第34話◇百層大冥宮武闘ランキング?

 骸骨さんのアデプタスさんの説明っ。


「では、これまでの階層守護者会議でのミルさんの扱いについてですが、百層大冥宮より出すな、という意見が多いであります。中にはそんな面倒なのさっさと追い出せ、というのもいるでありますが」

「やっぱり出してはくれないんだ」

「魔王様の愛刀、セキ様を置いていくことを条件に外に出す、というのもありますが」

「まだまだセキには教えて貰いたいこといっぱいあるし、ずっと一緒だったから手放したくないよ」


【寝るのも同じベッドで何やら夫婦のようだの】

「まだ離婚するつもりは無いからね。それに光の加護の話とか聞いちゃうとね。このまま地上に戻る前に何かできないか、とか考えちゃう」


 フェスが首を傾げて私を見る。


「あら、何かしでかすつもり?」

「光の加護が無くなって、ここの人達が地上に出て再戦勃発とかならないように、何かできないかなって」

「ミルが気にしてもね。どちらのことも知ってる珍しい人物ではあるけれど。それもあってセキを取り上げてミルを殺してしまえ、というのもあるのよ」


「たぶんそれが簡単なんだろうけど。そこはやっぱりあれ? 私がセキの主になったから?」

「その通りであります。セキ様の意思を尊重せよ、と。これはモーロック含めて言う者が多いであります」

「そうだよねー。それが無かったら私はこうしていられないだろし」

「中にはミルさんがセキ様の主に相応しく無い、という者もおりまして」

「それも解る。魔王様の愛刀だもんね」


「なので百層大冥宮で武闘大会を行ったであります」

「え? なんでそうなるの?」

「トーナメントでは無くリーグ戦で魔法無し。これで百層大冥宮ランキングを作り直したであります」

「ちょっと話が見えて来ないんだけど?」

「ミルさんにはこのランキングの下から相手にして貰って、勝ち進んでいけば魅刀赤姫の主としての実力をアピールできるでありますよ」

「はいいい?」

「ついでに実戦訓練ができるであります」

「あ、セキがそろそろ実戦に近い訓練も必要かって、この前、言ってたけど」

【うむ、ミルもその段階に来ておるしの】


 フェスが扇子で口元隠して。


「ふふふ、お茶のときにしたその話をアデプタスと相談してね。お膳立てしてみたの」

「武闘大会は、久し振りに盛り上がったであります。そしてこれが新たなランキングであります。セキ様、誰からミルさんの相手をさせるでありますか?」

【手始めとしては、特殊なことをせぬ者が良かろ。毒液吐いたり催眠音波出したりするのは後回しでの】

「ドンドン話が進んでく? 当事者の私、置いてきぼり?」

【やはり、ゴブリン、コボルト、この辺りからであろ】

「ではこのレッドゴブリンの剣士から参ります。スケジュールはこちらで組んで良いでありますか?」

【アデプタスに一任する】

「お任せであります」


「えっと、いきなり実戦日程をさらっと組まれたよ? でも、ゴブリン? レッドゴブリンって何?」

「迷宮上層の魔物は、実は迷宮の防衛装置であります」

「はあ?」

「迷宮が産み出した、本来の魔物、本来の種族の劣化コピーなのであります。それ故、知能も低く会話もできません。四十層以上の魔物はこの迷宮魔獣であります。なので倒すと中から魔石が出てくるであります。あれは迷宮と迷宮魔獣を繋いで迷宮魔獣を動かすエネルギー源、と言えば解りやすいでありますか?」

「知らなかったー! それで倒しても倒しても全滅しないのかー! ホントに湧いて出てきてるのかー! え? じゃ宝箱は? お宝は?」


「ダークドワーフやグレムリン、レプラホーンが作った余り物、自分の魔法研究でできた副産物など、詰め込んでポップするようにしてるであります。まぁ、粗大ごみであります」

「お宝だと思ってたら、ゴミだった!」

「探索者はある程度、財宝を手に入れたとこで引き上げますので、これをやるからさっさと帰れ、と宝箱を出してるであります」

「ふふふ、ついでに罠もつけてね」

「それで宝箱も湧いて出るのか百層大冥宮!」


 うわわわわ、お宝が実はゴミでしたなんて。確かにアデプタスの作ったっていうのは凄いよ。この九十九層って、魔灯で明るいし、魔動ドアとか、魔動昇降機なんてあるし。他にも魔動掃除機、魔動冷蔵庫、魔動洗濯機、魔動空気清浄機とか、地上に無いものいっぱいあるし。魔法の産物凄いって思うけれど。


「練金術の研究成果で宝石も金も銀も、わりと簡単に作れるようになったであります」

「アデプタスは暇さえあれば魔法研究だものね」

「そこはフェスの踊りと似たようなものであります。それでまぁ、適当に作った宝石とか金塊とか、宝箱に入れてるでありますよ。配下の魔法の練習と練金研究でできてしまうので、ゴロゴロあります」

「価値観が違う! そうなのか、私達、ゴミ拾いで喜んでいたのか。これを探索者が知ったらなんて言うんだろう?」


「なので、ミルさん。ゴブリンとは言え上層のゴブリンと同じと考えては、酷い目に会いますぞ」

「じゃあ、そのゴブリンさんは、どんなゴブリンさんなの?」

「ひとつの種族としてのゴブリンであります。会話もできるであります」

「あ、お話できるのか。上層だとグギャギャとしか言わないし、襲ってくるし」

「ですので、知能もあり武装も上質。更にはゴブリンは変種が多く、その道に特化した者は侮れないものであります」


「変種って、ゴブリンメイジとか、ゴブリンシャーマンみたいなの?」

「魔術に特化したゴブリンでありますな。他には視力に特化したゴブリンアーチャーやゴブリンスナイパーというものもあります」

「いろいろいるんだ。ゴブリンって」

「武闘大会では、自己強化以外の魔術、魔法は禁止としたので戦闘に特化した種が出場したであります。古い武術を継承したゴブリンがおりましたな。ゴブリンカポエラ、ゴブリンムエタイなど」

「ふふ、ゴブリングレーシーとゴブリンシステマの闘いは高等テクニックの応酬で見応えがあったわね」

「いろいろいるんだ!? ゴブリンって!?」


 聞いたことないゴブリンがいっぱいいるよ? しかもなんか強そう?


