第30話

「うちの方から帰ってくれてありがとう! じゃあ、またね、バイバイ!」


 未来ちゃんがそのまま家に入ろうとすると、


「あっ、ミク、これ!」


 マートが引き留めて、自分の持っている緑色のヨーヨーを手渡した。


「えっ、だって、これ、マートの……」


「ミクのお兄ちゃんに渡して! ウッキウキーッ! とワックワクーッ! を、ありがとうございますって」


(えっ、マート……)


 マートの気遣いに、私は感動した。

 これが、親心というものだろうか?


(マートは、未来ちゃんのお兄ちゃんに、何かお礼がしたかったんだ……。チケットをくれた未来ちゃんのお兄ちゃんに、感謝してるんだ……。私なんて、ラッキー! くらいにしか思っていなかったのに……)


「うん、分かった! お兄ちゃんきっと喜ぶ! マート、ありがとう! じゃあね」


 未来ちゃんが、右手にオレンジ色のヨーヨー、左手に緑色のヨーヨーを持って、嬉しそうに帰っていく。


「じゃ、バイバイ!」


 ぎこちなく手を振りながら、マートもコンビニの駐車場の方へと帰っていった……。


 月明かりに照らされたいつもの道を、翔ちゃんと並んで歩く……。


「翔ちゃん! 今日はありがとね」


「おーっ! まっ、俺も楽しかったしな」


「うん! 私も、凄ーく楽しかった」


 翔ちゃんと居ると、なぜかとてもホッとする。

 喧嘩もするけど、超ポジティブな翔ちゃんにいつも助けられている。


「そう言えば、マートは、地球について何か調べたいことがあるって言ってたよなっ。いったい何を知りたいんだろ?」


 ゆっくりと歩きながら、翔ちゃんが考え込んでいる……。


「う〜ん、地球の引力とか? 地球の生き物とか? きっとすごーく難しいことじゃないかなぁ」


「そうだよな! まっ、俺達には分からないことなんだろうな」


「うん。私たちには想像もできないことだと思う」


「だよな。マートは、宇宙人だからな……。あ〜あっ、マートが地球人だったらいいのにな! そしたら、俺たち最強の親友になれるのになぁ」


 確かに、翔ちゃんとマートはどこか似ている。

 マートが普通の人間なら、きっといい友達になれるような気がする。


「でも、やっぱ、マートのことは大人には言わない方がいいな」


 翔ちゃんが深刻な顔で、私を見た。


「大人……。あっ!」


「えっ、何? まさか、誰かに言った?」


「言ったというか、会わせたというか……。実は、うちで夕飯を食べたことがあるの」


「えっ、まじで? じゃ、綾おばちゃんも知ってんの?」


「ママどころか、家族全員知ってる……。なんたって、うちの食卓に座ってハンバーグ食べてたから」


「えっ! じゃ、おじちゃんもマートに会ったの!! 大丈夫だった?」


「なんとか……。あっ、でも、マートが宇宙人だっていうことは、みんな知らない。ごく普通の外国人だと思ってる」


「そういうことか……」


「とにかく、おじいちゃんが、ちんぷんかんぷんなことばかり言ってたから、なんとか乗り切れたっていう感じ」


「ハハハッ、瑠璃んとこのじーちゃん、おもしれーからな」


「うん。あの性格は、けっこう役立つよ! うちには、必要なキャラだね」


「うちのばーちゃんも、瑠璃んとこのじーちゃんの話すると笑い転げてるもんな」


 二人でおじいちゃんの笑い話をしながら歩いていると、家の方から悲しげな遠吠えが聞こえてきた。


「ワオォ〜ン、ワオォ〜ン……」


 ポチだ。

 私の帰りを待っているらしい。


「翔ちゃん、寄っていく?」


「いやっ、俺もバンが待ってるから帰るわ、じゃっ」


 私が門に入るのを見届けると、翔ちゃんは自分の家へと走って帰っていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る