第24話

 のんびりとした民謡と、威勢の良い太鼓の音が近付いてきた。

 いつも真っ暗な神社が、提灯の明かりや出店のライトで煌々と照らされている。

 まわりの浴衣姿も、いつのまにかに増えていた。


「この音楽は、どういう意味なの?」


 マートが、隣りを歩いている翔ちゃんに質問している。


「えっ、意味? 単なる盆踊りの曲、だよなっ」


 翔ちゃんが、自信なさげに振り返った。


「盆踊りの曲は……、えっと、日本の……、昔の……」


 いつでも真剣に考える未来ちゃが、どう応えたら良いのか頭を悩ませている。


 実は、こうなると思って、お祭りについては少し調べておいた。

 けれども、まさか、盆踊りの曲について聞いてくるとは……。


「マート、あのね……。お祭りっていうのは〜、神様やご先祖様に感謝や祈りを捧げる儀式なんだよ、あっ、先祖っていうのは、私たちのひいお爺ちゃんやひいお婆ちゃん、そのまたお爺ちゃんやお婆ちゃん、その前もずーっと続いているお爺ちゃんやお婆ちゃんたちのことで、それで、盆踊りの方は……、見れば分かると思う!」


「瑠璃ちゃん、凄い! よく知ってるね」


 こんな中途半端な解答でも、未来ちゃんは誉めてくれる。


「まっ、見れば分かるよ」


 結局、翔ちゃんも、私と同じことを言った。


(盆踊りの曲も、ちゃんと調べておけば良かった……。もっとカッコ良く応えるつもりだったのに……)


 悶々としながら鳥居を潜ると、紅白の垂れ幕が掛かったやぐらが見えてきた。

 同じ柄の浴衣を着た町内会の大人たちが、輪になって楽しそうに踊っている。


「なるほど、神様やご先祖様に、私たちは楽しく生きてます! ありがとうございます! そういう思いで踊ってるんだね」


 マートが、模範解答のような答えをサラッと述べた。


「あっ、そうかも」

「そうだね」

「そうだよ!」


 いつも何も考えずに踊っていたとは言えずに、三人揃って同意する。


「俺、もう腹ペコ! とりあえずなんか食おうぜ」


 翔ちゃんの提案に、


「そうしよ、そうしよ!」


 みんな大賛成だ。

 そして、私の一推しはたこ焼きだ。


「マートは、何を食べたい?」


 未来ちゃんが、まずはマートに聞いている。


(あっ、そうだった。お祭り初心者なのに、マートのことを気にするのを忘れてた!)


「僕は、あれを食べてみたい!」


 マートが指差したのは、焼きそばの屋台だ。


 このお祭りでは、子供会の方から事前にチケットが配られている。

 マートは持っていないから、私は半分ずつにしようと思っていた。

 焼きそばとたこ焼きは、どちらかを選ぶことになっている。


(たこ焼きを、諦めるしかないかぁ……)


 少しがっかりしていると、未来ちゃんが巾着袋から、チケットの束を二つ取り出した。


「はいっ、これ、マートの分!」


 輝かしいそのチケットの束を一つ、マートに手渡している。


「えっ、なんで二つ持ってんの?」


 翔ちゃんが、ストレートに質問する。


「お兄ちゃんの分、貰ってきたの」


(あっ、そっか……)


 一学年年上の未来ちゃんのお兄ちゃんは、小学三年生の頃から引きこもり生活を送っている。だから、こういうイベントにはほとんど参加していない……。

 そのことで、未来ちゃんは一時いじめにも遭っていた。

 私自身も遊んでもらったことのある優しいお兄ちゃんだ。深い事情は聞いていないけれど、学校に来ないなんてよほどのことがあったに違いないとは思っていた。


 そんな辛い状況に居る訳で、未来ちゃんも大変な思いをしているのだけれど……。

 今は、このチケットがとてもありがたい。


「僕が、貰ってもいいの?」


「うん! お兄ちゃんは興味がないから、いらないって……。だから、瑠璃ちゃんの親戚の子にあげるねって言って貰ってきたの」


(良かった〜。これで私は、たこ焼きが食べられる!)


 結局、翔ちゃんとマートは焼きそばを、私と未来ちゃんはたこ焼きを買いに、それぞれの屋台に向かった……。

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