第6話

 学校が終わり、昇降口で靴を履き替えてから、未来ちゃんたちと一緒に下校をする。

 あとに続くように、一組の生徒たちもゾロゾロと正門から出てきた。


「じゃ、あとでなっ」


 そう言って、翔ちゃんが私たちと同じ方に歩いてくる。


 翔ちゃんの家は、うちのすぐ近くだ。お婆ちゃん同士が従姉妹で、家族ぐるみの付き合いをしている。私たちの関係は……、従姉妹の子供の子供……。

 何か繋がっているが、よく分からない。


 一応、親戚ということにはなっているけれど、学校ではあんまり話をしないようにしている。

 翔ちゃんが、嫌がるからだ。


 でも、今日は、少し訳が違う。


 朝から元気のない未来ちゃんを、何とか励ましてあげたいと思っていた。


「翔ちゃん!」


 一瞬、私たちを通り過ぎようとしていた翔ちゃんが、立ち止まって振り返る。


「なんだよ!」


「あのさ、昨日の夜、コンビニの駐車場に穴が空いてたって言ってたよね?」


「おーっ。昨日の夜は空いてた! でも……、朝、見に行ったら空いてなかった」


「えっ!」


 私より、未来ちゃんの方が驚いている。


「どういうこと!」


 私も、思わず翔ちゃんの腕を掴んでいた。


 帰宅していく生徒たちの列からはみ出るように、翔ちゃんと未来ちゃんと私の三人でゆっくりと歩きだす……。


「コンビニの店員にも聞いたんだ! ここにあった穴は工事したのかって」


「うん、そしたら?」


「そしたら、そんな穴は始めから無かったって」


(えっ、どういうこと? 意味が分からない……。未来ちゃんを元気にしてあげたかったのに、最初から穴は無かったの?)


「宇山! 私も見た! 私も、穴が空いてるのを見たよっ」


「えっ、まじで!」


 私を挟んで、2人が盛り上がりだした。


「このくらいの穴!」


「そうそう、そんくらい! 星野も見たんだ!」


「うん、見た! でも、一緒に居たお兄ちゃんは、そんな穴はなかったって言うの」


「まじで? 俺も、コンビニの駐車場に居た奴らと話したんだけど、穴は見てないって言われた……」


 謎の穴について、2人が考え込んでいる……。


(えっ、未来ちゃんのお兄ちゃん、UFOは見たのに穴は見てないの?  じゃあ、その穴を見たのは、翔ちゃんと未来ちゃんの二人だけ?)


「それなら、UFOは? あっ」


 言ってからしまったと思った。

 誰にも言わないって、未来ちゃんと約束してたんだ。


「UFOって、なに?」


 翔ちゃんが、聞き逃さずに私に食いついてきた。


「なんでもない!」


 そう言ったけど、


「あっ、瑠璃、嘘ついてる! 目が上見てるし」


「見てないし」


 とことんとぼけようとしている私に、


「瑠璃ちゃん! 宇山になら言ってもいいよ」


 未来ちゃんが、呆れたように笑いながら言った。


「ほんと?」


 一応、もう一度確認する。


「なんだよ! 早く言えよ」


 翔ちゃんが、待ちきれずに急かしてくる。


「あのね、未来ちゃん、UFO見たんだって」


 一瞬、翔ちゃんの時が止まった。


「えーっ! うそーっ! まじかよーっ!」


 翔ちゃんが、ヨダレが垂れそうな勢いで叫んでいる。


「うん、ほんと! 光の物体が、光線を出しながら駐車場に落ちるのを見たの」


「絶対、UFOじゃん!」


 なぜか、翔ちゃんは、未来ちゃんの言葉を信じきっている。

 そこからは、私そっちのけでUFO話に花が咲いていた。


 私だけ、なぜか温度差を感じていた。

 その穴を、見ていないせいかもしれない……。

 どこか冷静な自分がいる。

 やはり、UFOは、都市伝説的な存在に思えているのかもしれない。
















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