第34話
「私も、読書感想文用の本を選んじゃお」
そのまま、児童書コーナーに向かった……。
大きな窓があるせいか、その一角はとても明るい。
その場で本を開いている小さな女の子と、急いで本を選ぼうとしている小学三年生くらいの男の子が居る。
「どれにしよっかなぁ」
今年の課題図書は、既に誰かが借りているようだ。
迷いながら歩いていると、一冊の本が目に止まった。
〝宇宙同盟守り隊〟
マートと出逢ったせいか、やはり宇宙のことはとても気になる。
夜空に輝く、幾つもの星……。
水星、金星、火星、木星、土星……。マートの住むパンドム星だってある。
(宇宙同盟って……、どういう同盟?)
すぐに手に取った。
今年の読書感想文は、これに決まりだ。
〝宇宙同盟守り隊〟を抱えて、読書コーナーにある茶色いソファに腰を下ろした。
(まだかなぁ? もしかして、ここが分からないのかなぁ……)
待ち疲れて立ち上がると、大量の本を抱えて階段を上がってくるマートが見えた。
(マート、こっちこっち!)
心で、言葉を送る。
こんな場面では、とても便利な手段だ。
「ふぅ〜っ」
大量の本をテーブルの上に置いてから、マートが私の隣りに座った。
(そんなに読む気?)
私の心の声に、マートが笑顔で頷いている。
〝愛から始まる物語〟
〝その生き物の名は、愛〟
〝愛され方を身に付ける方法〟
〝愛……〟
〝……愛〟
ザッと二十冊はある。テーマは、〝愛〟に絞られたらしい。
(結局、愛について知りたいの?)
「うん。愛というエネルギーが分かれば、僕の謎は全て解けると思う」
マートが、再び耳元で囁いた。
「わっ!」
思わず声が洩れてしまった。
もう、心臓が止まりそうだ。
真向かいに座っている若い男の人と、本棚の整理をしていた職員のおばさんが、迷惑そうに私を見た。
「あっ、すいません……」
口パクで謝り、その場をなんとかおさめる……。
「大丈夫?」
またまた、マートが耳元で囁く。
(だ、大丈夫だから! 気にしないで、早くその本を読んで! 時間がなくなっちゃうから)
また、叫んでしまいそうな声を抑えながら、言葉を送る。
「分かった」と目で合図をしてから、マートは一冊目の本を読み始めた。
夢中になっているから、もう私の心の声は聞こえない。
(なんで、マートの隣りに居るだけで、こんなに心臓が苦しくなっちゃうんだろう? 翔ちゃんや未来ちゃんが隣りに居ても、全然平気なのに……)
改めて、マートの横顔を見つめる。
(だけど、ほんとにカッコイイなぁ……。この真剣な目付きが、メチャクチャイケメン!)
うっとりしながら見惚れていると、いきなりマートが私の方を見た。
(えっ?)
「一冊、読み終わった」
「嘘でしょーーっ!!」
驚きのあまり、思いきり声をあげてしまった。
先ほどの男の人とおばさんが、鋭い目付きで睨み付けてくる。
私は申し訳なさそうに下を向きながら、マートの持っている本を確認した。文字数もかなり多いし、300ページはある本だ。
(5分も経ってないのに、速読よりも凄技だ……。このペースなら、本当にここにある本を全部読み尽くしてしまうかもしれない)
改めて、スーパー宇宙人のマートをまじまじと見つめた。
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