第14話

「瑠璃! 行くぞっ」


 翔ちゃんが、バンを連れて迎えに来た。


「あっ、ちょっと待って! ポチーッ!」


「ワンワンッ!」


 喜んで走ってきたポチに、青い首輪を付けて急いで外に出る。

 翔ちゃんのあとに付いて、全速力で走りだした。


 大通りの信号を渡ると、別の方向から未来ちゃんが駆けてきた。

 昼休みに打ち合わせした、私とお揃いの白いキャミソールを着ている。


「もう、ドッキドキ!」


 未来ちゃんは、少し緊張しているようだ。


「早く、行こーぜ!」


 翔ちゃんが公園を見上げてから、また走りだした。

 コンビニを通り過ぎて、坂道を駆け上がっていく……。


 あっという間に、公園に辿り着いた。

 一年生の男の子が三人、サッカーボールで遊んでいる。


「瑠璃ちゃん! あの中の誰か?」


「ううん、違う。私達と同じくらいだから……」


 三人で、グルリと辺りを見渡した……。

 太陽の光を受けて、木々の緑がキラキラと光っている。


「ルリーっ! と、友達ーっ! ここだよーっ」


 マートの声がした。

 三人一斉に、その声のする方を見上げる。


(居た! 約束を、守ってくれた!)


 黄色いジャングルジムの一番上で、マートが手を振っている


「あっ、この前の外人!」


 翔ちゃんが、驚いたような顔でマートを指差した。


(そうだった。翔ちゃんは、一度、マートに会ってるんだ!)


「えっ、あの子が宇宙人? ちょー、カッコイイ!」


 未来ちゃんは、もう目がハートになっている。


 確かにマートはカッコイイ!

 翔ちゃんも、学年ではイケメンだと言われているけれど、ちょっとタイプが違う。マートは、かなりの美少年だ。


「ねぇねぇ、ほんとに宇宙人なの?」


 バンをいつもの鉄塔に繋いで、翔ちゃんがジャングルジムに上がっていく……。


「どこから来たの?」


 未来ちゃんも、満面の笑みで上がっていく……。

 私も、バンと同じ鉄塔にポチを繋いで、上がっていった。


「僕は、パンドム星から来たマート!」


「すげっ! 本物じゃん! 俺、翔!」


「ショー……」


 そう言って、翔ちゃんはちゃっかりとマートの隣りをキープしている。


「私は、未来! よろしくね」


「ミク……」


 未来ちゃんも積極的に近付いていき、一段低い場所にチョコンと腰を下ろした。


「マート! 私の友達の、翔ちゃんと未来ちゃんだよ」


 マートと視線を合わせながら、私も未来ちゃんの隣りに座る。


「ルリの友達は、僕の友達!」


「友達ーっ! 嬉しーっ!!」


 未来ちゃんはもう、アイドルでも見るかのように、瞳をキラキラと輝かせている。


「で、で、なんで地球に来たの?」


 興奮状態の翔ちゃんが、いきなり質問をする。


「惑星について調べていたら、この地球という美しい星を発見したんだ。無償に気になって、どうしても知りたいことがあって……」


「へぇ〜、地球って美しい星なんだぁ」


 未来ちゃんが、感動に浸っている……。


(地球が美しい……、なんだかピンと来ないけれど……。でも、未来ちゃんが元気になって良かった!)


「ほら! ここから見た空の青も、凄く綺麗だ!」


「どうして? パンドム星の空は綺麗じゃないの?」


 未来ちゃんが、興味津々に聞いている。


「パンドム星の空も青い色をしているけれど、こんなに鮮やかな青じゃない。太陽も、こんなに大きくないし」


 マートが、眩しそうに空を見上げた。

 私達も、同じように空を見上げる。

 ジャングルジムに、涼しい風がサワサワと吹き渡っている。


「家族は? 誰と来てんの?」


 またまた、翔ちゃんの質問が始まった。


「家族? あーっ、ウッキウキーッの家族! 家族は居ない」


 マートは、あっさりと応えた。


「えっ、じゃあ、誰と暮らしてるの?」


 未来ちゃんも、負けずに質問する。


「仲間は居るけど、それぞれ自分の管轄で暮らしてる……。シェルターは一人用だし」


「えっ、シェルター!」


 翔ちゃんが、過剰な反応をした。


(そっか。マートは、本当に一人で暮らしてるんだね……)


 少し、マートが可哀想になった。


「好きな食べ物は?」

「スポーツは、何が好き?」


 それからもマートは、翔ちゃんと未来ちゃんの質問責めに合っている。

 もう二人は、マートに夢中だ。


 私だけ、観客席に居るような状態が続いていた……。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る