第5話

「瑠璃ちゃん、さっきはごめんね!」


 休み時間になると、未来ちゃんが申し訳なさそうな顔で近寄ってきた。


「平気だよ! 未来ちゃんが謝ることじゃないし」


 教室の隅で、ひそひそと話し始める……。


「私を信じてくれて、ありがとう! すごーく嬉しかった」


 未来ちゃんにそう言われて、少し胸が痛んだ。

 さっき、男子達に〝UFO信じてるのか!〟って聞かれた時、〝たぶん……〟と、あやふやな返事をしてしまったからだ。


「本当は、お兄ちゃんにも言われてたの……。UFOのことを誰かに話したら、バカにされるだけだって……」


「えっ、未来ちゃんのお兄ちゃんが?」


「うん。でも、もしかしたら、信じてもらえるかもしれないと思って、みんなに話したんだけど……。やっぱり、お兄ちゃんの言う通りだった……」


 未来ちゃんが、悲しそうに笑った。


(そうだよね……。未来ちゃんだって勇気を出して言ったのに、あんなふうにバカにされたら、誰だって傷付くよね……。全く、バカ大地!)


 なんとかして、未来ちゃんを慰めたい!

 けれども、いい言葉が見つからない。

 私自身が、あやふやだからだ。


(あれっ、そういえば……)


 私は、翔ちゃんが、未来ちゃんと同じようなことを言っていたことを思い出した。


「未来ちゃん! 翔ちゃんも言ってたよ! コンビニの駐車場に穴が開いてたって」


「えっ、ほんと! 宇山も見てたの? で、瑠璃ちゃんは一緒じゃなかったの? 流星、見に行かなかったの?」


「見に行ったよ! でも、私は、ポチとバンが居たから、上の公園から見てたの……」


「そっか。私達も、最初は公園から見ようって言ってたんだけど、たくさんの人が上がっていくのが見えたから、コンビニのところから見ることにしたの」


「うん! メチャクチャ混んでたよ」


「そしたら、運良く、そこにUFOが落ちてきて……」


「……えっ?」


「瑠璃ちゃん、あのね、みんなには言ってないんだけど……」


 未来ちゃんが、私の耳元に近付いてきた。


「えっ、なーに?」


 私も、未来ちゃんに思いっきり耳を傾ける。


「私、光る物体を見たの!」


「えーーっ!! じゃ、未来ちゃん、本当にUFO見てたの?」


 つい、声が大きくなってしまった。


 未来ちゃんが人差し指を口に当てて、静かにするよう目で訴えている。


「あっ、ごめん! それで?」


「うん。このくらいの光る物体が、色んな色の光線を出しながら、コンビニの駐車場に落ちてきたの!」


 未来ちゃんが両手をいっぱいに広げて、その大きさを教えてくれる。


「えっ、光る物体? 色んな色の光線? それでっ、それで、中には宇宙人が居たの?」


「それがね……。落ちたと思ったら、なんの跡形もなく消えてたの!」


「えっ、消えちゃったの……」


「うん。まわりに居た人たちはほとんど見てないと思う、反対側を見てたから……。気付いたのは、たぶん、私とお兄ちゃんだけ」


「うっそーっ!」


「でも、内緒ね! またみんなに、バカだって言われるから……」


「うん、分かった!」


(未来ちゃんが言っていることは、嘘ではないと思う……。でも、何か、勘違いしてるっていうこともあるかもしれない……。でも、光る物体ってなに? 未来ちゃんとお兄ちゃん、翔ちゃんが見た、大きな穴ってなんなの?)


 何も解決しないまま、体育の授業が始まる……。

 私は興奮状態で、いつもより高い段の跳び箱を平気で跳んでいた。


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