第37話

「全く、みんなで面白がって……」


 自分の部屋に飛び込んで、ベッドにダイブした。


「だけど、おばあちゃんはなんで分かったんだろう……」


 ふと、壁に掛かっているカレンダーが目に止まる。


「あっ、あれっ……」


 マートがパンドム星に帰る日に、⭐︎のマークが記してある。


「えっ!」


 私は、すぐに起き上がって、カレンダーに近付いていった。


「八月八日って……、あさってじゃない! えっ、じゃあ、マートが地球に居られるのは、明日が最後なの!」


 マートとのお別れが、あさってに迫っている……。


「どうしよう……。マートが、帰っちゃう!」


 一人で慌てていると、ドアの隙間からポチが入ってきた。


「ポチ、どうしよう……。マートと一緒に居られるの、あと一日しかないみたいっ」


 ポチにも伝わったのか、カレンダーと私を交互に見つめながら目をパチパチさせている。


「マートは、愛の意味が分かったのかなぁ?」


「ワンッ」


「マートと一緒にやりたいこと、まだまだたくさんあるのに!」


「ワンワンッ」


 ポチと一緒にうろたえていると、


「わっ!」

「ギャン!」


 ドアの前に、いきなりマートが現れた。


「あっ、そっか、呼べば来てくれるんだった」


 このシステムに慣れない自分に、とことん呆れてしまう……。


「ルリ、どうしたの?」


「どうしたのって……、マートはあさって帰っちゃうんでしょ?」


「うん。八月八日、宇宙船がパンドム星に帰還することになってるいるからね」


「延長とかは、できないの?」


「出来れば、僕ももう少し地球に居たいけれど、司令官の命令だから……。それに、この地球の環境の中に長い時間は居られないんだ」


「そっか……、そうだよね。マートは地球人じゃないもんね」


「ルリ! 明日は、思いっきり遊ぼうね!」


「あっ、うん……」


 淋しそうに頷くと、ポチも鼻を鳴らしながらマートの足元に擦り寄っていった。

 ポチを抱き上げ、マートがギュッと抱きしめている。


(マートも、淋しいのかな?)


 マートがどんな顔をしているのか、気になって覗いてみた。


「淋しいよ。心が、キューッって痛い……」


 私の心の声に応えるように、マートがそう言った。


「私と、同じ気持ちなんだ……」


 嬉しいような、淋しいような、複雑な思いにふけっていると、ベッドの上で携帯が鳴った。翔ちゃんからだ。


「あっ、瑠璃!」


「翔ちゃん、どうしたの?」


「明日、マートと遊ぶの最後じゃん?」


「あっ、知ってたんだ」


「で、色々計画立ててみたんだけど。午前中は市民プールで泳いで、その後カキ氷を食べて……」


 翔ちゃんの立てた明日の予定は、朝から夜までスケジュールがぎっしりだ。

 マートにも翔ちゃんの声が聞こえているらしく、嬉しそうに目を見開いている。

 本当なら、マートと電話を変われば話は早いのだけれど、なぜか、マートが今ここに居ることを翔ちゃんに伝えることは出来ない。


「プールで、泳ぐの?」


 私は、ちょっと不安になった。


(マートの身体は、水に浸かっても大丈夫なのだろうか? っていうか、身体が爬虫類系だったりしたら、そもそも水着になんてなれないんじゃないだろうか?)


「プッ、大丈夫だよ!」


 マートが、着ているTシャツを捲って身体を見せた。


「えっ!」


 突然のその行動に、電話していることも忘れてしまうほどの衝撃を受ける。


「おいっ、瑠璃! 聞いてんのかよっ!! マートの海パンは俺が持っていくから」


 翔ちゃんの叫び声で、電話に意識が戻る……。


「あっ、うん、分かった。じゃ、マートと未来ちゃんには連絡しとくね」


「おう! じゃあ、明日なっ」


 電話を切るのと同時に、マートに確認する。


「マート、泳げる? プールって、水の中に入るんだけど」


「僕、泳げるよ! パンドム星にも、アクアドームがあるから」


「アクアドーム?」


「あっ、地球でいうと、湖みたいなものかなぁ」


「そうなんだ、湖があるんだぁ……。それなら、プールも大丈夫だね!」


「うん! じゃ、僕はレポートを仕上げなきゃいけないから、今日は帰るよ。明日、いっぱい遊ぼう」


「あっ、そっか、まだレポートがあったんだね。マート、頑張ってね!」


「うん、分かった」


 ポチを私に手渡して、マートはホワッと消えた。


















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