第11話◇ほへー、いい湯だなー……プツン
マティアさんに案内されて九十九層をテクテクと。壁も天井も白くてキラキラしてるし、大きな絵が飾られてたり、でっかい彫刻があったり。でも、キンキラとやたらと派手では無くて、落ち着いた感じ。凄いお屋敷、これがこの階層全部そうだっていう。ほへー。
前を歩くマティアさん。私より頭ひとつ背の高い黒髪のメイドさんは、なんか呟きながら歩いている。
「……セキ様は我が女王の親友だから敬うのは当然にしても、こんな弱そうでちっちゃい女の子はどう扱えばいいのかしら? へりくだり過ぎてもダメですよねー。難しいこと言ってもきっと解んないですよねー」
聴こえてんぞ、おい。ちっちゃい子扱いかい。背は低くてもこれでも14歳だい。
「ちょっと美味しそう、いえいえ、可愛らしい女の子だし、お客人だけど、くだけた感じの方がミル様も話しやすいですよねー、きっと。これでモーロック様とやりあったって信じられない。ちっちゃ美味し、コホン、ちっちゃ可愛いのに」
美味しそう、と2回も言われた。身の危険がビンビン感じるよ。そのマティアさんがクルリと振り返って。
「ミルちゃん。解んないことがあったらマティアおねぇちゃんに何でも聞いてね」
ニッコリ笑顔で幼児扱いされたー。
「ミルちゃん、この部屋を使ってね。私達が使ってる個室と同じ作りだけど、棺桶よりもベッドの方がいいのよね?」
「もちろん! うわ、机に鏡台とか凄い立派」
「こっちがお風呂よ。皆が使う大浴場もあるけど」
「大浴場あるの? 凄いね九十九層って。おっきいお風呂入りたい」
「裸のミルちゃんを見たらガマンできずに飛びかかっちゃうのがいるかもしれないけど、それでもいい?」
「やめときます! お風呂は血を吸われるとこじゃないよね。お風呂はひとりで静かに使うもんだよね。身体と髪が洗えるだけでも十分」
「ちゃんと浸かれるわよ。はい、ミルちゃん、お風呂に入りましょーね」
そう言ってマティアさんは私の服に手をかける。あれ?
「マティアさん、何してますのん?」
「お風呂に入るには服を脱がないと。さぁ、ミルちゃん、脱ぎ脱ぎしましょうねー」
「ちょっと待って! ひとりでできるから、脱がして貰わなくてもいいから!」
「大丈夫、マティアおねぇちゃんに任せなさい。うふふ」
「ニヤニヤしながら手をワキワキさせないで、怖いから。ホントに手伝って貰わなくていいから、ひとりでできるってば」
「遠慮しなくて、にゅふふ、いいのよ? 一緒にお風呂に入りましょ。身体のすみずみまで綺麗にしてあげる」
「カンベンしてください! 今度は違う種類の身の危険が来ちゃったー!」
「はぁいミルちゃん、逃げないでね。うふ、おねぇちゃんに身を差し出して、ふほほ」
「目が! 目が怖いよ!」
【マティア、からかうのもその辺りにしておけ。見てるのも楽しいが】
「はい、セキ様。ちぇー、残念」
ふおー、怖かった。マティアさん、そっちの人なの? それともからかっただけ?
「吸血鬼って、シャレがきついの?」
【暇を持て余してて、そこにミルという玩具がきたから、遊びたいのかの?】
「やっぱ、玩具かペットの扱いなのか。そんな気はしてたんだよねー。ご飯にされるよりはマシだけどさー」
お風呂も白くて綺麗だった。街では、たらいのお湯で身体を拭くかお風呂屋さんに行ってたから、こんな一人用のお風呂なんて贅沢品は初めてだ。わーい。お湯も入ってる。
服を脱いでザブンとつかる。セキは剣帯から外して湯船に立て掛けてる。近くにいてくんないと怖いから。
【ミル、湯船に入る前には身体を洗え】
「いーじゃん。私ひとりなんだから」
湯船のフチに頭を乗せる。ふぃー、なんかいろいろあってメチャクチャな1日だった。温かいお湯が染みて、フワフワする。
【おい、ミル?】
意識が遠くなる。
【ミル?】
私の身体に私の心は、私が思ってるよりも疲れてたみたいだ。お風呂に入ってほう、と息を吐いたら気絶するように寝てしまったらしい。
そりゃそうだよね。迷宮でアイホーンから逃げまどって、死ぬかと思って、この時点でけっこうクタクタだったのに、
よく生きてるなー、私。なんて日だ。
目を覚まして気がついたら、今はベッドの上。白い清潔なネグリジェなんてものを着せられて寝てた。
で、
「あぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ」
全身筋肉痛。
痛い、身体中痛い。あちこち痛い。痛すぎて身体のどこが痛いかも解らない。動くと痛い。動かなくてもジワジワ痛い。こんな筋肉痛は初体験。涙が出ちゃう。
【ミルの身体ではモーロックの相手をするのは無理があったかの】
「せ、セキぃ。これってセキのせい?」
【我のせいにするなよミル。まぁ、少しばかり限界を越えたが、たいしたことでは無かろ】
「たいしたことあるます! あぎぎ。私の身体を大事にしてあげて!」
【これでは先が思いやられるの】
「これ、魔法で治してくんない?」
【せっかくの機会だ。ミル、今、身体のどこがどう痛いか自覚しろ。そこがこれから鍛えるべき部分だ】
「あちこち痛いよ、痛くないのが何処かも解んないよ。それで、何で私、いつの間に着替えてんの?」
「それは私でーす」
ベッドの脇に立つメイドさん。マティアさんが応えてくれる。ちなみにセキは私のお腹の上に横になってる。
【ミルが気を失ったところでマティアを呼んだ】
