第3話◇そんなメチャクチャ言ってないし?


 うーわ、ホントに、どーしよーか、これ。

 この宝物庫から出たとこで、番人のドラゴンに見つかったら殺される。そこをなんとか逃げたとしても、ここは大冥宮の地下百層。地上は遥か彼方。しかもアイホーンなんて目じゃないなんてのがゴロゴロいて当たり前とか。ははは。無理のムリムリ。


【いつまで寝転んでいる?】

「ちょっと、これからどうしようと考えてたら、起きる気力が」

【ミルはどうしたい?】

「そりゃ、地上に帰りたいよ」

【だが、その手段が無い、というところか】

「逃げ続けるにしても、保存食の入ったリュックも置いてきたし、あるのは水筒とナイフが3本。あとはピッキングツールと財布だけ」


 手をついて起き上がる。無理のムリムリでも最後まであがいてみようか? 私の逃げ足でどこまで行けるやら。辺りを見て使えそうなもの。


「そうだ。ここって凄い武器とかいっぱいあるんだった。ねぇ、セキ。ここの水晶の中のものってどうやって取り出すの?」

【この階層の守護者を倒せば封印が解ける。その力を持つ者にしか委ねることはできん、ということだ】

「階層守護者っていうのはー、」

【カオスドラゴンのモーロック】


 ダメじゃん。それをどうにかしたいのに、それを倒さなきゃダメって、ひどくない?


【あとは、この封印柱を作った魔法を解呪する、という手もある】

「私、魔術師じゃ無いんだけど」

【まぁ、魔術師であっても九十二層『灰骸の墳墓』階層守護者のアデプタスの作ったものを解呪できる者は、なかなかおらん】

「どーにかならない?」

【簡単にどーにかできたら、この宝物庫の中は今ごろカラッポになっておるだろう?】

「そりゃそーかもしんないけどー。なにか希望が生まれそうな、いい方法は無いかなー?」


 無いものねだりは解ってるけどさ。本来はここまで自力で来れたって人にしか、手にすることはできないってのも解ったけどさー。


【くくくくく】

「何がおかしいの? こっちは困ってるのに」

【ずっとこの宝物庫で微睡むだけだったのだ。たまに掃除に来たり遊びに来たりするものもいるが、代わり映えしない日々に少し飽きておった。こんな珍事は初めてで楽しいぞ】

「性格わるー。人の困ってるとこ見て楽しむなんて」

【すまんなぁ、くくく】

「ここって誰か来るんだ。そっか、掃除してるから埃も無くて綺麗なのか。誰が来るの?」

【各階の守護者が暇潰しに遊びに来たりする。あとは九十九層の吸血鬼がここを掃除しに来る】


 吸血鬼って、メッチャ強いアンデッドだよね。それがお掃除って。そんなのが来たら私どーなる? ろくでもない未来しか思いつかなーい。


「せめてその掃除に来るのと鉢合わせだけはしないようにして、でも、ここに籠っててもどうにもならないし。イチかバチかで走り抜けてみる? 行ける気がしないなー」


 腕を組んで考えてもいい考えは浮かばない。なんかお腹も空いてきたけど、食べるものも無い。水筒出して水を少し飲む。保存が効くように安い葡萄酒を少し混ぜた水はあんまり美味しくない。

