第38話 魔界竜巻へ向かう夫婦



「身体強化(極限)と全魔法反射で、魔界竜巻を追い返すのよ!」

「……カリナさんには敵わないなぁ……できるかどうかはわからないけど、やってみようか」

「……そもそもですが、ユウヤ様、カリナ様。先程から話されている身体強化(極限)と全魔法反射とは、一体何なのですか?」

「そういえば、四天王の皆さんには話してなかったっけ……?」


 俺達は、四天王の皆さんにこの世界とは別の世界から来た事、その時神様から能力を授かった事などを話した。

 皆、そんな能力を持っていた事に驚いてる様子だね。

 考えてみれば、この事はマリーちゃんやクラリッサさんくらいにしか、直接話してなかったっけか。

 ……婆やさんあたりは、どこかでこっそり聞いてそうだけど。


「成る程……そうであったか……ユウヤ様達は異世界の勇者と」

「勇者は止めて欲しいですね……。それらしい事なんて何一つしてませんから」

「そうね。何せ、魔王の両親になったんだものね?」


 勇者といえば、魔王を打ち倒す者……というのが物語では多くある。

 だけど俺達は、そんな魔王を娘として可愛がってるからな……例え異世界からの召喚が、勇者と呼ばれる理由だったとしても、な。


「神様からの能力……それなら、できるのかもしれないわね」

「あぁ。そんな力があるのなら、なんとかできるかもしれねぇ」

「……身体強化(極限)か……だから、私とのアームバトルに勝てたのだな……」


 リッちゃんもキュクロさんも、俺達の能力がある事に納得し、これなら魔界竜巻にも対抗できるかもと考え始めてるようだ。

 バハムーさんだけは、俺がアームバトルに勝った理由を知って、人間に負けた事を納得してる様子だが。


「それじゃ、一緒にマリーちゃんを助けましょう?」

「そうだね。娘には悲しい思いはさせたくない」


 マリーちゃんが一生懸命、魔界の事を考えて実行しようとした運動会。

 それを無駄にする事は、親代わりの俺にはできそうにないからな。

 マリーさんと二人、頷き合って魔界竜巻に向かう事に決めた。

 ……これも、夫婦の共同作業って言えるのかな?



 翌日、婆やさんに頼んで、魔界竜巻に向かう準備を整えた。

 マリーちゃんには内緒だ。

 きっと、危ない事をする俺達を止めようとするからな……マリーちゃんは、自分が考えた事が駄目になるよりも、俺達や魔物達の事を心配する……そんな優しい子だから。

 四天王の皆さんは竜巻に近付く事すらできないので、別の所で頑張ってもらっている。

 魔物達の避難の援助や、上手くいった場合に、運動会の準備を再開するための準備なんかだ。


 避難は順調で、もし街の方へ竜巻が進路を変えても、すぐに逃げ出せるように進めているらしいし、中止を決定した運動会の準備を再開させるため、各魔物への連絡役となってくれてる。

