第39話
ひとしきり泳いだ私たちは、市役所の中にあるベーカリーでそれぞれ好きなパンを買って、憩いの場になっているスペースで簡単な食事を摂ることにした。
マートが選んだ玉子サンドとチョコパンは、三人からだ。
「これ、美味しい!」
マートが私たちと同じように、モグモグと美味しそうに食べている。
やはり、味わっているように見える……。
「そろそろ急ごうぜ! 予定、だいぶ狂ってる」
翔ちゃんに急かされ、私はハムサンドを口の中に放り込んだ。
思いのほかプールに時間を掛けてしまい、午後1時予定の昼食が2時になってしまった。
メインは、夏のシーズンだけ営業している駅前のかき氷屋だ。
削れてく雪のような氷を、マートも興味深く見つめている。
「メロンにイチゴ、ブルーハワイ、マートは何にする?」
私自身も何にしようか迷いながら、マートに聞いた。
「僕、これがいいな」
「そうだと思った!」
マートが指差したのは、鮮やかなグリーンのメロンシロップ。
ヨーヨーの時と同じように、パンドム星のイメージカラーを選んでいる。
未来ちゃんはイチゴミルク、翔ちゃんはレモン、私はブルーハワイを注文して、代金はまた三人で割った。
「美味し〜いっ、最高〜っ」
ブルーの氷が、私の口の中に広がって溶けていく……。
夏定番のこの感覚。
プールで冷えきっていた身体が、更に冷たくなっていく……。
「冷たくて、甘くて、美味しい!」
マートも、この幸せな感覚を味わっているようだ。
「えっ、甘いって……。甘いって分かるの?」
マートの言葉に驚いているのは私だけで、
「ほんと、うまいよなっ」
「うん、幸せ〜」
翔ちゃんと未来ちゃんは普通に共感している。
成分的なことしか言わなかったマート、味が分かるようになったのだろうか?
「ミクの氷は、マーズみたいだ!」
「えっ、マーズ?」
「うん、地球ではそう呼ばれているピンク色の星!」
「へぇ〜、こんな色の星もあるんだ〜」
未来ちゃんが、自分の持っているピンク色のかき氷を愛しそうにじっと見つめている……。
「瑠璃は、やっぱり地球なんだね!」
マートにそう言われて、私も手元にあるかき氷に目をやった。
「ほんとだ!」
綺麗なブルー……。
なぜか私はいつも、この地球の色を選んでいる。
マートに言われなければ気付かなかった、青い色の地球……。
「これ食べたら、次は公園だなっ」
翔ちゃんが、駅の大きな時計をチラチラと気にしながら言った。
氷の色を観賞する余裕はないようだ。というより、翔ちゃんは悲しくならないように急いでいるのかもしれないと思った。
(そっか……。あと、公園で遊んで、花火をしたら、マートとはお別れだ……。あっ……、ポチ!)
今朝、出てくる時も、ポチは「連れていけ!」という目で訴えていた。
私が、マートと出掛けるということに勘付いていたのかもしれない。
「私、一回帰って、ポチを連れてきてもいいかなぁ? ポチも、マートに会いたいと思うから……」
夢中になって食べて続けていた三人の手が止まる。
「そっか……。ポチも、マートに会いたいよね」
未来ちゃんは、少し涙ぐんでいるようだ。
「もう、最後だからなぁ……。分かった! じゃ、俺がポチを連れてくるよ! バンも退屈してるだろうし……」
「えっ、ほんと! 翔ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫っ。瑠璃が家に戻ってたら、また遅くなるから! 先に、公園行ってて」
翔ちゃんはレモン色のかき氷を一気に流し込み、凄い勢いでポチとバンを迎えにいった。
私たちも残りのかき氷を素早く食べて、公園に向かう……。
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