第26話

「僕、あの踊りやってみたいな!」


 マートが、盆踊りの輪を指差して言った。


(えっ、宇宙人が、盆踊り? 謎過ぎるよ!)


 突拍子もない発言に唖然としていると、


「うん、踊ろう! けっこう楽しいよ」


 未来ちゃんが、張り切って立ち上がった。


「そ、そうだね。みんなで踊ろっか」


 なんだかよく分からないけれど、未来ちゃんに続いて私が立つと、マートも勢いよく立ち上がった。


「まっ、マートがそう言うなら……」


 あまり乗り気ではない翔ちゃんも、ゆっくりと立ち上がる。

 私たちは盆踊りの輪を目指し、人を避けながら石段を下りていった……。


 未来ちゃんを先頭に、私、マート、翔ちゃんの順で、踊りの輪に加わった。

 町内会の人たちの踊りを真似ながら、音頭に合わせて進んでいく……。


 すぐ後ろに居るマートが気になり、振り返った。


「マート、大丈夫?」


「うん。これ、楽しいね! ワックワクーッ! だね」


 マートが、ロボットのようにカチカチな振りで踊っている。


(……えっ。踊りは、あまり得意じゃない?)


それでもマートは、楽しそうに笑っているように見える。


(なんか、なんか嬉しい! マートのこの笑顔、私、好きかも……)


 そう思ってから、気付いた!


(しまった! マートは、心の声聞こえちゃうんだ!!)


 慌てて、


(違うよーっ! 私は、なんにも考えてないよーっ。ねぇ、マート、聞こえてる?)


 心で叫んでみた。


 幸い、マートに、私の心の声は聞こえていないようだ。

 何かに夢中になっている時、他に誰かが居る時は、やはり心を読まれていないらしい……。

 おそらく、マートが私に集中している時だけ、聞こえているのかもしれない。


 少しホッとしていると、未来ちゃんが踊りながら振り返った。


「瑠璃ちゃん! マート、楽しそうだね。感情がないなんて、嘘みたい」


 未来ちゃんも、マートの笑顔に気付いているようだ。


「うん。ほんと、楽しそう!」


「瑠璃ちゃんが一生懸命に教えてあげたから、マートにも感情が分かるようになったんじゃない?」


「えっ、そうかなぁ? そうだったら、嬉しいけど」


「私も、嬉しい! 今、最高に楽しい!」


 未来ちゃんが三日月型の目をして、幸せそうに笑った。


(未来ちゃんのこの笑顔も、大好き!)


 盆踊りを踊るのは、幼稚園の時以来だ。

 小学生に上がってからは出店に夢中で、踊るということをすっかり忘れていた。


「他にも、色々遊べるもんとかあるんだぜ!」


 背後で翔ちゃんの声がした。

 マートを誘うようにそう言って、踊りの輪から一抜けしている。


「ほんと?」


 マートも、翔ちゃんを追うように抜けていく……。


「えっ、マートが踊りたいって言ったのに、そんなあっさり止めちゃう?」


 拍子抜けして、未来ちゃんと顔を見合わせた。


「瑠璃ちゃん、私たちも行こう!」


「あっ、うん!」


 結局、私達も踊りの輪を抜けて、翔ちゃんとマートのあとを追い掛けた。










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