宇宙人の知りたいこと⑥
第31話
それからすぐに夏休みに入り……、私たちは時間の許す限りマートに会いにいった。
マートには課題のレポートもあり、忙しい日々を送っているというのは分かっていたけれど、どうしても会いたい! という気持ちの方が優先してしまっていた。
マートは時々、私の部屋にも現れる。
私がマートのことを考えた時と、マートが私の携帯で調べものをしたい時だ。
今も、翔ちゃんからもらった紺色のTシャツを着たマートが、ピアノの椅子に座って携帯に夢中になっている。
そういう時は、とりあえず私も机に向かって宿題に取り組むようにしている。邪魔するのは良くないと思っているからだ。
午前中の退屈な時間……。
ポチは、マートの足元でスヤスヤと眠っている。外から聞こえる蝉の声だけが、静かな部屋に響いていた。
(そろそろ、声掛けてもいいかなぁ?)
もう、勉強には飽きた。携帯があれば暇つぶしにゲームでも出来るけれど、マートの手の中にある。
私は、ドリルを閉じて振り返った。
「ねぇ、マート?」
「んっ?」
携帯を見つめたまま、マートが適当な返事をする。
(なんか、つまんない……。せっかく一緒に居るのに……。マートが調べてることって、そんなに大切なことなの?)
「ねぇ、マート! 地球について知りたいことって、まだ答えは見つからないの?」
開いている画面を覗き込みながら、急かすように言った。
「あっ、うん……。少しずつ見えてはきてる……。でも、納得のいく答えがどこにも載ってないんだ」
(携帯で調べても分からないなんて……。やっぱり、宇宙人と地球人のレベルは相当離れてるのかなぁ……)
「ねぇ、マートは何を調べてるの?」
聞いていいのかどうかずっと悩んでいた。私には分からないことだという雰囲気が漂っていたからだ。でも、一緒に居るのにいつも違うことを考えているこの時間は凄く淋しい。
「ルリ! 僕が何を調べてるのか聞いてくれるの?」
マートが、携帯から私に視線を移した。
「えっ、逆に、聞いて良かったの?」
「聞いて良いよ! そんなことに興味はないと思ってた」
(えっ、そんな風に思ってたの?)
「興味がないというよりは、きっと難し過ぎて分からないって思ってたから……」
「うん、確かに難しいと思う。でも、ルリに聞いてもらいたい」
「えっ、私に……?」
(この頼りない私を、頼ってくれるの?)
私はベッドに座り直して、マートと向かい合った。
「僕がどうしても知りたいこと、それは地球を覆っている光のバリアについてなんだ!」
チーンッ……。
(言ってる意味が、全く分かりません……)
「その光のバリアは、地球人が持っている愛のエネルギーで出来ているというところまでは分かっているんだ」
(愛のエネルギー……。あ〜っ、だから、愛という感情について聞いたんだぁ。ってことは、初めから私を頼ってくれてたの……)
「その光のバリアは、さまざまな色に輝く無数の粒子で出来ていて、それはそれは神々しい金色の光を放ってるんだ。だから、他の惑星人たちは神に守られている星だと信じて、地球を攻撃することは出来ない」
「そうなの?」
「ところが、最近、その光のバリアが薄くなっているところや無くなっているところが発生してるんだ」
「えっ! それって、地球が宇宙人に攻撃されちゃうってこと?」
「この銀河には、地球を欲しがっている惑星人もたくさんいるからね!」
(とんでもないことを聞いてしまった……。やっぱり、私が首を突っ込むような問題ではない)
「光のバリア……。愛のエネルギー……。それって、答えなんてあるのかなぁ?」
最初から諦めている私の言葉で、時が止まってしまった。
マートは、頼りない私に呆れているだろう……。
「お昼が出来たよーっ! マートくんもどうぞ」
おばあちゃんの呼ぶ声で、いきなり現実に戻された。
今日はマートが玄関から入ってきたから、ここに居ることを知っている。
「分かったーっ! 今、下りるねーっ」
大きな声で返事をすると、
「アマミヤおばあちゃんが、僕のことも呼んでくれたね」
マートが、嬉しそうに微笑んだ。
最近、マートは感情をリアルに表現するようになった。
考えてイメージをしているらしいけれど、私たちと同じように感じているようにも思える。
アマミヤおばあちゃん……。これは、うちのおじいちゃんが自らをアマミヤおじいちゃんと紹介したことから始まった。
マートは、パパとママのことも、アマミヤパパ、アマミヤママと呼んでいる。
「とりあえず、お昼食べよっか」
結局、マートの知りたいことには手付かずのまま、二人でリビングに下りていく……。
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