第21話◇マティアのO脚を直そう?


【ついでにマティアがO脚気味なのでそれの直し方も】

「セキ様! 是非お願いします!」

「おぅ、マティアが食いついて来た。セキ、O脚って?」

【くるぶしをつけて真っ直ぐに立ったときに、膝と膝がくっつかない足のことだ。重度の場合くるぶしもくっつかないことがある。これは足の外側に肉がつきやすい】


 フェスが扇子をクルクル回す。


「美脚とは呼べないわね。XO脚なんてのもあるけど」

【これは骨格の異常で成るものは少ない。ほとんどが立ち方のクセで成る。幼児が立ち方を真似するのは回りの大人なので、親がO脚だとその立ち方のクセを真似して、子供もO脚になりやすい立ち方になることが多い】

「セキ様! それはどうすれば治りますか!」


 マティアがグイグイ来るなぁ。足の形、気にしてたの?


【一時的に治す方法はいくらでもあるが、根本の原因を直さねばもとに戻る。O脚は膝から下の骨、内側の骨よりも外側の細い骨に体重をかける立ち方、歩き方がその原因だ。そのため足の外側に筋肉がついて内側の筋肉が衰える】

「ハイ! それで?」


【立つときに、膝から下の内側の太い方の骨に体重をかける立ち方に変えることで、改善する。この立ち方、歩き方を続けると足の内側の骨の周り、腰の内側に筋肉がつくようになる】

「ふふ、美しい歩き方が美脚を作るのよ」

【地面を蹴るとき、地面を踏み込むときも、細い骨よりも太い骨を使った方が、強く蹴ることができるし、体重を乗せて踏み込むことができる。なので、常に自分の体重がどの骨にどのようにかかっているか、知覚できるようになると良い】


「ししょー、それって右足、とか、左足、って大雑把じゃなくて、もっと細かく足の中のどの辺にどのくらいって、自分でわかるようになれってこと?」

【そうだ。と言っても最初は難しいので、足の裏、土踏まずの踵側、内側と外側が一対二になるところ。そこに体重が落ちるように、立つこと、歩くことを心掛けるといい】

「ハイ、解りました!」


 これでマティアの足が美脚になるのかな?


【歩き方の補足としては足音か】

「足音? 私、音を立てない忍び足はそこそこできるよ、シーフの職能だし、練習もしたから」

【であれば問題無いか。一応説明しておくと、足音が大きい歩き方は気をつけた方がいい。拍手でやってみると解りやすいが、力を入れて叩くと音を大きく鳴らせる。それを続けると手が痛くなる。足音も同じで、強く地面を踏むと音が大きく鳴る】

「そうだね。その音を膝を柔らかーく使って、地面を足の裏でそっと受け止めて、足音立てないようにする練習したよ」


【足音が大きいということは、それだけの衝撃が足にかかっているということだ。膝の動きが固く、歩くのに必要以上に力を入れている。これは疲れやすいし、何より足首、膝の関節にも負担となる。歳をとってから膝が痛いと言い出しかねん】

「ガツガツ歩くと靴の裏の減りも早そうだね」

【その靴を履いて歩くのに慣れると、足の裏の感覚が鈍くなる。裸足で足の裏が痛くならないように歩けば、足音は大きく鳴らん】

「ししょー、そういう人はどうすればいいの?」

【力を抜く。歩くのに必要最小限の力だけを残し歩くことを心掛けるのよ。のんびり歩くようにすると良い】


 ふーん、と話を聞きながらアーティの骨の足をペタペタさわる。うん、太い方の骨が細い骨より頑丈そうだ。使うなら丈夫な方を使った方がいいよね。で、膝から下の骨は二本。腕も肘から先の骨は二本だよね。


「セキ、腕の骨も二本だよね。こっちもそうなの?」

【足のように常に体重がかかるのでは無いので、O脚のようにはならないが、こちらもどちらの側の骨を使っているか意識できると良い。刀を持つ手の形、斬り手は小指側の腕の骨を向こう側へと突き出すようにして手首を反らす】

「小指側の骨、こっちか」

【小指側の骨が尺骨。親指側の骨が橈骨というのだが】

「ししょー、いきなりコレ全部憶えられません」


 アーティさんを指差して。だって骨って二百以上あるんでしょ? ひとつひとつの名前を憶えてその役割を知って、これを全部使いこなすっていうの? 頭がパーンってなっちゃうよ。


「くうっ、さんざん辱しめを受けて、指差されて、コレ呼ばわり……、なんという、なんという屈辱……」

「アーティさん動かないでよー」


 アーティさんがなんだか、モジモジしながらハァハァしてる。どしたの?

