第21話

「ただいまーっ!」


 手洗いうがいをしてから、急いで二階へと駆け上がる。

 自分の部屋に飛び込み、ランドセルを投げるように置いてから、マートのことを考えた。


「マート……?」


 目の前に突然現れるのをイメージしながら、暫く様子を伺う……。


「マート! 今、マートのことを考えてるよ。早く出て来て!」


 それでも、マートは現れない。


(なんでだろう? いつもこのパターンで出て来てたのに……)


「あっ、もしかして!」


 階段を駆け下りて、玄関のドアを開けてみた。


「ダメだぁ……」


 そこにも、マートの姿はない。


「おかしいなぁ……。こんなに考えてるのに、なんで出てきてくれないんだろう? もしかして、パンドム星に連れ戻されちゃったの?」


 ドアを閉めて振り返ると、玄関マットの上でポチも首を傾げていた。


「ねぇ、ポチ。どうしたら、マートは現れるのかなぁ?」


 暫く、マートについて考えてみる……。


(そう言えば、コンビニの駐車場にシェルターがあるとか言ってたよね……)


「ポチ、マートを探しに行こっか!」


「ワンッ!」


 そのままポチを連れて、再びドアを開ける。


「おばあちゃん! 散歩に行ってくるねーっ」


 返事も聞かずに、家を出た。


 大通りの信号を渡って、急いでコンビニに向かう。


 車が、八台ほど停められる駐車場。

 コンクリートには、初夏の陽射しが照り付けている。


「だけど、ここに穴が開いて、次の日には消えてたなんて……、ありえない……」


 翔ちゃんと未来ちゃんから聞いていた現場を眺めながら、独り言を呟く。


「それより、シェルターはどこ? なんにも見当たらないけど……」


 汗ばむ額を手で拭いながら、辺りを見渡してみる……。


「マート、居ないの? マート! マート!」


「ワンワンッ! ワンワンッ!」


 ポチと一緒に、マートの名前を何度も呼んでみる。


(えっ……)


 突然、空中に銀色のドアが浮き出てきた。


(ま、まさか!)


 スススーッと、ゆっくりとドアが開かれ、マートが顔を覗かせる。


「うわっ! どーなってんのっ」


「ギャン!」


 ポチも目を見開き、毛を逆立てている。


「今、睡眠中だった……。誰かが呼ぶ声で目が覚めたんだけど、ルリだったんだね」


「えっ、寝てたの! あっ、だから、私が考えても現れなかったんだね」


「僕のことを考えてたんだ……。何か用?」


 そう言いながら、マートがドアを潜ってこちらに出てきた。


「あっ、うん。今日のお礼が言いたくて……」


 いつものように話をしていたけれど、ふと、まわりが気になった。

 コンビニの中に居る店員や客が、私のことを不審者を見るような目付きで見つめている。


(これって、どういう状態? みんなには、マートが見えてるの? 私が、一人で話してるように思われてるの?)


「このドアから出たから、僕も見えているはずだよ!」


 マートが、私の心の声に応える。


「きっと、僕が突然現れたからかも」


「それだよ! マート、とにかく一旦隠れて! 公園に集合ね」


「分かった!」


 マートが消えるのと同時に、コンビニの中から店員が出てきた。


「お嬢ちゃん、今、一人だった?」


「はい」


「あっ、そう。急にごめんね〜。おかしいなぁ……」


 納得のいかない表情で、店員が店の中へと戻っていく。


 私はポチを連れて、公園へと急いだ。

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