第3話

 ポチとバンに引っ張られるように、翔ちゃんと並んで坂道を下っていく……。


「さっきの外人、誰?」


 翔ちゃんが、公園を振り返りながら聞いてきた。


「えっと、マートって言ってた。なんか、探しものしてたみたい……」


「ふ〜ん」


(そういえば、困ってるって言ってたなぁ……。大丈夫かなぁ?)


 公園を気にしながら、コンビニの前に差し掛かる。


「俺、見てきたよ! 駐車場のところに、大きな穴が空いてた!」


 翔ちゃんが、自慢するように言った。


「大きな穴?」


 そのまま駐車場に目をやると、凄い人だかりが出来ていた。


「でも、何も落ちてなかったよ」


「な〜んだ。じゃあ、前からあった穴じゃない?」


「う〜ん。あんな穴は、なかったけどな〜」


 ちょっと見てみたい気もするけれど、さすがに人が多すぎてとても見れそうにない。

 ポチに誘導されるがまま、そのまま人だかりを通り過ぎていく……。


「翔ちゃん! 流星、凄かったね〜。見に来てよかった!」


「うん」


 やがて道は平坦になり、それほど車が走っていない大通りに出た。

 二人しか居ない横断歩道、信号が青に変わるのを静かに待つ……。


(あれっ? なんだろう……)


 右側にあるガードレールの上に、何かが引っ掛かっているのが見えた。


「あーっ!!」


(あれって、もしかして、さっきの子が探してた七色に輝く布?)


 布自体は白っぽいけれど、夜風に吹かれて、微かな七色の光がヒラヒラと揺れている……。


「なんだよ!」


 その声に驚いた翔ちゃんが、私の視線を辿っている……。


「あの子が探してた、なんとかシートっていう布じゃない?」


「えっ! 誰かの落とし物だよ!」


「絶対に、そう! 七色に輝く布って言ってたもん!」


 説明するのと同時に、その布を手に取っていた。


 想像していたものより小さいし、とても軽い……。

 レジャーシートというよりは、マフラー? ふんわりと温かく、まるで羽のようだ。


「翔ちゃん、ちょっと待ってて!」


 今度は私が、ポチを繋いでいるリードを翔ちゃんに手渡した。


「おい、瑠璃! 遅くなったら、あやおばちゃんに叱られるぞ!」


「すぐだからーっ!」


 そう叫びながら、全速力で走りだしていた。


 人でごった返すコンビニの駐車場を横目に見ながら、下りてきた坂道を急いで駆け上がっていく……。


(えっ……)


 辿り着いた公園には、さっきの少年も、チラホラ残っていた見物客も、もう誰も居なかった。


「ハァ、ハァ、マートくーーん!! マートくーん!」


 息を切らしながら何度か呼んでみたけれど……、返事はない。


(もう、帰っちゃったのかなぁ……)


 真っ暗な公園を見渡していると、どこからか犬の遠吠えが聞こえてきて、闇に響き渡った。


(どうしよう……。でも、ここに置いていったら、きっと無くなっちゃうよね……)


 恐怖に耐えられなくなり、その布を抱えたまま、私は翔ちゃんの元へと急いで戻った。

















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