「それで、ミルちゃんの身体を拭いてお着替えさせてベッドに運んだの。半日寝てたのよ」
【気を張って無視していたものが、気が抜けたところにやって来た、と、いったところか】
「ミルちゃん、お肌が荒れてるわね。ちゃんとケアしてる? 髪も痛んでるし」
「そんな余裕のある生活できてたら、探索者やってないよ」
「でも、ミルちゃんのお尻って可愛いわね、うふふ」
「寝てる私に何をしたぁ!」
【まぁ、フェスに頼んで、これでミルの食事に着替え、寝るところも確保できた。これで修練が始められる】
「修練? セキ、何言ってるの? 地上に行くんだよね?」
【ミルひとりでは地上に行けぬであろ?】
「そこはセキ様のお力でひとつ」
【たった1度ミルの身体で戦ってそのザマだぞ。何度もやればミルの身が持たん。それでどうやって地上に行く?】
「そりゃ、そーかもだけどさー」
【それにミルは力を求めると言ったであろ】
「言ったけど、それが?」
【我がミルを鍛えてやろう。この魅刀赤姫の主に相応しき実力の持ち主になれるよう、我が刀術を伝授してやろう】
「そういう話だったっけ」
【どんなことがあろうとも生きていける力、そこに何処まで近づけるかは解らぬが】
「セキの言うそれと、私の思うそれって、言葉は同じでも中身が違うような気がするんだけど」
【小さな違いなど些末なものよ。ミルを鍛えて強くする。そして、ソロでこの百層大冥宮を往復できるくらいの強者となれば、地上に帰ることも簡単であろ】
「うぇ? それは無理じゃない? そんなのできるの120年前の勇者だけだよ」
【そのくらいできなくてどうする。実力無き者に我が身を任せると思うたか? さて、ミルを鍛えるにあたりどんな修練を行うか。いきなりモーロックとスパーリングとか無理だしの】
「そんなの無理のムリムリ! 世の中、力だけが全てじゃ無いよ? もう少し平和的に地上に行く方法があるんじゃないかなー?」
【あったとしても、そんな方法おもしろくともなんとも無い。なのでミルよ、その身ひとつでモーロックを倒せるくらいに強くなれ。それまでこの百層大冥宮からは出られんぞ】
「できるかー! あたたたた。ちょっとハードルが高過ぎない?」
【その筋肉痛が治まってから修練を始めよう。それには、風呂で温めてマッサージか】
隣に立つメイド吸血鬼が、いー笑顔で手を上げる。
「ハイ、セキ様。このマティアにお任せ下さい」
【では頼む】
「ひぃ?」
「さぁ、ミルちゃん。今度こそ一緒にお風呂ですよー。脱ぎ脱ぎしましょうねー。そのあとはじっくりマッサージしてあげまーす」
「指をワキワキさせるなぁ! あいたたた! こっちが動けないからって、変なことするなぁ!」
「セキ様に頼まれましたので、一切の手抜かり無く、一流の最高のサービスをお約束します」
「そのサービスは誰が得すんのー! やめて、ツンツンしないでぇ!」
「じゃあ、フニフニしちゃう」
「フニフニもダメー! あぎゃぎゃぎゃ!」
【くく、ミルはいつも楽しそうだの】
「セキぃ! 助けてー!」
【もちろんこのセキがミルの修練を手助けしてやろう。やがてはかつての魔王に並ぶ程に鍛えてくれようぞ】
「助かる気がしない! あぎゃ! マティアさん、もうちょっとそっと動かしてー!」
「はあいミルちゃん、大人しくしましょーねー。うふふ」
マティアさんにマッ
【さて、ミルの修練メニューはどうするか。何から始めてどう鍛えるか。ミルよ、地獄コースと煉獄コース、どちらが良い?】
「天国コースがいいなー」
「まぁ、解ったわ、ミルちゃん。天国を見せてあ、げ、る」
「マティアさんストーップ! ストーップ! その手をそれ以上、下に動かすなぁ! やめろマティア! マジやめてー!」
お風呂から出たときには、抵抗する気力も出ない程にぐったりした。そのあとのマティアのマッサージは、気持ち良かった。
エロく無いよ。ちゃんとした普通のマッサージだよ。合間にちょっとムニムニはされたけど。マティアがハァハァする度に鋭い犬歯が見えて背筋がゾクッとしたけど。血は吸われなかったし。
もっとあっさりと地上に行けると思ってた。セキがなんとかしてくれそーだ、というのはここまでみたい。いやまー、私はセキの主というには、他力本願のダメダメのひよっこシーフだし。私が力を求めるって言っちゃったから、そこにセキが乗ってきたのであって、あの宝物庫で私が言ったことに嘘は無い。強くなりたいのはホント。
強くならないと地上に帰れない。パーティの皆は無事に帰れたかなー。
セキが鍛えてくれるっていうけど、私、ちゃんとできるのかな? 強くなれるのかな?
この筋肉痛が治ったら修練開始だって。
セキの見せてくれたブレス斬りなんて、人ができる気がしないんだけど。あれを私にやれってこと? うひぃ。
「ねー、セキぃ」
【なんだ? ミル?】
「私にさー、刀術の才能とか、素質ってあるの?」
【さてどうかの。それはこれから試してみれば解る】
「えー? 見所があるとか言ってたのにー」
【あぁ、それはもちろんある】
「よーし、それ聞いたらなんだかやれそうな気がしてきた」
【
「そーゆー落とし方はいらないー」
何処までできるのか解んないけど、できなきゃ地上に帰れない。それならセキの刀術修練、がんばってみよーか。それで強くなれるなら願ったり叶ったりだ。
でも、その前に。
お腹が空いたなぁ。
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