宇宙人とお祭り⑤

第23話

 鮮やかな水色の浴衣に袖を通し、満足そうに鏡を見つめる。


「瑠璃! 綺麗だね〜。凄〜く、似合ってるよ〜」


 帯を締めながら、鏡の中のおばあちゃんがクシャッと微笑んだ。


「うん! 凄く、いい!! おばあちゃん、ありがとーっ!」


 ママに結ってもらったポニーテールも、バッチリ決まっている。


「瑠璃! 行くぞーっ」


 相変わらず、約束の時間より早い翔ちゃん。


「今、行くーっ!」


 おばあちゃんに後ろ姿を整えてもらいながら、巾着袋を持って部屋を出る……。


「じゃ、行ってくるね」


 玄関に下りて下駄を履こうとすると、ポチが足元でうろつき始めた。


「あっ、ごめんね! 今日はポチを連れていけないの」


「早く、早く!」


 普段と変わらない服装の翔ちゃんが、玄関ドアを開けたまま急かしてくる。


「クゥ〜ンッ、クゥ〜ンッ……」


 玄関マットの上で、敷物のように伸びきったポチが淋しそうに鼻を鳴らす……。


「ポチ、ごめんな! 今日は、バンも留守番だ。お前ら連れていったら、潰されちゃうからなっ」


 翔ちゃんの言葉を納得したのか、ポチが恨めしそうな目で見送ってくれた。


「俺、ヨーヨー釣りは絶対にやる!」


「いいね、いいね〜っ! 私は、たこ焼き食べたい!」


 日が暮れ掛けた道を翔ちゃんと二人で歩いていると、薄暗い大通りで待っているマートの姿が視界に入った。


「あっ、マートだ! マートーッ!」


 声をあげながら手を振っていると、


「マート! マート、マート!」


 翔ちゃんが先に走りだした。


「えっ、翔ちゃん待って!」


 急いで、そのあとを追う。


「マート! この前のあれ、まじでカッコ良かったよ! 校庭に、UFOが現れるなんてなっ」


 そう言いながら、翔ちゃんは馴れ馴れしくマートの肩を抱き寄せている。


「みんな、すげー驚いてさぁ、翔の言ってたことは本当だったんだなって……。俺、もう、あの時はヒーローだったんだぜっ」


 翔ちゃんは、興奮するとまわりが見えなくなる。


「あ、ありがとうございます!」


 マートが、翔ちゃんを見て言った。

〝ありがとうございます〟は、困った時に使うようにと、私がマートに教えた言葉だ。


「翔ちゃん! いきなり一気に話したら、マートがびっくりするじゃない」


「あっ、ごめん、ごめん」


 一応、マートを助けたつもりだ。

 翔ちゃんはハッとした顔で、マートと私を交互に見つめている。


「大丈夫だよ! ショーがヒーローなったなら、それは良いね!」


「まぁな」


 マートの言葉に、珍しく翔ちゃんが照れている。


「マート、もう大丈夫なの? 疲れは取れた?」


 マートの身体を気遣うと、マートの視線がようやく私に向いた。


「全てリセットしたよ! 今日のルリは、凄く良いね!」


「えっ……」


 マートに褒められて、私も思いっきりテンションが上がる。


(でも、単に浴衣を気に入ってるだけかもしれない。マートに、感情はないのだから……。だけど、凄く良いって、なんか嬉しい)


 翔ちゃんは見慣れているせいか、私の浴衣姿には無関心だ。


「マートはいっつも、そのグレーのTシャツ着てるよな」


「うん。地球人のファッションはこれしか知らないんだ」


 私の浴衣より、マートの服装に興味津々になっている。


「今度、俺のTシャツ持ってきてあげるよ! すげー、カッコイイやつ」


「カッコイイTシャツ、良いね!」


 マートに良いと言われて、翔ちゃんが張り切っていると、


「みんな〜、遅くなってごめんね〜」


 ピンク色の浴衣で、ツインテールに髪を結った未来ちゃんが走り寄ってきた。


「わぁ、瑠璃ちゃんモデルみたい!」


「未来ちゃんも、凄く可愛い!」


 女同士、お互いの浴衣姿を褒め合う……。


「ミクも、今日はとても良いね!」


 マートが、未来ちゃんの浴衣姿も褒めた。


(なんだか、複雑……。未来ちゃんが褒められたら、嬉しいはずなのに……。私は凄く良いで、未来ちゃんはとても良い? 凄くととてもは、マート的にどう違うんだろう?)


 未来ちゃんも嬉しそうに、顔を赤らめている。


「もう、そんなことどうでもいいから、早く行こうぜ!」


 無神経な翔ちゃんに急かされ、コンビニに背を向けるように歩きだし、私たちは学校の近くにある神社に向かった……。








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