第29話 ♂不安な少年
十月になり、夏の暑さは消えていった。
今日は三日ぶりに麗奈と一緒に図書室で勉強を始めようと思ったのだが、麗奈からちょっと待ってと言われてしまった。
「あ、あの七渡……」
「どーした?」
麗奈はいつの間にか俺を名前で呼んでくれるようになった。
だが、名前を呼ぶ時は相変わらず顔を真っ赤にしている。
「プレゼントがある……」
「まじで!? それは楽しみだな」
麗奈は紙袋を持っているので、そこにプレゼントが入っているのだろう。
「必要無かったらごめん。できれば使って欲しいけど」
渡された紙袋の中にはマフラーと手袋が入っていた。
赤ベースの派手な色のマフラーと、黒ベースに赤の模様が入っている手袋。
俺では選べない派手な色のチョイスだな。
「ありがとう。まだ季節にはちょっと早いけど、寒くなったら使うよ」
「うん、ありがとう!」
何故か麗奈も感謝を述べてきた。
俺が前にセーターやブランケットをあげたので、似たジャンルのプレゼントを選んできてくれたみたいだ。
「嬉しいな~」
「それは俺の台詞なんだが」
「七渡に自分が選んだ物を身に着けてくれるのが嬉しいの」
俺がプレゼントを貰って喜んで麗奈も渡して喜ぶなんて、幸せしか発生していない空間だな。
やっぱり仲が良い友達ってのは素晴らしいな……
いつも仲良くしてくれる麗奈には感謝しかない。
「じゃあ、早速勉強を始めるぞ」
「うん。今日も頑張ろ」
俺と麗奈は勉強を始めることに。
家で行うよりも、麗奈といる方が集中できる。
最初は慣れなくてあまり集中できなかったが、今では麗奈の見ている前ではだらけられないと良いプレッシャーがかかる。
最初はどうなることかと思ったが、結局麗奈と勉強することは自分にとってもプラスになったのかもな――
▲
「あの死神の漫画、実写化するらしいな」
一樹と二人で他愛のない話をしながら学校の廊下を歩いている。
「俺もそのニュース見た。意味わからんよな、バトル漫画は実写化向いてねーって」
漫画とかアニメの実写化はあまり好きでは無いのだが、最近は実写化の発表が続いている。納得できん。
「あっ」
俺と一樹は思わず立ち止まってしまう。
何故なら、前から旧友の須々木と大塚の二人が歩いてきたからだ。
二人も立ち止まり、互いに目を逸らす。
気まずいったらありゃしない。
言葉をかけることなく、俺達はゆっくり歩いてすれ違った。
大塚は何かを言いたげだったが、須々木が大塚に行くよと声をかけて向こうも歩き始めた。
「時間が十倍くらい長く感じたな」
「それな」
一樹は重い溜息をついた。
一樹の言う通り、体感時間が長く感じたな。
元々は中二の冬まで四人の仲良しグループだった。
だが、今では言葉も交わさないほど関係に亀裂が走っている。
原因は俺と須々木が付き合って三日で振られるという問題が発生したからだ。
あの問題をきっかけには仲はこじれて仲良しグループは解散になった。
相変わらず須々木のことは可愛いと思うが、今では何を考えているのかわからなくて恐い存在だ。
「悪いな一樹、俺のせいで」
「いや、七渡は悪くないだろ。出会いもあれば別れもあるのが人生だ」
一樹はもう切り替えられているみたいだが、俺はまだ心にしこりが残っている。
あの時の選択肢が違っていればとか、後悔が付き纏っている。
もしもの未来を想像しても、過去には戻れないのだが……
麗奈には須々木や大塚のようになってほしくない。
そうならないためには、これ以上関係性を深めずに友達でいるのがベストなはずだ。
「それに、今は地葉がいるだろ。出会いもあれば別れもあるってことはそういうことだ」
俺には許嫁のような幼馴染もいた。
あの時は引っ越しが原因で離れたのでどうしようもなかったが、大切な人と疎遠になってしまうのは、俺はもう嫌なんだ。
「どちらにせよ、あいつらとは中学でお別れだったさ。志望校も俺達よりも偏差値がだいぶ低いとこだったし」
「そうだな……」
関係性が継続していれば、今頃は四人で猛勉強して同じ高校を目指していたかもしれない。
そうなれば麗奈とも出会っていなかっただろう……
「あっ、いたいた」
俺達の元に走ってきた麗奈。
嬉しそうに、俺と一樹の間に割って入ってきた。
「古典の小テスト百点だったよ」
「凄いな。俺ですら八十点だったのに」
俺の空いた心の穴にすっぽりと入ってくれる麗奈。
「凄いっしょ」
麗奈といると須々木と大塚のこととか、嫌なことも忘れられる。
だからこそ、二人の様にもう疎遠にはなりたくないと強く願ってしまう。
「なんか元気なくない?」
「そんなことないぞ。麗奈を見て元気になれた」
「七渡ん……」
いつも幸せそうにしている麗奈。
見ているこっちも幸せな気持ちになれる。
「あたしも七渡のおかげで常に元気だよ」
出会いもあれば別れもあるか……
高校生になったらどんな出会いがあるのだろうか。
今はまだ見当もつかない――
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