宇宙人が残したもの⑧

第45話

 マートがパンドム星に帰ってから、十日が過ぎようとしていた……。

 今日はうちに親族が集まり、法事が行われている。

 翔ちゃんも、家族三人で出席している……。


 翔ちゃんとは、あれからほとんど話をしていない。

 なにを言えば良いのか、分からなかったからだ。


「瑠璃! これ、翔ちゃんと一緒に食べたら?」


 異変に気付いていたママが、お皿に乗せたスイカを二つ、私に手渡した。

 和室では、大人達が賑やかに宴会を始めている。


「翔ちゃん! これ、食べよう」


 部屋の隅で、ゲームに夢中になっていた翔ちゃんに声を掛けた。


「おうっ」


 二人で縁側に出て、並んで座る。

 外はもう真っ暗で、草むらからは鈴虫の鳴く声が聞こえている……。


「マート……、パンドム星に帰っちゃったんだよな?」


 スイカを一口食べてから、翔ちゃんが確認するように言った。


「…………うん。帰っちゃったよね」


 そう言ってから、私もスイカを口に入れる。


「冷たい糖分だ! って、マートなら言うかなぁ」


 翔ちゃんを笑わせようと思って言ってみたけれど、凄く悲しくなった。


「マートは、甘くて美味しい! って言うよ」


 翔ちゃんも、悲しい顔で訂正する。


「うん、そうだね! マートは、味が分かるようになってたもんね」


 マートを思い出して、老夫婦のように二人で黄昏る……。


「俺さぁ、マートに酷いこと言っちゃたよな」


 翔ちゃんも、あの日のことを後悔しているようだ。


「マートと俺たちは全然違うのに、自分勝手なことばっか言って……」


 翔ちゃんは、ずっとマートのことを考えていたのだと思った。


「私も……、自分のことしか考えてなかった」


 あの日のことを二人で反省しながら、無言でスイカを食べ尽くす……。


「未来ちゃんがね、マートに言ってくれたの! ポチやバンは、私たちの宝物だって……。そしたらマートは、私たちの悲しい気持ちが分かったみたい」


「へぇ〜、俺たちの気持ちが分かったんだぁ。星野って、なんかすげーな!」


「うん。未来ちゃんって、凄いよね! なんか、大人って感じ……。まぁ、私の友達だからねっ」


「そこは、関係ないだろ!」


「ひどっ!」


 気が付くと、いつもの調子で笑い合っていた。

 翔ちゃんの心の穴にも、少しだけ何かが注がれたようだ。


「マートの星、あの辺かなぁ」


 宝石を散りばめたような星空を見上げ、翔ちゃんが明るく光っている星を指差した。


「違うよ! 確か、こと座のベガとか言ってたから、あっちの方じゃない?」


「違うな! だいたい、瑠璃は、こと座とか分かってのかよ!」


「えっ、まぁ、よくは分かんないけど、マートはあの辺を指差してたもん! パンドム星って、どんな星なんだろう?」


 マートの話をするのは、やっぱり楽しい。

 翔ちゃんの胸にも、未来ちゃんの胸にも、マートが鮮明に残っている。


「あーっ! マートに、会いてーなーっ」


「私も、マートに会いたい!」


 素直な気持ちを吐き出したら、心がスッキリした。


 小学五年生の、熱い季節が終わろうとしている……。

 胸に痛みの残る、夏だった……。

 赤や黄色、緑に青……、全ての色がキラキラと輝いていた夏だった……。

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