第33話
炎天下の道を、宇宙人のマートと並んで歩く……。
「図書館はね、みんな真剣に読書してるから、うるさくすると怒られちゃうんだよ」
「へぇ〜、ルリは怒られたことあるの?」
「まぁ、二回ほど……。もう! そんな過去はどうでもいいから、話をする時はひそひそと内緒話のようにね! あっ、私の声はマートに聞こえるんだっ」
「うん! ひそひそ、内緒話……。なんか、ワックワクーッ! だね」
マートが楽しそうに、私の顔を覗き込む。
「う〜ん。ワックワクーッ! というよりは、シーーーーンッ! て感じ」
「シーーーーンッ?」
「そう! 凄い静か過ぎて、ちょっと息苦しくなるかも……。あっ、ほら、あそこ!」
レンガ色の建物が見えてきた。
そのビルの一階と二階が、市民図書館になっている。
「じゃ、入るからね」
図書館を知り尽くしているような顔で、私が先に自動ドアを超える……。
「はぁ〜っ……、涼し〜っ……」
そこは、もう別世界だった。
エアコンから吹き出る冷たい風を受けて、暫し幸せ感に浸る……。
もう、天国だ。
「ルリ! 中に入ろうよ」
入り口付近で止まっている私を、マートが急かす。
「マートは、この涼しさを感じないの? そう言えば、来る時も暑さを感じていなかったようだけど」
「僕たちは、自分の体温を調節することができるからね! いつでも同じ状態でいられるんだ」
「うわっ、やっぱり宇宙人って便利! でも、この幸せな感覚は味わえないんだね……。気温を感じない宇宙人と、気温の違いで気分も変わる地球人、いったいどっちが幸せなんだろう?」
「便利は良いし、幸せを感じられるのも良いよ! さぁ、早く」
「あっ、うん、分かった! この先は、ほんとーに静かにねっ」
一応マートに念をおしてから、受付を通り過ぎて中へと入っていった。
「凄いっ!」
巨大な本棚に並べられている本を見上げ、マートがブルーの瞳を輝かせている。
「これ、全部読んでいいの?」
「あっ、うん!」
全制覇する気満々のマートが、難しい本が並ぶエリアに引き寄せられるように歩いていく……。
私にとっては、未知のゾーンだ。
「あっ、マート、ちょっと待って!」
とっさに、マートを呼び止めた。
「自分の読みたい本を選んだら、二階の読書コーナーで待ち合わせね」
マートの耳元で、ひそひそと用件を伝える。
「うん、分かった」
マートも、私の耳元で囁いた。
(…………えっ)
ドキッとした。耳から頰が火照っていくのが分かる。
湧き起こるよく分からない感情を振り払いながら、マートの背中を見送る。
(ひそひそ話、近過ぎるわっ……)
動揺しながら、一人で階段を上がっていく……。
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