最終話

「そうだ! ルリに報告したいことがあるんだ」


「えっ……、私に、報告?」


 マートが私の手を取り、嬉しそうにベンチへと誘導する。

 ポチを挟んで座り、改めてマートの顔と向かい合う……。

 やっぱり、メチャクチャイケメンだ!


「前回、作成した僕のレポートが、パンドム星で凄い評価されて賞をもらったんだ! 地球で言うと、ノーベル賞みたいなもの」


「ノーベル賞!! 前回って……、あの、愛について膨大なデータをまとめたって言ってたレポート?」


 私の声に驚いて、ポチも目を丸くしている。


「そう、あのレポート! でも、パンドム星に帰ってから全部書き直したんだ。大切なことに気付いたから……」


「嘘っ! あんなに大変な思いをして書いたレポートを、また書き直したの!!」


(マートって、真面目な宇宙人だったんだ!)


 マートが、ドヤ顔になっている。

 どうやら、私の心の声が聞こえているらしい……。


「実は、アマミヤおじいちゃんが言ってた〝愛は全て〟という言葉が凄く気になって、地球での日々を思い返してみたんだ……。そうしたら、地球人が持っているあの光が、バリアの正体だと気付いたんだ!」


「私たちが、持ってる光?」


(どういうこと? マートには、オーラ的なものが見えてるの?)


「ルリたち地球人は、いつでも光を放っている。色や形、強さも違うけれど、色んな光を放出している。それが空へと上昇して、あの地球を覆っている光のバリアになってたんだ」


「えっ、私たちがいつでも光を放っていて……、それがバリアに?」


「うん、そうなんだ! ルリが僕の為にフォローシートを探してくれた時も……、ミクへの疑いを証明する為にUFOの計画を立てていた時も……、ショーがポチやバンを守る為に僕を怒った時も……」


「怒った時も?」


「そうだよ! ワックワクーッの時も、ウッキウキーッの時も、ズキッズキッの時も、全部! みんな、色んな光を放っていた! ミクなんて、眩しいくらいに輝く金色の光をいつでもいっぱいに持っていたんだ」


「眩しいくらいに輝く金色の光……。うん、なんとなく、分かる気がする……。未来ちゃんは、いつでも誰にでも優しいし、マートを知ろうとして一生懸命だったもんね……。そっか……、そんな気持ちが、地球を守る光になってるんだ……。なんか、凄いね! マートは、知りたかったことの答えに辿り着いんだね」


「うん、ルリのお蔭で辿り着くことが出来た! 僕が知りたかったことの答えは、携帯にも図書館の本にも載ってなかった……。ルリたちが、教えてくれたんだ」


 そう言って、マートが満足そうに空を見上げた。

 私も、マートの視線を辿る……。

 深い青に染まり掛けている空に、オレンジ色に光る物体が浮いていた。

 あの日、泣きながら見上げた、マートを乗せて帰った宇宙船だ。


「僕、そろそろ行かなきゃ!」


「そっか、仲間が待ってるんだもんね」


「実は今、パンドム星では、地球が凄く有名になってるんだ」


「えっ、そうなの?」


「愛のエネルギーに守られている美しい星、地球……。パンドム星も、地球のような星にしたい! って言われてるよ!」


「えーっ! それって、なんか凄く嬉しい! もう、メチャクチャ、ウッキウキーッだよ! マートのレポートのお蔭だね……」


「僕だけじゃないよ! 前回の留学生たちのレポートも、注目されていたからね! だから、〝地球を守る為なら!〟って、仲間たちは喜んで臨時便を出してくれたんだ」


「地球を守る為に……、マートの仲間たちが……」


 私は立ち上がって、オレンジ色の光をしみじみと見つめた。

 マートもポチを抱いて、同じように立ち上がっている。


 私たちの地球を守ってくれたパンドム星人が、あの宇宙船に乗っている。

 敵のように感じていた宇宙人が、最強の味方だったなんて……。


「パンドム星の皆さーん!! 本当に、本当に、ありがとうございましたーっ!!」


 届くと信じて、両手を大きく振りながら叫んだ。

 私の声に応えるように、オレンジ色の光が点滅している。


「あっ、応えてくれてる! 私の言ってることが、分かったのかな?」


「うん、分かってるよ!」


「そっかぁ、ちゃんと通じてるんだね……」


「うん……」


 興奮しながらマートに視線を戻すと、吸い込まれてしまいそうなブルーの瞳が私をじっと見つめていた……。


「えっ……」


「あっ……」


 マートが気まずそうに、視線をポチへと移す……。


(何、なに、この感じ!)


 見つめられただけなのに、なぜだか凄く嬉しい……。

 このまま、パンドム星に付いていきたいくらいだ。


「ねぇ、マート! 絶対に、また地球に来てね!」


「うん、絶対に、また来る!」


「その時は、パンドム星のことを色々と教えてね!」


「パンドム星のこと?」


 マートが、不思議そうに首を傾げた。


「私も、マートの星がどんな星なのか、知りたいの!」


「そっか……。うん、分かった。次に来た時には、パンドム星の話をたくさん聞かせてあげるよ。面白い話がいっぱいあるから、楽しみにしてて!」


「うんっ、すっごい楽しみ! 今度は、ちゃんと留学生としてだからね!」


「えっ?」


「宇宙船の足にしがみ付いて来るのは、危険過ぎるから!!」


「プププッ、分かった!」


「ワンワンッ」


 残り僅かになった夕陽の中で、楽しそうに笑い合う、宇宙人のマートと、地球人の瑠璃と、犬のポチ……。


 西の空に、一番星が輝き始めていた。


 


 〜fin〜








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パンドム星人マートと過ごした夏 華美月 @hatmama

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