第8話

 結局、マート君は土足のままピアノの椅子に落ち着き……、

 私は、真向かいになるベッドの上に浅く座った。


「ウ〜ッ、ウ〜ッ……」


 相変わらず、ポチは膝の上で唸っていて……、

 マート君は、珍しそうに私の部屋の中をグルリと見渡している。


(いったい、なんなの、この現象? 確か……、公園に行けばマート君に会えるかもしれない! って思って……)


 数分前の出来事を振り返りながら、混乱している頭の中を整理する。


「あっ!」


(そうだ! 七色に光る布!! あれを渡そうと思って、マート君の事を考えたんだ!)


 ポチをベッドに下ろして、机に駆け寄った。

 手提げ袋から、その布を取り出す。


「あっ! 見つけてくれたんだ!!」


 マート君が、すぐに反応した。


「うん。これを、マート君に渡さなきゃ! って思ったの」


「なるほど、そういうことだったんだね。とにかく、助かった〜っ」


 その布をマート君に手渡すと、弱くなっていた七色の光が、眩いほどの強い光を放った。


「わっ、凄い!」


「このフォローシートがないと、僕はなんの力も発揮出来ないんだ……」


(こんな不思議な布を操るなんて、マート君っていったい何者? 異世界人? それとも、噂の魔法使い?)


「僕は、パンドム星人だよ! パンドム星から、この地球にやって来たんだ」


「パ、パ、パンドム星から、この地球に!?」


「うん」


「っていうことは、まさかまさかの、宇宙人?」


「うん。君たちから見れば、そういうことになるのかなぁ」


「うっ、うっ、うちゅ……」


(落ち着け! 落ち着け、自分!)


「オチツケ?」


(そっか。私の心は、読まれてるんだ。マート君は、私が思ったこと分かっちゃうんだ!)


「分かっちゃうね」


「ウ〜〜〜ッ、ワンワンッ!」


 私の動揺が伝わってしまい、ポチがマート君に飛び掛かろうと毛を逆立てている。


「ダメだよ、ポチ!」


「ポチ……」


 そう言って、マート君がポチと目を合わせる。

 なぜか、ポチの表情が少しずつやわらいでいく……。


「ワンッ」


 私の膝から下りて、嘘のようにしっぽを振りながらマート君に近付いていく……。


(えっ、なんで?)


「ポチが、ルリをいじめるな! って言ったから、僕はルリと仲良くなりたいんだ! って言ったんだ」


「えーーっ! 動物と話が出来るの?」


「出来るよ! 動物、草花、虫、あらゆる地球人とも」


「信じられない……」


「僕たちパンドム星人は、あらゆる言語をテレパシーで受け取って、言葉に変換することが出来るんだ」


「凄いんだね! まるで、AIみたい」


「まぁ、そんな感じかな!」


(驚きだ! 宇宙人って、本当に居たんだ!! って言うか、宇宙人が私の家に! 私の部屋に! もーっ、信じられなーーいっ!!)


「でも、どうして! どうして、地球に来たの?」


「地球のことを、どうしても知りたかったんだ」


(地球のことを知りたい……。それなら、地球人として、この非常識を教えるべきだろうか?)


「ヒジョーシキ?」


「あっ、あのね。この地球では、他人の家に勝手に入ることは許されないの! それに……、これは日本人だけかもしれないけど、部屋の中で靴を履いてるなんてありえないの」


 マート君が私の口元をじっと見ながら、ジーンズのポケットの中から携帯のようなものを取り出した。


「ヒジョーシキは、他人の家に勝手に入ることは許されない! 部屋の中で靴を履いているのはありえない!」


 ボイスレコーダーのようなものだろうか?

 マート君が、私の言ったことをそのまま繰り返して吹き込んでいる。


「まっ、まぁ、そんな感じ!」


(やっぱり、実際にやってみた方が分かりやすいかな?)


「じゃあ、玄関から教えるから、一回外に出よう!」


「うん、分かった!」


 そう言うと、マート君はホワッと消えた。


「えっ、マート君? マートくん……? どこ、どこに居るの?」


 部屋を、キョロキョロと見渡した。

 背後が気になり、ベッドの向こう側にあるピンク色のカーテンの中も覗いてみる。


「マートく〜ん」


(いきなり、どういうこと! パンドム星とかいう星に帰っちゃったの?)


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