第49話

 帰宅していく中学生とすれ違いながら、コンビニの駐車場を目指す……。

 今日は、信号もスムーズだ。


 辿り着くのとほとんど同時に、マートの名前を呼んでいた。


「ハァ、ハァ、マート! マートーーッ!! お願い、返事して! マートーーッ!」


 声が枯れるほど、何度も呼んでみたけれど、マートからの返事は返ってこない。


(テレビに映ってた七色の光は、完全に破壊されてた……。それって、まさか……)


 もう、嫌な予感しかしない……。


「ワンワンッ!」


 今度はポチが、上にある公園に鼻先を向けている。


「あっ、公園?」


 そこからまたダッシュで、上がっていく……。


 息を切らしながら、公園の中をグルリと見渡した。

 まわりの木々は黄色に色付いていて、足元には黄色い絨毯が敷き詰められている……。


「ワンワンッ! ワンワンッ!」


 ポチが激しく示す方に、視線を向ける……。

 ベンチに、人影が……。


 マートだ!

 あの日と同じように、金色の髪にシルバーのつなぎを着たマートがそこに座っている。


「ルリーッ! ポチーッ!」


 私たちに気付いたマートが、立ち上がって近付いてくる。


「ワンワンッ」


 ポチが、マートの胸に飛び込んでいった。


「マート……」


 ずっと会いたかった人が、今、目の前に居る。

 会いたくて、会いたくて、それでも会えないと諦めていた人が、すぐ手の届くところに居る。


 嬉しくて、嬉しくて、涙が溢れてきた。


「マートーーッ!!」


 なりふり構わず、私も走っていた。


「良かった……。もう、会えないと思ってた」


 マートの目の前まで来ると、全身の力が抜けてしまい、私はヘナヘナとその場に座り込んでしまった。


「ルリ!?」


 マートが、ポチを抱いたまま心配そうに私を覗きこんでいる。


「マートでしょ! マートだよね! マートが地球の危機を救ってくれたんだよね? 七色に輝くあの光は、マートだもん!」


 声を絞りだすようにそう言うと、マートは笑顔で静かに頷いた。


「約束したから!」


「約束?」


「僕が、地球を守るって……」


「えっ、あの約束を守ってくれたの?」


「うん!」


(信じられない……、嫌われても仕方ないと思っていたのに……。どうして、あんな酷いことをしてしまった私なんかの為に?)


「私……、マートを信じられなかったのに? マートを傷付けちゃったのに?」


「聞こえてたから! パンドム星に帰る宇宙船の中で、ルリの声を聞いてたから! 僕の心の奥の奥のところも、ズキッズキッと苦しかった……。宇宙船から下ろして欲しいと騒いだけれど、もう無理だと仲間に止められたんだ」


「えっ! 私の声って、私があのコンビニの駐車場で叫んでてた声? あの時の私の声、マートに届いてたの?」


「うん!」


(驚いた! 声が届いていたことも……、私と同じようにマートが別れを悲しんでくれていたことにも……)


 思い出すのも苦しいほど最悪だった出来事が、かけがえのない出来事に変わっていく……。


「僕が、間違ってたんだ……。ポチは、ルリの宝物なのに……」


「マート……。私も、ちゃんとマートに分かるように伝えれば良かった。ほんに、ごめんね……。えっ、じゃあ、泣いてたのも、聞こえてた?」


「うん、聞こえてた……。ルリ! 僕は、地球を嫌いになったりしないよ! ルリの星は、僕の宝物だから! 宝物は、大切にしてずっとずっと守り続けること!」


「マート!」


 嬉し過ぎて、思わずマートに抱きついていた。

 我ながら積極的な女だと呆れてしまう。


「マート! 会いたかった! 凄く会いたかった!」


「僕も、ずっと、ルリに会いたかった!」


「クゥ〜ン」


「もちろん、ポチにも会いたかったよ!」


 ポチが嬉しそうに、マートの頰に鼻を擦り寄せている。


「マート、地球を守ってくれてありがとう! 凄く、凄く、嬉しい!」


「凄く、ウッキーウキーッ! それは良いね」


「うんうん、凄く凄くウッキウキーッだよ! だけど、ちょっと、過激だったね! 光がパーン! って割れてたし……、怪我しなかった?」


「うん、大丈夫! フォローシートは、こんなことになっちゃったけど」


 そう言ってマートは、ビリビリに引き裂かれたフォローシートを見せた。


「うわっ、ボロボロ……。これは、司令官とかに怒られちゃうんじゃない?」


「大丈夫だよ! パンドム星の仲間たちも協力してくれたんだ」


「えっ、マートの仲間が協力してくれたの?」


「うん!」


「凄い!! マートの仲間、どこに居るの? あっ、翔ちゃんや未来ちゃんも、マートに会いたいと思う!」


「今回は臨時便だから、すぐに帰らなければならないんだ。今、仲間たちも出発の準備をしている……。ショーやミクにも会いたいけれど、フォローシートもこんなことになっちゃってるから、急いで帰って修理に出さなきゃ」


「そっか……」


 ボロボロになったフォローシートを、二人で哀れむように見つめる……。

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