宇宙人が学校に来る④

第19話

「はいっ、それでは、雲の色や種類の違いが分かる人、居るかな?」


 二時間目、理科。

 担任の望月もちづき先生が、フレンドリーに問い掛けてくる。

 生徒達に人気のある、若い男の先生だ。


 私は授業よりも、先生の後ろにある時計の方が気になっていた。

 間もなく10時! 

 マートとの約束の時間だ。


「今日の、空は〜」


 先生が、窓の向こうに目を向けた。

 雲に関心のない生徒たちは、ほとんど話を聞いていない。


「入道雲がっ……」


 先生の動きが止まった。

 正門のすぐ隣りに立っている、大きな木を見つめている。


 私も、先生の視線を辿る……。


(あっ、あの七色の光……。マートだ!)


 フォローシートを纏っているからマートの姿は見えていないけれど、明らかにUFOと思える光る物体が、木の上で待機している。


 廊下側の席から、未来ちゃんもマートを確認したようだ。

 私が頷くと、未来ちゃんも頷く……。

 これが、作戦スタートの合図だ。


(マート! 未来ちゃんが嘘つきじゃないってこと、証明してね!)


 マートに伝わるように心でそう願ってから、私は大きな木のてっぺんを指差して叫んだ。


「あっ、あれ!!」


 先に異変に気付いていた先生が、「なんだ、なんだ!」と、一番になって教室の窓に駆け寄っていく。

 それに続くように、クラスメートたちが一斉に窓の方へと移動した。


(マート、お願い!)


 マートに全てを託すように、心で叫ぶ。


 それに応えるように、マートが七色の光を更に強く輝かせてみせた。


「えーっ!」

「おーーぅ!!」


 先生も、クラスメートたちも、マートが放つ光に釘付けだ。


 七色の光が美しく輝きながら、眩しい空にスッと垂直に上がった。


「嘘ーっ!」

「まじでーっ!」


 クラスメートたちは声をあげながら、空を見上げている。


 それからマートは、公園で私たちに見せたように、ススッ、スススッと、ジグザグに飛びまわってみせた。


「UFOだーっ!」

「あれっ、UFOだよねっ!」


 みんながそう叫んだ時、


「ユ、ユ、ユ、UFO!?? 嘘だろーっ!」


 未来ちゃんを嘘つきだと言ってバカにしていた大地が、窓にへばり付いて膝から崩れ落ちている。

 先生は携帯を取り出して、真顔で動画を撮り始めた。


(マート、作戦大成功! ありがとーっ!)


 再び心で叫ぶと、七色の光は円を描くように空高く舞い上がり、あっという間に姿を消した。


「えっ? 消えたっ」

「どこ? どこに行ったのーっ」


 キョロキョロと、空を見まわすクラスメートたち。


「あれっ、あれあれ、映ってなーいっ!」


 動画を確認していた先生が、今にも泣きそうな顔で叫んでいる。


「でも、みんな見たよな!」


 先生が共感を求めるように、生徒たち一人一人の顔をまじまじと見つめている……。


「見ましたーっ!」

「俺も、見た!」

「まじで、UFOだったーっ!」


 全員、UFOの存在を確信したようだ。

 未来ちゃんが、嬉しそうに私を見た。私も、未来ちゃんに抱き付きたいくらいに嬉しい。


「まっ、先生は、UFOや宇宙人は居ると、子供の頃からずっと信じてたけどなっ」


「俺も信じてた!」

「私も、星野さんが言ってたUFOが着地した跡の話も本当じゃないか! って思ってたーっ」


 急に風向きが変わった。

 UFOの存在を信じるという、みんなのスタートボタンが押されたのだろうか……。


「だけど、ここに居なかった人達には信じて貰えないだろうな。動画も撮れてないし、トホホ……。でも、いいんだ! 人になんと言われても、UFOは居る! この目で見た!」


 弱気なのか、強気なのか、先生が興奮状態で熱く語っている。


 そんな中、一組の方からも歓声が聞こえてきた。

 翔ちゃんも同じように、クラスのみんなにマートの熱演を見せたのだろう……。

 一組の生徒たちも、翔ちゃんを信じるというスタートボタンが押されたに違いない。















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