第17話

「だけど、今日は本当に驚いた! あんな布で、空飛んじゃうなんて、もーっ、びっくりだよ!」


 公園での感動が蘇り、私のテンションは上がっていく……。


「フォローシートを纏って強く念じると、光のバリアが出来るんだ。光になれば、自由自在に飛ぶ事が出来る!」


 マートの方は、冷静に淡々と説明している。


「凄いよ! 凄過ぎるよっ! そんな優れものを持ってるのに、どうして宇宙船になんてしがみ付いて来たの?」


「さすがに、パンドム星からこの地球まで、フォローシートだけで来るのは不可能なんだよ。だから、宇宙船の足になる部品に、ずっとしがみ付いて来たんだ!」


「えっ、宇宙船の足? ほんと、無謀過ぎる……」


 命懸けのその行動に、唖然としてしまう。


「宇宙空間は問題なかったんだけど、大気圏に入る時の衝撃が想像以上に激しくて……。バリアが狂って、着地にも失敗してしまったんだ」


「あ〜っ、それでコンビニの駐車場に穴が開いたんだ〜」


「あのミスを、ショーやミクに目撃されてたなんて……」


「未来ちゃんは、光る物体まで確認してたからね……。でも、私はちょっと未来ちゃんを疑ってたんだ〜」


「ミクを、疑ってた?」


「うん! 未来ちゃんの言ってることを、信じられなかったの……。あっ、信じる気持ち、マートには分からないかぁ」


 少し、大人ぶってみた。


「分かるよ!」


「えっ!」


「信じるは、スタートボタンみたいなものでしょ?」


「スタートボタン?」


(意味が分からない……。やっぱり、宇宙人の頭の中は理解できない……)


「意味が分からない? うん、そうだなぁ……。あっ、テレパシーもそう! 相手を信じられなければ、心を読み取ることはできないんだ」


「えっ、そうなの! じゃあ、マートは私を信じてるの?」


「僕はルリを信じてるし、ルリも僕を信じてる……。初めて会った時、僕が困っていると言ったら、一緒にフォローシートを探してくれたじゃないか」


「あっ、そうだったね」


「信じる気持ちがなければ、何も始まらない。信じられない相手とは、テレパシーの交換もできないんだ!」


「なるほどね〜。だから、スタートボタンなんだぁ」


 マートの言っているその意味が、少しだけ理解できたような気がした。


「ショーやミクも、僕の言ってることを全部信じてくれた!」


「あっ、うん! 未来ちゃんはクラスの男子にいじめられてずっと悲しそうだったけど、今日はすっごく楽しそうだった」


「カナシイ? タノシイ?」


「あっ、そっか! そういうことは分からないんだ……。悲しいっていうのは……、この心の奥の奥のところが、ズキッズキッと苦しくなるっていう感じ!」


 胸に手を当てて、苦しみを思いっきり表現してみる。


「カナシイは、心の奥の奥がズキッズキッと苦しい」


 マートがまた、例のボイスレコーダーに吹き込んでいる。


「うん! で、楽しいは〜、もう心が、ワックワクーッ!っていう感じかな」


 またもや胸に手を当てて、精いっぱいの楽しいを表現する。


「タノシイは、心がワックワクーッ!」


「そうそう! そんな感じ! そっか、マートは感じることが出来ないんだね……。信じるっていうことが分かるのに、そんな普通の感覚が分からないなんて、謎過ぎるよ!」


「カンジルこと……。うん! そうだ! それが、感情だ! 感情は、地球人だけが持っている特別なものなんだ!」


「そうなの? パンドム星人には、感情はないの?」


「ないよ! 全て、頭で処理してる。知能のレベルは、地球人より遥かに高いけどね」


「まぁ、そうでしょうね〜」


 褒められているのか、バカにされているのか、もうよく分からない……。

 でも、マートが、表情を変えることなくいつでも大人のような話し方をする訳が、少し分かったような気がした。




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