邪念を振り払うことが必要みたいだ」
「天海なら大丈夫っしょ。天海には下心とか無いし」
立っているのが疲れたのか、俺の机に座り始める地葉。
そして俺の視界をおっきな太ももが覆うことに。
視界に広がる肌色の景色はより興奮を募らせる。
地葉は俺に下心が無いと言うが、それは出会った頃のギャル苦手時代の話だ。
今の俺は下心と戦っているんだ。
今まで影を潜めていた下心が、内側からドバドバと溢れているんだ。
「俺も男だ。男には誰だって下心はあるって」
「天海はあたしのパンツとか見ても気分が悪くなるんでしょ?」
スカートをチラチラとさせて、パンツが見えるか見えないか辺りまで引いたり隠したりする地葉。
今までは地葉の言う通り気分は悪くなっていたが、今では身体が熱くなってしまう。
ていうか何なのその挑発……
えち過ぎんだろーがおいっ!
「やめろ、はしたないだろ」
「ほんと天海って誠実というか、真面目よね。普通の男だったらきっとはぁはぁしてるよ。まっ、だから信頼できるんだけどさ、もうちょっと反応してくれないと女としてはしょんぼりかな」
めっちゃ女として見てんだって!
身体も反応しちまってんだよ!
でも今さら興奮してますなんて言ったら、信用とか失っちゃうから頑張ってクールな対応気取ってんだよ!
我慢すんの大変なんだよ!
「何で睨んでんの? もしかしてトラウマ思い出して気分悪くなっちゃった?」
心配そうに見つめてくる地葉。
トラウマが薄れたら地葉は俺の中でクラスのめっちゃ可愛い人になっちゃったからな。
「大丈夫だよ。おかげさまでギャルには慣れてきてるから」
「なら良かった。天海の傍にいっぱいいて、もっと慣れさせてあげるね」
その優しさが、時に人を傷つける――
このフラストレーションは家に持ち帰り、一人で発散することとしよう。
▲
放課後になり地葉と図書室で勉強を始める。
できるだけ薄着の地葉を見ないようにしたかったが、地葉は俺の正面に向かい合って座ってしまった。
場所を変えると怪しまれてしまうので、下を向いて勉強に集中しよう。
「これ、塾で使ってた中二の数学の問題集。俺はもう使わないからあげるよ」
「ありがと天海、助かる」
問題集を地葉に渡すと嬉しそうな笑顔を見せた。
地葉は喜怒哀楽がはっきりとしているので、感情がわかりやすいな……
「問題集なのに嬉しそうだな」
「プレゼントなら何でも嬉しいじゃん」
単純なのか、問題集一つで幸せそうにしている。
プレゼントなら何でも喜ぶか……
良い事を思いついた。次の休日に買い物でも行くか。
「あっ」
俺は勉強中に消しゴムを落としてしまい、大きな机の下に潜って探す。
消しゴムが地葉の足元付近に落ちているのを見つけて一安心。
だが、そこには思いもよらぬ光景が広がっていた。
図書室の机は教室のものとは異なり、左右に三人ずつ座ることができる大きな机なので下に潜り込まない限り下半身は見えない。
地葉はリラックスしながら勉強をしているからか、股を広げていてパンツが豪快に見えてしまっている。
アゲハ蝶みたいな柄の派手なパンツ。
相変わらず無駄にスケベなパンツを履いているな……
やはりスカートが短いとこういうハプニングが生じてしまう。
俺は悪くない。悪いのはスカートの短さだ。
パンツを見てトラウマを思い出しても気分が悪くなることはなくなっている。
きっとそれはトラブルとはいえ、地葉がパンツを何度か見せてくれて耐性を作ってくれたからかもしれない。
俺はパンツに一礼して、感謝の気持ちを伝えた。
いやいやパンツを凝視している場合じゃない、今は消しゴムを取らないと。
ラッキースケベとはいえ、堪能し過ぎると相手に失礼だからな。
「あっ、ヤバっ」
地葉は股を大きく開いていることに気づいたのか、足を慌てて閉じた。
しかし、俺の顔は股の間にあったため、地葉の太ももに挟まれてしまう。
「ちょ、ちょっと、何でそんなとこいるのよ!」
「け、消しゴムが……」
地葉のムチムチとした大きな太ももに挟まれてしまい、味わったことのない温もりを感じる。
まるで冬のこたつに潜っているような心地よさだな。
つまり自分の意思でここから抜けるのは難しいということだ。
「消しゴムあった?」
「ああ、今取った」
地葉は股を広げてしまうと再びパンツが見えてしまうので、俺を挟んだままの状態を維持している。
つまり、俺が出て行かない限り挟み続けることになる。
俺はこの時間がずっと続けばいいのにと静かに願った――
「取ったなら早く出てよ!」
「す、すまん!」
地葉から注意されて我に返り、慌てて机の下から出た。
幸せな時間がずっと続くとは限らない。
いつか失うべき時に備えて、その幸せを満足いくまで味わうことが大事だなと学ぶことができた。
「パンツ見てないよね?」
「ちゃんと頭下げて日頃の感謝しといたぞ」
「勝手に拝まないでよ!」
見てないと嘘はつけなかったので、遠回しに見ちゃったと伝えた。
「悪い、見えちゃったとはいえ俺が消しゴムを落としたのが原因だったしな」
「別に怒ってないよ。あーあ汚いの見せちゃったって、落ち込んでるだけ」
「汚くなんかねーよ。凄く可愛かったぞ」
「そ、そう?」
フォローしたかったとはいえ、何言ってんだ俺はと頭を抱える。
パンツ可愛いってまるでレベルの高い変態じゃないか。
「でもパンツにも感謝するなんて、天海はやっぱり優しいね」
「止めろ、これ以上俺の変態レベルを上げないでくれ!」
その後は地葉のパンツが脳裏にちらついて、ぜんぜん集中できなかった。
無性に消しゴムを落としたくなる衝動も湧き上がっていて抑えるのが大変だった。
このままでは勉強に集中できない。
ちょっとこれは勉強会に何か対策が必要だな……
▲
「ふぅー今日の勉強終わり」
俺は家での勉強を終え、休憩がてらネットサーフィンを始める。
最近ではギャルに慣れてきた喜びもって、無駄にネットでギャルを検索してしまっている。
今までギャルを禁忌としていたので、その反動なのか慣れて平気になると無性に見たくなってしまうのだ。
色んなギャルの写真を見て、麗奈はギャルでもけっこう薄めのギャルなんだと理解する。
濃いめのギャルはやはり今でも見ると少し震えが生じる。
ただ、その震えも今ではちょっと気持ち良く感じる。
「あっ、やべ」
ギャルを検索していたら、いつの間にかエッチなサイトに足を踏み込んでいた。
やはり世の男はみんなエッチなギャルで検索をしているのだろう。
まったくけしからん世の中だぜ……
このままでは後戻りできくなると思い、俺は慌てて開きまくっていたサイトのタブを次々と消していった。
……ギャルに慣れるどころか、はまりつつあるな。
しかもこれ以上踏み込んだら抜け出せない気がする。
ギャルは俺から見ればダークサイド、このままダークサイドに落ちたら危険だ。
それにこれでは地葉にも勉強を教えるどころではなくなってしまう。
地葉を裏切らないために俺は自分自身に打ち勝たなければ。
俺は西洋の壁画に描かれがちな女神たちの裸体をスマホで検索し、邪念を浄化させて心を整えた――
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