第40話

 マートと未来ちゃんと一緒に、コンビニを通り過ぎて坂道を上がっていると、


「ワンワンッ」


 ポチの声が聞こえてきた。


「あっ、ポチ!」


 振り返って待ち構えると、ポチは私の顔を一瞬だけ見て素通りした。


(…………えっ?)


「ポチ!」


 笑顔で両手を広げているマートの元に、飛び込んでいく。


(あれっ、なんか怒ってる?)


 マートに抱きかかえられたポチが、嬉しそうにマートを見つめている。

 私とポチの間には、なぜか気まずい空気が漂っている……。


「ポチ、走るのすげー早かったよ!」


 汗を拭いながら、翔ちゃんも合流した。


「翔ちゃん、ありがとう! 凄い、早かったねっ」


「俺も、まさか追いつくとは思ってなかった」


 翔ちゃんにお礼を言いながら歩いていると、


「ショーは、走るのが早いんだね!」


 ポチを抱いたマートが、バンの頭を撫でながら言った。

 何度か競争をして、翔ちゃんはマートに全勝している。


「泳ぎは負けたけどなっ」


 負けず嫌いの翔ちゃんが、珍しく負けを認めている。


「確かに……。マートの泳ぎは凄かったよね! でも、走るのは、宇山が学年で一番じゃない? いつもリレーの選手だし」


 未来ちゃんが、がっかりしている翔ちゃんを元気付けようとしている。


「だよなっ。俺、六年より早いと思う!」


 翔ちゃんがまた、調子に乗りだした。


「もう、分かったから! で、何して遊ぶ?」


 親戚として、これ以上の自慢話に付き合わせる訳にはいかない。

 私は、強引に話を切り替えた。


「やっぱ、これでしょ!」


 翔ちゃんが、オレンジ色のフリスビーを袋から取り出した。


「いいね! ショーは、分かってるねっ」


 マートはやはり、フリスビーが一番のお気に入りのようだ。


「まぁな! じゃ、行くぞ!」


 予定より1時間遅れで公園に辿り着いた。

 蝉の大合唱の中、いきなりフリスビーが始まる……。


「マート!」


 翔ちゃんの手からマートの手へ……、


「ルリーッ!」


 マートの手から私の手へ……、


「未来ちゃーん!」


 私の手から未来ちゃんの手へ……、


「宇山、行くよーっ!」


 未来ちゃんの手から翔ちゃんの手へ……。


 眩しい空に、オレンジ色のフリスビーが映しだされる。

 まるで空飛ぶ円盤、UFOのようだ。


 私たちのまわりを、ポチとバンが駆けまわっている。

 今、最高に幸せな瞬間だと思った。


 それから、だるまさんが転んだ、色鬼……、次から次へと今まで一緒にやってきた遊びをこなしていく……。


「友達と遊ぶのって、ウッキウキーッ! だね!」


 マートが、しみじみと言った。

 翔ちゃんと未来ちゃんが、困惑した表情を浮かべる……。

 パンドム星に帰っても、マートには友達が居ないと知っているからだ。


 私も、嬉しいような淋しいような複雑な気持ちになった。


「うん! すげー、楽しいよなっ。俺、マートと友達になれて良かったよ」


 翔ちゃんが、淋しそうに呟いた。


「私も!」

「うん、私も友達になれて良かった……」


 未来ちゃんに続いてそう言ったあと、淋しさが一気に押し寄せてきた。


「マートは、何をしてる時が一番ウッキウキーッ! ってなるの?」


 未来ちゃんが、沈んでいく空気を切り替えるように言った。


「僕は、知らないことを知った時、一番ウッキウキーッ! ってなる!」


「知ることって……、勉強ってこと?」


「うん」


 首を傾げる未来ちゃんに、マートが自信満々で応えている。


「勉強が好きなやつ、居たんだ」


 翔ちゃんも、かなり驚いている。


「パンドム星で、地球について色んなことを教えてもらってた時も、このワックワクーッ! だったんだと思う……。あんなに美しい星に住んでる地球人って、どんな感じなんだろうって、色々想像したりして……」


 真上で照り付けていた太陽が少しずつ弱まり、心地よい風が吹き始めていた。

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