 どうやら他の魔物達も、マリーちゃんの考えた運動会を中止にはしたくないらしく、竜巻が逸れ、中止が撤回されたらすぐにでも、準備が再開できるように備えてるらしい。


「さて、行こうか」

「そうね。マリーちゃんには、良い報せを持って帰らないとね」


 大きなマントに身を包み、二人で城の出口へと向かう。

 マントには微々たるものかもしれないけど、重りが取り付けられていて、少しでも風で飛ばされないように工夫されている。

 さらに、竜巻による風や魔力は、何かのきっかけで体に悪影響を及ぼすような魔法となってしまう可能性もある。

 マントには防塵、防刃、耐火等々の効果が付与されてるらしい。

 カリナさんには全魔法反射があるので、それに対する危険はないだろうけど、念のためだ。

 作ってくれたコボ太には感謝だ……器用なコボルトだな。


「……ユウヤパパ、カリナママ……じゃ」

「マリーちゃん!?」

「どうしてここに?」


 城を出ようとした時、出入り口の前に立っているマリーちゃんがいた。

 何も言わずに、城の中で過ごしてるマリーちゃんを置いて、二人で行こうとしたのに……。


「……全て聞いたのじゃ。ユウヤパパとカリナママが魔界竜巻を相手にするとじゃ」

「……そうか」


 誰に聞いたかは知らないが、マリーちゃんは俺達が何をしようとしているのかを聞いたらしい。

 ……心配、かけたくなかったんだけどなぁ。


「マリーちゃん、ママ頑張って来るわね」

「カリナママ……無理はしなくて良いのじゃ。……運動会も、またいつか開催すれば良いのじゃ……」

「それじゃ、今回マリーちゃんが頑張って考えた事が、無駄になるだろ?」

「それは次回で良いのじゃ……」

「でもね、マリーちゃん。それじゃ、いつになるかわからないでしょ? 今回中止をした事、魔界竜巻が来た事は、きっと魔物の皆の心にも残ってしまうわ……」

「いつかまた開催するとしても、今回の中止を覚えている魔物がほとんどだろうからね。また中止になるんじゃないか……また魔界台風が全てを滅茶苦茶にするんじゃないか……って考えても、おかしくないだろ?」

「魔界の魔物達は、そんなに軟弱じゃないのじゃ。きっと、皆また頑張ってくれるのじゃ!」


 マリーちゃんは、危険な魔界竜巻へと近づこうとする俺やカリナさんを、止めようとしてくれてるみたいだ。

 バハムーさん達ですら飛ばされ、魔法でも対処できない危険な魔界竜巻……そんな危険な物へ向かおうとする俺達を、やっぱりマリーちゃんは止めたいようだ。


「でも、もしかしたら表に出さないだけで、魔物の皆は心の底で考えてるかもしれないでしょ?」

「今回中止になってしまったら、魔物達の心の奥底にはきっと、魔界竜巻への無力感のようなものが刻まれてしまうと思うんだ」

「それに、せっかくマリーちゃんが頑張って計画した事だもの。親として、それを無駄にする事はできないわ」

「カリナママ、ユウヤパパ……じゃ……」

「だから、マリーちゃん。きっと何とかして見せるから、ここで待っててよ」

「……じゃ」


 俯いてしまったマリーちゃん。

 俺もカリナさんも、マリーちゃんが考えて、楽しみにしてた事を中止になんてさせたくない。

 可愛い娘のためだから、頑張らないと。

 ……まぁ、必ずどうにかできるという保証もないし、自信もあまりないんだけどな……けど、マリーちゃんのために頑張りたい。


「それじゃ、行って来るわね、マリーちゃん」

「婆やさん達と一緒に、おとなしく待ってるんだよ?」

「……嫌じゃ……マリーもついて行くのじゃ!」

「……マリーちゃん……」


 マリーちゃんを置いて、カリナさんと城を出ようとした時、俺に抱き着いて来たマリーちゃんが叫ぶ。

 ついて来ると言ってもな……魔法も通じない魔界竜巻相手に、マリーちゃんが来るのは危ないだろう。

 なんとか飛ばされないようにできたとしても、魔界竜巻には魔法が通じないしな。


「マリーなら、飛ばされないくらいはできるのじゃ! ユウヤパパの身体強化(極限)にも、負けないのじゃ!」

「確かにマリーちゃんは強いけど……カリナさん……」

「……」


 マリーちゃんは、俺が身体強化(極限)を使った状態で思いっきり殴っても、怪我一つしないのは確かだ。

 どうなってるのかはわからないが、確かに俺の身体強化(極限)より強いのかもしれないけど……。

 どうしようかと、カリナさんへ視線を向けると、黙って首を振る。

 ……やっぱり、危険な所に娘を連れて行くわけにはいかないよな。


「マリーちゃん、駄目だよ。危険な所に、娘を連れて行けるわけないじゃないか」

「でも、ユウヤパパとカリナママは行くのじゃ。だったらマリーもじゃ……」

「それでも、ね? マリーちゃん、ここは俺とカリナさんに任せて。魔界竜巻を逸らせたら、その先はマリーちゃんの仕事だからさ」


 俺とカリナさんで魔界竜巻を逸らす事ができても、マリーちゃんが疲れ果ててしまったら運動会の準備が滞ってしまう可能性がある。

 準備の陣頭指揮は、魔王であるマリーちゃんがしないといけないから。

 俺やカリナさんでは、どうしようもない事だ。

 だからこそ、ここは俺達に任せて、後の事はマリーちゃんに任せたいと考えた。



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