第15話

「ねぇ、マート! やっぱり、UFOに乗って地球に来たの?」


 未来ちゃんが、一番気になっていることを聞いた。


「UFO? あっ、このフォローシートのことかな?」


 マートが、ジーンズのポケットから、あの七色の布を取り出した。


(えっ! そんなにコンパクトにたためるの?)


 未来ちゃんも翔ちゃんも、目が点になっている。


 マートが、七色の布をマントのようにひるがえして立ち上がった。

 一瞬、まぶたを閉じてから、青い空に向かって高くジャンプする。


(えっ!)


 マートの姿が大きな光となり、七色に輝き始めた。人型から丸い形へと変化していく……。


(あっ! あの光は……)


 広い空を、ススッ、スススッ……、とジグザグに飛びまわり、


(嘘ーっ……)


 スピードを緩めながら、垂直に下りてくる……。


 そのまま、静かに地面に着地した。


「ワンワンワンッ!」

「キャイ〜ン……」


 ポチは吠えまくり、バンは激しく怯えている。


「そうそう! これ、これ! 私がコンビニの駐車場で見た光る物体!」


 未来ちゃんはもう、大興奮だ!


「すっげーっ! この布が、UFOになんのかよっ」


 翔ちゃんは目を丸くしながら、ジャングルジムから飛び降りた。


(そうだ! 流星を見た夜に、目の前を通ったあの光だ! あれは、マートだったんだ!)


 全ての謎が解けたような、爽快な気分だ。


「これが、UFOの正体だったんだね!」


 私は、ようやく未来ちゃんを信じきることができた。


(未来ちゃんの勘違いじゃなかった! 未来ちゃんは、嘘つきなんかじゃなかった! 始めから、もっと未来ちゃんを信じてあげれば良かった……)


 少しでも、未来ちゃんを疑っていた自分が恥ずかしく思える……。


(あっ、そうだ! 大地達にも、このUFOのからくりを見せたら、もう誰も、未来ちゃんのこと〝嘘つき〟だなんて言わなくなるかも!)


「ねぇ、マート! その技、うちのクラスの男子にも見せて欲しいんだけど」


「う〜ん、それは……」


 マートが、初めて困った顔をした。

 私が思ったことは聞こえてるはずだから、事情は理解しているようだけれど……。


「実は、僕は勝手に地球に来てしまったんだ! あんまり目立つことをしてしまうと……」


「えっ?」


 私が、一番驚いた。


「地球への留学を希望してたんだけど、定員に入れなくて……。だから、宇宙船にしがみついてやって来たんだ!」


(UFOにしがみついてって……、こんなに綺麗な顔なのに、どんだけワイルドなの!)


「大気圏に入ってからは、このフォローシートを利用して下りてきたんだ。司令官に見つかる前に、どうにかして帰らなきゃいけない」


「それ、ヤバいじゃん!」


 翔ちゃんが、急に深刻な顔になる。


「あっ、でも……」


 頭を抱えていたマートが、何か思い付いたようだ。


「なーに?」

「どうしたの?」

「なんだよ?」


 三人一斉に、マートに注目する。


「僕の正体を明かさなければ、出来るかもしれない!」


「マート、無理しなくていいの!」


 未来ちゃんは、自分の為だと分かってしまったらしい。


「正体を、明かさなければ大丈夫なの?」


 確認する私に、マートが大きく頷いた。


「じゃあ、こうすればいいんじゃない?」


 翔ちゃんが、色々と提案をしてきた。

 未来ちゃんも、嬉しそうに聞いている。


 それから四人で、〝未来ちゃんは嘘つきじゃない!〟ということを証明する作戦をあれこれと考えた。


「カァーッ、カァーッ……」


 すっかり薄暗くなった公園にカラスの鳴き声が響き渡り、空は赤く染まり始めていた。

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