第22話

 息を切らしながら公園を見渡すと、木陰のベンチに座っているマートが視界に入った。


「ワンワンッ!」


 ポチに誘導されるように、マートに近付いていく。


「ポチ!」


 そう呼んでマートが手を広げると、ポチがしっぽを大きく振りながら飛び込んでいった。

 マートの方は相変わらず無表情だけれど、形は覚えたのか、ポチを抱きしめて頭を撫でている。


「さっきは、ほんっとにびっくりした! だけど、いつもはどうしてるの? コンビニの人に怪しまれない?」


 マートの顔を覗き込みながら、私も隣りに座った。


「いつもは、姿を消してからシェルターに出入りしてるんだけど、さっきは睡眠中でうっかりしてた!」


「そっか、寝てたんだもんね……。昼間は、ずっと起きてるって思ってた」


「いつもは起きてるけど、今日はフォローシートを使ったせいか凄く疲れてて……。寝るというよりは、エネルギーを充電していたという感じかな?」


「うん、そうだよね! あんなわざを披露してくれたんだもんね。疲れてて当然だよ! 起こしちゃって、ごめんね」


「ルリは知らなかったんだから、謝ることじゃないよ」


 そう言いながら、マートがポチに頬ずりをしている。


(ちゃんと、私の気持ちを考えてくれるし、ポチを可愛いがってくれる……。マートに感情がないなんて、とても思えない)


「あっ、そうそう、大事なこと忘れてた! 今日は、本当にありがとう……。未来ちゃんも凄く喜んでて、マートにありがとうって伝えて欲しいって」


「ミクが喜んでた……、それなら良いね!」


「うん! 意地悪してた男子たちも未来ちゃんに謝ってたし、私もすごーく嬉しかった」


「ミクの事なのに、どうしてルリが嬉しいの?」


「えっ、それは……、親友だから」


「シンユウ?」


「うん! 親友っていうのは〜、すっごく仲良しで、すっごく大好きな友達のこと!」


「シンユウは……、すっごく仲良しで、すっごく大好きな友達……」


(あっ、マートには親友も居ないのかなぁ?)


「シンユウも、居ないよ! パンドム星人は、みんな仲間だけどね」


「仲間かぁ……。まぁ、それもありだよねっ。じゃあ、私がマートの親友ね! 地球でたった一人の、マートの親友!」


「ルリが、僕のシンユウ……。うん、それは凄く良いね!」


(やった! なんか、嬉しい。なんでだろう? 性格も分からないし、何かを感じる気持ちも持っていないのに、マートと一緒に居る時間がとても大切に思える……。あっ、この声聞こえてるんだ!)


「聞こえてるよ! 僕も、ルリと一緒に居る時間がとても大切だよ」


(待って! もう、心を読まないで! そんな風にに言われたら、もう胸キュンだよーっ)


「ムネキュン?」


「あっ、いいのいいの! そこはもう、分からなくて……。そんなことより、近くの神社で夏祭りがあるんだけど、一緒に行かない?」


(あれっ、お祭りって、なんて言えば伝わるんだろう?)


「週末にある夏祭り、知ってるよ! コンビニのポスター見たから」


「あっ、そんな具体的に知ってたんだ……。未来ちゃんがね、マートと一緒に行きたいって言ってたの。それから、翔ちゃんも誘おうかなって思ってる!」


「是非、お供させて頂くよ! なんだか、凄く気になってたんだ」


「それなら良かった! すっごく楽しいから、期待してて」


「タノシイ……。ワックワクーッ! だね」


「そうそう! ワックワクーッ!」


 マートと一緒に過ごす夏祭り……。

 最初で最後かもしれないけれど、凄く、凄く、待ち遠しい。




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