第48話

 その三日後……。

 私は、衝突騒動を完全に忘れて、いつもの日常を送っていた。


 音楽室からの帰り、未来ちゃんと廊下を歩いていると、


「お前ら、なに平気な顔して歩いてんだよ!」


 大地が、ひそひそと話し掛けてきた。


「あっ、今日は!」


 未来ちゃんがすぐに反応して、私の顔を見る。


「あっ、衝突!」


 私も、未来ちゃんの顔を見返した。


「なんだよ! 忘れてんのかよっ……。まぁ、今日一日を乗り切ったら、地球は無事だってことだけどなっ」


「そうだね、夜まで何も起きなければいいけど……」


 急に、不安が押し寄せてくる……。

 未来ちゃんと大地は、黙ったまま、何度も頷いている。


「なんか、私達、宇宙同盟守りた隊みたい!」


 未来ちゃんが、クスッと笑った。


「守れねーけどな」


 大地も、なぜか嬉しそうだ。


 本当に、宇宙同盟守り隊が居てくれたらいいのに、と思った。

 その物体が地球に衝突したら、いったいどうなるのだろう……。


 だけど、こんな心配をしているのは、私たちだけかもしれない。

 まわりのみんなは、いつもと変わらない一日を送っている……。


 私たち三人と、今日は無言で挨拶もしない翔ちゃんは、地球の無事を祈りながら学校を終えた。


 家に帰ると、


「瑠璃! 早く、来なさい!! 宇宙人が、地球の味方をして下さったぞ! 戦争にはならなかった!」


 おじいちゃんが、テレビを指差しながら私を呼んでいる。


「えっ、宇宙人? 戦争にならなかったって……。衝突は? 衝突はどうなったの?」


 ランドセルのままテレビに近付いき、おじいちゃんの隣りに座る。

 そこに映しだされている光景に、私は目を見張った。


 惑星だと思われていた巨大な物体が、蒼白い光をたなびかせながら地球に迫っている。

 その後ろから、猛スピードで追いかけてくる七色の光!

 ぐんぐんと近付いてきて……、蒼白い光に衝突した!

 次の瞬間、稲光のような凄まじい光が発生し、蒼白い光と七色の光はパーンッと割れ、幾つもの破片が空に弾け飛んでいる。


〝今日未明、天文研究所の観測カメラが捉えた映像です。多くの彗星や小惑星の欠片は、大気圏に突入する前に燃え尽きましたが、何らかの惑星だと思わていたその物体だけは大気圏に侵入し、地球の僅か5000メートル上空で七色の光は発光しながら、粉々に砕けて散っています。専門家によりますと……〟


「えっ! これって……」


 私は、この七色の光に見覚えがある……。

 あの、流星群が降る夜に見た光だ。

 未来ちゃんが、コンビニの駐車場で見た光……。


 マートだ!

 あの光は、マートだ!

 未来ちゃんが嘘つきではないことを証明する為に、校庭で見せてくれたあの七色の光だ!


 マートの光が……、マートの光が、粉々に割れて散っていく……。


「ワンッ!」


 ソファの横に寝転んでいたポチが、大きな目を蘭々とさせながら、鼻先を玄関のほうに向けている。

 外に出たいという合図だ。


 ポチは、マートが地球に来てると思っているのかもしれない。


「七色の光……、マートの光……。ポチ、行ってみよーっ」


「ワンワンッ」


 私は、ポチを抱いて立ち上がった。


「おじいちゃん、ちょっと出掛けてくるね」


「はいよーっ。気をつけてねーっ」


 ポチにリードを付けて、急いで家を出る。

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