第25話
屋台のおばさんが、こんがりと焼きあがったまん丸のたこ焼きを、プラスチックの容器に並べていく……。ソースとマヨネーズをとろ〜りと掛けて、かつお節と青のりをパラパラッとふりかけた。
「お姉ちゃんたち、落とさないようにしっかり持つんだよ!」
「はーい! ありがとうございまーす!」
笑顔でたこ焼きを受け取り、未来ちゃんと一緒にもと居た場所に戻る……。
「ルリーッ! ミクーッ!」
翔ちゃんとマートが、石段の上の方から手を振っていた。
マートに名前を呼ばれて、なぜだか凄く嬉しくなる……。
「今、行くねーっ!」
たこ焼きを落とさないように気をつけながら、石段を上がっていき、マートの隣りに座った。
「おいひぃ〜!」
熱々のたこ焼きを頬張りながら、暫し幸せに浸る……。
一時は危うい状況だったが、なんとかたこ焼きにありつくことが出来た。
マートはというと、反対側に座っている翔ちゃんの様子を伺いながら、焼きそばを箸に巻きつけて食べにくそうに口へと運んでいる。
その様子に気付いた翔ちゃんと未来ちゃんは、さりげなくマートの反応を見守っている……。
「ツルツルとした小麦粉が、全ての素材を吸収していて良いね!」
期待通り、成分にこだわったコメントだ。
マートは、味や匂いが分からないのだろうか?
「えっ、ツルツルとした小麦粉?」
未来ちゃんが、食べる手を止めて聞き直した。翔ちゃんの頭からも、クウェッションマークがいくつも飛び交っている。
(そっか。二人は、マートのことをよく知らないんだよね……)
マートについて、少し説明しておかなければ! と思った。
「マートは、なんでも頭で考えてるんだよねっ」
同意を求めるようにマートを見ると、マートが自分で説明を始めた。
「うん、そうなんだ! 僕は、全てを頭脳で処理している。だから、地球人が持つカンジョウも無いし、何かを感じることは出来ないんだ」
「感情が、無いのか……。でも、頭脳で処理するなんて、やっぱすげーな! さすが、宇宙人!」
翔ちゃんがマートに、尊敬の眼差しを向けている。
「でも、ルリが教えてくれたから、パターンは分かるようになったんだ……。嬉しいは、心がウッキウキーッ! っていう感じだよね!」
「えっ! ウッキウキーッ?」
未来ちゃんが、キャッキャと笑いだした。
「確かに、説明するとそんな感じかもね。じゃあ、楽しいは? 瑠璃ちゃん的には、どういう感じ?」
お腹を抱えながら、マートに聞いている。
「タノシイは、もう、心がワックワクーッ! っていう感じ」
私が教えた通り、胸に手を当てて、マートが楽しいを思いっきり表現している。
翔ちゃんまでもが、プッと吹きだした。
「まっ、そうだけど……。でも、そんなこといちいち頭で考えるなんて、なんか面倒くせーな!」
翔ちゃんと未来ちゃんの、笑いのツボにハマってしまったらしい。
「じゃ、悲しいは?」
翔ちゃんが面白がるように、また聞いた。
「カナシイは、この心の奥の奥のところが、ズキッズキッ! と苦しくなるっていう感じ!」
マートがまた胸に手を当てて、悲しいを表現している。
(パーフェクトだ! 全て、私が教えた通りに覚えてる……)
「プッ、プププッ、瑠璃に教えてもらったんだ〜」
「キャハハーッ、もう瑠璃ちゃん最高!」
私の表現がおかしいのか、マートの仕草がおかしいのか、二人が涙を流して笑いまくっている。
ふと見ると、マートも笑っていた。
(えっ、マートの笑顔、初めて見た!)
不思議な感動で、たこ焼きを味わうことすら忘れていた。
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