 見てたアデプタスさんが、


「よろしけばワタクシの図書館より図鑑をお持ちしますが。本を汚さないと約束していただければ、お貸しするであります」

「ありがとー、アデプタス優しい。あ、でも私、難しい字は読めない。簡単なのは読めるんだけど」

【それならついでにそちらも学ぶと良かろ】

「うーわ、憶えることいっぱいだ。本は汚さないように気をつけます。弁償とかできないし」


【まぁ、一度に全部とは言わん。よく使う部分から憶えていくと良いであろ。どんな役割をしているか、を考えて同じものが身の内にあると知覚しての。今回はあとひとつ、肋骨、胸の骨を見てみよ】

「何本もあるね。鳥かごみたい」

【十二対、二十四本。見ればわかるとうり内蔵を囲んで守る骨だ】

「これを1本1本動かすの?」

【1本ずつバラバラに動かすのは無理か。繋がっておるし。その前に、この骨の回りの肉をほぐすと良い。肋骨は内蔵を守る骨であり、この骨の回りの肉は固めようとしがちだ。指や手のひらで軽く押して柔らかくする。無理をすると痛めるので、優しくの】


 自分の手の平でぐーりぐーりと肋骨の辺りをマッサージ。こんな感じ?


【下の方の肋骨の間に指の先が入るぐらいに】

「え? ここに指が入るの? アーティには肉が無いから入るけど」


 言いながらアーティの肋骨の間に指を入れてみる。スポッと。


「はぁっ、うぅっ」

「変な声出さないでよアーティ。私がやらしいことしてるみたいじゃない」

「こんなに弄んでおいて、なんていう言い草……くっ」

「ミル、こっちにも指を入れてみない?」

「フェス? え、フェスの肋骨って指が入るの?」

「肋骨回りを柔らかくすることで、肺と心臓にかかる負担が少なくなるわ。血流と呼吸がスムーズであることはお肌にいいのよ」

「ほへー」

「更にはウエストを細くしてバストアップにも効果があるの」

「なんですとー? それがその女王っパイの秘訣かー?」


 フェスの手に誘導されて、ドレスの胸の深い切れ込みに手を入れる。腕がおっぱいに触れる。うわぉ。むにーん。


「あら、意識してる? ドキドキしてきた?」

「私はそっちの気は無いからねっ!」


 フェスの手に押されると、私の指がフェスの肋骨の骨と骨の間に、ズニュッと入る。


「うわ、ほんとに指が沈む。こんなに?」

【フェスとまでは行かなくとも、柔らかくほぐしておくといい。ストレスが多いとこの部分が固くなる。これも身を守る防御動作。しかしその状況が長く続くと固まったままになってしまう。そして肋骨回りが固いと呼吸が浅くなる。イライラしやすくなる。神経質でカリカリする人物は、だいたいここが固まっている。肋間神経痛にもなりやすくなる】

「よし、バストアップの為に」


 両手の平で肋骨をぐーりぐーりと。おっきくなーれ、おっきくなーれ。


【痛いのを無理して強引に押し込んで骨折などしないように。肋骨の一番下は人間の骨の中では比較的、折れやすい骨だ。逆に言えばそこに最適の角度でボディーブローを打ち込むと、狙って折ることができる】

「怖っ! 美容体操からいきなりケンカ殺法に?」

【どちらも身体の話だ。活かす術、殺す術、どちらもその根源は同じ肉体。故に活殺術と言うのよ】


 マティアが毛布を持ってきた。横座りして俯いて、骨なのにはぁはぁ、と息を荒くしてるアーティの骨の身体を毛布で隠す。……なんだか私がひどいことしたみたいになってる。


「アーティ、ありがとー。スッゴイ勉強になった」


 お礼をいったら無言でプイスと目を逸らされた。スキンシップで仲良くなれたかと思ったのに。


「こんなにじっくりと人の骨を見たこと無いよ。あの骨が私の中にもあるんだよねぇ」


 アデプタスが顎に手を当ててる。


「専門家でも無ければ、解剖学者か死霊術師でも無ければ、己の骨であっても知らぬ者の方が多いであります。肉体の構造から極めんとするセキ様の刀術が、武術の中では珍しいであります。ふむ、構造を解析し、その根源を見出だし操ろうというのは、死霊術の奥義に似ておるでありますな」

「そうなの? セキの刀術って珍しいの?」

「手っ取り早く使える兵士を育てるには向かないのであります。ひとり育てるのにかなりの時間がかかりそうであります」

「そっか、私の知ってる訓練場とはゼンゼン違うしね。あれこそ手早く探索者を育てようって奴だったんだね」


 打ち込み、筋トレ、模擬戦闘。すぐに実戦で使えるような練習。セキの修練とはずいぶん違うなー。


【目的によりやり方は変わる。どちらが優れていると簡単には言えん。我のやり方では大人数を短い期間で迷宮に送るには不向きよの。このやり方では兵士は作れぬ】


 フェスが続けて。


「そうね。それとセキの刀術は筋肉自慢のマッチョ思考にも向いてないわね。繊細な人には向いてそうだけど」


 フェスがクルクルと扇子を回しながらこちらに来る。なんだかニヤニヤしてる。なんだろ?

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