「このレッドゴブリンはゴブリンニテンイチリュウと名乗り、両手に剣を持つ二刀流の剣技の使い手であります」

「名前だけでメッチャ強そうなんだけど? ニテンイチリュウ?」


 もう、どんなゴブリンか予想もつかない。ほんとにゴブリンなの?


【戦うことは決まったのだから、それに向けての修練とするかの】

「いよいよ、実戦かー」

「怪我をしても自分が治療するので、ご安心を。蘇生もお任せであります」

「アンデッドにはしないでね」


 で、七日に一度くらいの割合で私はこのランキングに挑戦することに。魅刀赤姫の主として認めてもらうには負けられない。負けられないのよ。ホントはね。

 初戦のゴブリンニテンイチリュウに負けて死にかけたけどね! いやゴブリンなめてました。ごめんなさい。二刀流で速いでやんの。それに私はここに来てから、私より背が低いのの相手をしたこと無かったから。


 戦ったのは九十二層のアンデッド訓練場を借りて、アデプタスとフェスが立ち会い。私のセコンドにマティア。相手もセコンドというか同門の流派のゴブリンと来てた。

 アデプタスはお客を入れるつもりだったけど、お願いして止めて貰った。見せ物にしなくて良かったよ。初戦で負けたんだから。

 相手の二本ある剣の一本は斬ったのと、ギリギリの勝負でゴブリンニテンイチリュウの辛勝。なので、ボロ負けじゃ無かった分マシなんだけどさ。


 おなか刺されて死ぬかと思った。アデプタスに治してもらって、キズも残ってないけどさ。


「ミルちゃん次はガンバロ」

「うん、マティア、特訓付き合って」

「ふふふ、次から負けたらペナルティね」

「フェス? ペナルティって、あんまり厳しいのはちょっと」

「そうね、晩ごはんのデザート抜きで」

「イヤああああああ! もう、負けられない!」

【それでモチベーションが上がるのであれば良いが】


 地上で光の加護が少しずつ弱くなってるって、アデプタスが言っていた。これで光の加護がもし消えて、それで人間弱いとか思われたら、ここの人達が地上に攻め込んじゃうかも。

 かつての聖魔大戦の闇の軍勢、魔王の配下、光の軍勢に負けた敗残兵の生き残り。中には死刑を待つ囚人みたいな気分の人もいるとか。

 ここに二年も住んでたら、ここが家みたいで、フェスもマティアも家族みたいで、ここのの人達と地上で戦って欲しくないし、地上と敵対して欲しくない。

 できたら仲良くすることができないかな?

 とりあえず、私が強いんだぞ、と見せて地上に手を出すのはヤバイ、とでも考えてもらわないと。

 光の加護が無くなったら人間は弱いって思われてんだから、光の加護の届かないここでも私が、人間は、なかなかやるんだぞって見せておかないと、地上が危ない。


 なんで私が地上を背負って戦う代表選手みたいになっちゃったんだろ?


「ランキング106位、リビングアーマーのカルトマスです。ヨロシクお願いします」

「ミルです。よろしくお願いしまーす。リビングアーマーということは、中はカラッポですか?」

「ハイ、なので返り血の心配は要りません。手加減も必要ありません。ミル様は相手と話をすると、攻め手が鈍ると聞きましたが、私に遠慮はいりませんよ」

「え? ちょっと、誰がそんなことを」

「ゴブリンニテンイチリュウが言ってました。あの子はええ子やー、と言いふらしていました」

「あのゴブリンのおっちゃんはー!」

 

 だってお話できたら、ケガさせたり死なせたりとか、やりにくいじゃない。上層で探索者やってたときは話ができる魔物とか、いなかったし。


【甘さはときに死を招く。覚悟を決めよ】

「うん、だけどね。この戦いは命を賭ける戦いじゃ、無いと思うんだ。アデプタスに頼ってるのかもしれないけれど」

【また、デザート抜きになるが?】

「おデザ!」


 リビングアーマーのカルトマスと試合開始。おねがいしまーす!


「動甲冑疾風剣!」

「人の形に似てるのに、人と動きが違うのはやりにくいなー。てい!」


 リビングアーマーさんの頭を切り落としてみました。首のところスパッと。頭がゴロンと地面に落ちる。勝った、かな?


「ハッハッハッハッハ、頭なんて飾りですよ!」

「え? まだ動けるの?」

「リビングアーマーですから! ハッハッハッハッハ!」

「じゃ、じゃあ、手足を落とすね?」


 ズンバラリン、と。


「ハッハッハッハッハ、降参です。手も足もでません」

「ですよねー」


 こんなんでいいのか? 確実に一対一の実戦経験は積めるけど。いろんな人が相手してくれて楽しいけど。

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