第18話

「感情……、それを知れば、僕が知りたかったことに近付いていけるのかもしれない……。ところで、愛っていうのは、どんな感じなんだろう?」


 マートが、真剣な顔で私に答えを求めてくる。


「えっ! 愛って……。あの、愛してるとか、愛されてるとかの、愛?」


「うん! 愛してるとか、愛されてるとかの、愛!」


「そ、それは……、もっと大人にならなきゃ分からないよ!」


(急に、何を言いだすの! こんな二人だけの空間で、愛とか、愛してるとか……。もーっ、こっちが照れるじゃない! あっ、今は心を読まないで!)


「分かった!」


(あっ、分かったんだ! 素直に応じてくれるんだ!)


「愛は……、照れる」


「全然、分かってないじゃない!」


 鈍感なマートの言動に一人で空回りしていると、開いていたドアの隙間からポチが入ってきた。


「あっ、ポチ! さっきはごめんね〜」


「クゥ〜ン、クゥ〜ン」


 ポチが、私の足元に擦り寄ってくる。


「そうだ! この気持ちが、愛っていう感情だ! 私は、ポチのことを愛してる! 可愛いくて、可愛くて、ムギューッって抱き締めたくなる感じ!」


 ポチを両手で抱きあげて、頬を寄せたり鼻キスをしたりして、愛しい思いを思いっきり表現する。


「愛は……、可愛いくて、可愛くて、ムギューッって抱き締めたくなる」


 そう言いながら、マートが私の方に近付いてきた。

 ポチを受け取って、瞳で何かを語り掛けている。


「ポチも、瑠璃を愛してるって言ってる。僕のことも!」


「クゥ〜ン、クゥ〜ン」


 ポチは、すっかりマートに懐いているようだ。


「ほんと? ポチがそう言ってるの! メチャクチャ嬉しいーっ」


 マートに抱かれているポチの頭を、クシャクシャッと撫でる。


「愛……、今はそんな感じかな? 大人になったら、また変わるかもしれないけど」


「えっ、変わるの!!」


 私の言葉に、マートの動きが止まった。


(この驚きはなに? そんなに衝撃的なこと?)


「だって、まだよく分からないもん」


「変わってしまったら、誤差が生じてしまうよ!」


 ポチを抱いたまま、マートが混乱している。


(どういう意味? コンピューターじゃないんだから……)


「あっ、そうだ!」


 私は充電中の携帯を手に取り、アプリを開いて見せた。


「これで検索すれば、だいたいのことは分かると思うよ」


 そう説明しながら、マートを学習机に座らせる。

 私はポチを受け取ってから、またベッドに座り込んだ。


「愛とは……、いつくしみ合う心、男女間の愛情、恋愛……」


 マートが、淡々と読み上げている。


(よく、そんな平気な顔で読んでいられるなぁ。こっちが恥ずかしくなる……。あっ!)


 一瞬、心を読まれると警戒した。

 けれどもマートは携帯画面に夢中で、何も反応しない。

 どうやら、何かに取り組んでいる時は心を読まれないらしい。


 少しだけホッとして、まじまじとマートの横顔を覗き込んだ。


(だけど、本当にイケメンだなぁ……)


 思わず見惚れてしまう。


「ルリ! ありがとう。なんとなく理解出来たよ」


 いきなり目が合った。


「わっ、良かったね」


 慌てて視線を逸らし、ベッドのシーツを整える振りをする。


「じゃあ、明日頑張るから!」


 マートが、張り切って立ち上がった。

 明日、未来ちゃんが嘘つきではなかったということを証明する。


「うん、よろしくね! 午前10時に、学校に来てね!」


 午前10時〜11時は、パンドム星の宇宙船が調整に入る時間帯らしい。

 レーダーに映らないように! ということで、その時間に決めている。


「了解!」


 言葉と同時に、マートが消えた。


(えっ、またワープ? そう言えば、帰り方、教えてなかったっけ……。あっ、でも、今日は、玄関から帰ってもらうのはまずいかぁ)


 ポチも、私を見つめて首を傾げている。


「この現象、やっぱり慣れないよね」


「ワンッ」


 暫くの間、ポチを抱いて頭の中を整理していた……。


















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