 どーしよー。もー、助けて女神様ー。


【ひとつ、どうにかなるかもしれない手段がある】


 なんか、楽しそうな声でセキが言う。


「なに? ちょっと聞かせてよ」

【我を楽しませてくれた礼だ。ミルがひとりで地上に行くためには、今のところ実力が足りない。これが問題なのだろう?】

「そうだけどさ」

【ならば、鍛えて強くなればいい】

「無茶言わないで。ひとりでドラゴン倒せるくらい強けりゃ、余裕で帰れるだろけどさー」

【そして我はここで微睡むのに飽きておる。ここから連れ出す者が現れないか、と、待っていた】

「あ、そうなの? セキはここから出たいの?」

【そうよ。できればいろいろな所をぶらりと見て回りたいとも考えていた。ミルが我を連れ出すなら、ミルがここから出るのに手を貸してやろう】

「是非ともお願いします! セキ様は女神ティセルナ様の御使いですか?」

【その鬱陶しい女神の名前は不愉快だ】

「すみませんした! そうだよね、魔王の側から見たら地下に押し込めた敵なんだよね。ごめーん! もう言わない!」


【軽いな、ミルは。まぁよい。では我が手を貸すにあたり、我が問いに応えよ】

「なに? なぞなぞ?」

【この魅刀赤姫、力無き者に我が身を委ねたりはせぬ。しかし、ミルにはその力が無い】

知恵もつ魔法の遺産インテリジェント・アーティファクトがプライドが高いって、ホントなんだ」

【なんだ? 地上には我に似たものがいるのか?】

「私は見たこと無いよ。噂というかお伽噺というか。意志のある武具は持ち主を選ぶ、でー、真に認められた主はその武具の秘められた力を使えるって。そーいう話があるの」

【我には秘められた力とか、そんな大袈裟なものは無いが、それを知ってるなら話は早い。実力の面で我はミルを主とすることはできん】

「そりゃまー、前の持ち主の魔王と比べられたらねー。でも、それじゃセキの持ち主になれる人なんていないんじゃ無いの?」

【故にその者の志で測ろう。ミルよ、ミルライズラよ、汝、力を求めるか?】

「もちろん!」

【では、何の為に力を求めるか?】


 何の為にって、そりゃここから地上に帰る為に。だけど、セキが私の志を測るっていうならこの答に私が地上に帰れるかどうかが、かかっているんだよね。私が何の為に力を求めるか、えーと、えーと。


「私って、孤児院出身なんだよね」

【ふむ】

「手先が器用なだけで、さしてできることも無くて、それで探索者になってシーフやってるの。できたら強くなって探索者でお宝見つけて稼いで、そのお金をお世話になった先生と私がいた院の皆に仕送りしたい、んだけど、こんな理由で、強くなりたいです」


 なんか、上手く整理もできずに言ったけど、言ってて恥ずかしくなってきた。うーん、こういうとき口の上手い人って羨ましいなー。

 魔王の剣の指南役なんていうのが、どういうのを主って選ぶのか、ゼンゼン解んないから正直に言うしか無い。


【力を求める志としては、イマイチか。同情を得ようとするなら良い話だ】

「そんなつもりは無いけどね」

【嘘をつかず真意を述べた性根の良さは、誉めてやろう】

「なんで嘘じゃ無いって解るのさ?」

【そのぐらい見れば解る。では、ミルライズラよ、汝、如何様な力を求めるのか?】


 えっと、どんな力が欲しいかってこと? それなら簡単。


「どんなことがあっても自分が生きていけるくらいの強さが欲しい」


 先ずは自分の身を守ること。これは訓練場で教えてもらったこと。それができて、できれば仲間とか孤児院の友達とか先生とか、大切に思えるものが守れるくらいに強くなりたい。

 でもそれが無理で逃げまどってここに来たんだよね。パーティもバラバラになって、みんな逃げられたかどうかも、解んないんだよね。

 私にはできないことばっかりだ。強くなりたいよ。

 だから、生きて探索者続けていたら、ちゃんと成長していけたら、強くなれるのかもしれない。強くなっていろいろとできるようになれるかもしれない。

 そのためにも、先ずは自分ひとりで生きていける力が欲しい。どんなことがあっても跳ね返せるような強さが欲しい。


【は、】


 どうかな? セキの気に入る答だったらいいけど。


【は、は、】

「どうしたの? セキ?」

【ははははははははははは!】


 爆笑された。やっぱり魔王の愛剣なんていうからには、勇者を越える力とか、さっき鬱陶しいとか言ってた女神を倒せる力とか、そういうのがいいんだろーなー。でも、自分の身を守るのが精一杯、というかそれもできなくて、逃げて宝箱蹴っ飛ばしてここに来ちゃった私には、それが1番欲しい力の形なんだよ。


「私はファイターでも無いし、上級職の聖術拳士とか到剣士でも無いし、想像できる力の形とか姿なんて、これしか無いんだよね」


 剣の道とか、戦士として生きることとは、とか、そういうのは酔っぱらったおっちゃん探索者が酒場で言ってたりするけど、私には解んなかったし。


【くくくくく、途方も無い大望を聞かされた。くははははは】

「え?」

【『どんなことがあろうとも生きていける強さ』とはな。そこまで求める者はおらんぞ】

「どういうこと?」

【ドラゴンを倒せる程の力であれば、ドラゴンを倒したところで終わる。神を殺せる力であれば、神を殺したところで終わる。剣の極意を求めるなら、極意を極めたところで終わる。ミルが望むものに果ては無い】

「えぇっと、よく解らない」

【竜巻が襲うならば風を切り伏せ、津波が押し寄せるならば海を割り、星が落ちてくるなら星を砕く。例え地上の全ての命の火が消えようとも、己ひとりはいつまでも生き続ける程の強さを求めるとは。人は見かけに依らぬものだ】

「いや、そんなメチャクチャ言ってないし?」

【さらには寿命、押し寄せる時の流れさえ捩じ伏せ、己を殺そうとする者は、病に呪いも、災厄災害も、これ全て許さず一切合切叩き潰す。それは永劫に生き続け全能を求めるに等しい望み。これは地上最強どころでは無い】

「何その怪物? そんなとこまで求めて無いって」

【だが、ミルが言ったはそういうことぞ。うむ、その力への希求に感服した。我を手にするに相応しい。さぁ、ミルライズラよ、我に手を伸ばせ】

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