第32話

「さぁさぁ、どうぞどうぞ」


 おばあちゃんが、嬉しそうにマートを食卓に誘導する。

 テーブルの上には、涼しげなガラスの器に盛り付けられたそうめんが置かれていた。


「あっ、マートくんはそうめんなんて食べたことないかな? こうして、薬味をおつゆに入れて……」


 説明しながら、おばあちゃんがそうめんをツルッとすする。

 不思議そうに眺めていたマートも、おばあちゃんと同じようにそうめんをツルッと口に入れた。


「うわっ、冷たくて美味しいです!」


「あら、良かったぁ」


 マートの笑顔に、おばあちゃんも満足そうに微笑み返している。


 味が分かっているのかどうかは分からないけれど、マートは美味しいという言葉も使うようになり、突拍子もない発言は少なくなった。


「二人は仲がいいね〜。ずっとお勉強してたの?」


「うん! マートが地球のこと……、あっ、日本のことを色々と調べてるから」


 失言を誤魔化すように、私は大量のそうめんを一気に頬張る。


「違う国の勉強をするなんて、マートくんはえらいね〜」


 おばあちゃんが感心しながら、氷の入った三つのグラスに麦茶をカランカランと注いでいる。


「おばあちゃん、ロシアに行ったことはないけど、アメリカになら行ったことがあるよ。でも、言葉も食事も全く違うから、同じ人間だとは思えなかったね〜」


(そっか。おばあちゃんは、マートがロシア人だと思ってるんだ……)


「でも、おじいちゃんは、一生懸命に言葉を伝えようとしてたし、理解しようとしてた。違う国を理解しようすることは、凄いことだと思うよ。まっ、おじいちゃんは全部忘れちゃったみたいだけどね……」


「おじいちゃんがアメリカ人と会話してたなんて、なんか笑える」


「実は、凄く頼りになるんだよ。アメリカについてたくさんの本も読んでたし……」


「へぇ〜、信じられない。あっ、マートも私の部屋にある本は、もうほとんど読んじゃったよね」


「うん!」


「あれっ、マートくんは本が好きなの?」


「はい。本には知らないことがたくさん書いてあるから、面白いです!」


「あらっ、それなら、図書館に行けばいいんじゃない? 男の子向けの本もたーくさんあるわよ」


「そっか! そうだよね!!」


(なんで、気付かなかったんだろう? 図書館になら、光のバリア? や愛のエネルギー? が載ってる資料があるかもしれない!)


「おばあちゃん、凄い! マート、これ食べたら図書館に行こう! 本がいっぱいあるところ」


「本がいっぱい? それは良いね」


 急いで食事を済ませて、お気に入りの水色のワンピースに着替える。

 マートと二人で、学校の近くにある図書館に向かった。



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