第12話

 急いで二階に駆け上がり、七色の布を入れた手提げ袋を抱えて下りてきた。


「そこまで送ってくるね!」


 パパとママに挨拶をしているマート君の腕を引っ張って、急いで外に出る。


「ふぅ〜っ……」


 空には、星が煌めいていた。

 緊張から解放されたせいか、夜の空気が美味しい……。


「すっかり遅くなっちゃったね……。マート君! これっ」


 手提げ袋の中から、七色の布を取り出した。


 マート君はその布を受け取りながら、


「ルリ! マート君より、マートの方が良いよ!」


「えっ?」


「友達のマートだから!」


(あっ、ちょっと馴れ馴れしいかなって思ってんだけど、そっちの方がいいんだ……)


「うん。馴れ馴れしい方が、良いね」


(マートかぁ……。なんだか、ちょっと嬉しい!)


「ウレシイ?」


「そっか。全部、聞こえてるんだもんね……。嬉しいって、意味分からないの?」


「分からない」


「嬉しいっていうのは……」


(えっ、どう説明すればいいの?)


「えっと、嬉しいっていうのは……、心がウッキウキーッ! って感じかな?」


 胸に手を当てて、嬉しいを思いっきり表現してみる。


「心が、ウッキウキーッ?」


 マートも同じように胸に手を当てて、私の真似をしている。


「そう、たぶん……」


「少し、分かるよ。さっき、そうだった。地球の仲間と、食事してる時!」


「えっ、地球の仲間??? あ〜っ、あれは仲間じゃなくて家族ね。私の家族!」


「家族……。家族は良いね! ウッキウキーッだね!」


「う〜ん。ま、まぁ、そんな感じかなぁ……」


(あっ、そろそろ家に入らなきゃ! パパに怒られちゃう……)


「ねぇ、マート! いつも、どこで暮らしてるの?」


「あそこの広場で暮らしてるよ」


 マートが、大通りの向こうに見えるコンビニを指さした。


「えっ、もしかして、コンビニの駐車場?」


「うん! あそこはいつでも明るいし、色んな地球人が来るからとても面白いんだ」


「まぁ、確かに……。24時間営業だからね……。でも、どうやって? どうやって寝てるの?」


「夜は、シェルターに入って寝てる」


(シェルター……。やっぱり、本物の宇宙人だ! えっ? コンビニの駐車場ってことは、もしかして?)


「ねぇ、マート! UFOに乗って来たの?」


「まぁ、途中までは……。でも、大気圏に入ってからは、このフォローシートで下りてきた」


「えっ、その布で地球に来たの?」


「うん。でも、着地に失敗して、あの駐車場に落ちたんだ」


(ということは、未来ちゃんはこの七色に光る布とUFOを見間違えたの?)


「僕達がこのフォローシートを利用して下りてくる時、他の惑星人はUFOと勘違いするらしい」


「じゃあ、未来ちゃんが言ってことは、やっぱり本当だったんだ! あっ、私の友達が、コンビニの駐車場でUFOを見たって言ってたの!」


「実は……、着地した時に何人かの地球人に見られていたんだ。すぐに記憶を消す操作はしたんだけど……」


(なんで、未来ちゃんは覚えてたんだろう? でも、教えてあげたい! マートに会わせてあげたい!)


「あの……、マートにお願いがあるんだけど」


「お願い……。何かな?」


「私の友達に、会ってくれる?」


「ルリの友達? うん、会う!」


「ほんと? じゃあ、約束ね! 明日、学校が終わったら、あの公園に行くから」


 流星を見た、高台の公園を指差して言った。


「うん。分かった!」


「じゃ、明日ね! バイバーイ」


「バ、イバーイ!」


 マートは、私と同じように手を振りながら帰っていった。









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