第33話 運動会準備のため運動場へ



「いてぇ……」

「あまり無理はしないでね、ユウヤさん?」

「それはわかってるんだけどねぇ……」

「良い所までは行っていたのじゃ」


 あれからしばらく、ドラゴンシャドーとの訓練を続けて、今は昼食時。

 食堂でクックさんの料理に舌鼓を打ちながら、攻撃に当たってしまった場所の痛みを堪える。

 今までは攻撃を避けるだけだったから、痛みを感じる事はほぼなかったけど、今回は反撃の事も考えて訓練してるから、よく何かの攻撃に当たってしまう。

 おかげで、体の一部が打ち身のようになっていて、今もズキズキと痛い。


 体を回転させての攻撃とか、噛み付いて来る攻撃とかは避けられるようになって来たんだけど、どうしても反撃する時、俺自身に隙ができてしまう。

 痛みがひどくなって、俺の動きが鈍くなってきたところで、今日の訓練は終了だ。

 ハイルンさんの所へ行って、治療して来いとマリーちゃんに勧められたが、一人で行く事に危機感を感じるから、痛みを我慢してやり過ごそう。


「それにしてもじゃ、ユウヤパパはどんどん動きが良くなるのじゃ。身体強化(極限)に慣れて来たのじゃ?」

「それもあるとは思うけど、身体強化(極限)も強くなって来てるみたいだからな」

「強くじゃ? つまり、ユウヤパパの力も強くなるという事かじゃ?」

「詳しくはわからないけど、そういう事みたいだ。初めて発動させた時と比べれば、体の動きが軽いからな」

「成る程じゃ。凄い能力なのじゃ……さすがユウヤパパじゃ!」

「ははは、俺自身の能力とは、胸を張って言えないんだけどな?」


 マリーちゃんと身体能力(極限)の事を話しながら、食事を進める。

 心配そうにしているカリナさんには悪いけど、頑張ると決めたからなぁ……一度決めた事はやり通さないと、カリナさんにもマリーちゃんにも顔向けできない。


 それにしても、身体強化(極限)はこの世界に来る時、神様にもらった能力だ。

 まだ自分の物……とはっきり言うのには、ちょっと抵抗がある。

 ……もしかしたら、そう考える事で身体強化(極限)が、力を発揮する妨げになっているのかもしれないけどな。

 ま、もう少し能力を使って、慣れて来たら自然とそう思えるようになれるのかもしれないな。



「昼食を食べた後は、運動会の準備じゃ。ユウヤパパは大丈夫じゃ?」

「大丈夫だよ。もうほとんど痛みも引いたからね。準備くらいなら手伝える」

「私ももちろん手伝うわよ?」

「……私もです。手伝って少しでも、存在感をアピールしないと……」


 心配してくれるマリーちゃんに大丈夫と言い、運動会の準備をするため城を出る。

 カリナさんとクラリッサさんも、できることで手伝ってくれてるから、準備も順調なようだ。

 ……しかしクラリッサさん、そんな事で存在感を示さなくても……とは思うが、訓練中は戦う事に集中していたため、今の今まで忘れていた俺が何か言える事は無さそうだ……ごめん、クラリッサさん。


「それじゃ、運動場へ行くのじゃ! バハムー!」

「はっ!」


 城を出た所で、マリーちゃんがバハムーさんを呼ぶ。

 いつも思うけど、マリーちゃんが叫んだだけで、何処にいてもバハムーさんが来るのは何故だろう……?

 バハムーさんだって、いつも暇をしているわけじゃないはずなのに……いや、暇なのか?


「何だ、ユウヤ?」

「いえ、何でいつもマリーちゃんが呼んだら、すぐに来れるのかなぁ? と考えてまして……」


 首を傾げながらバハムーさんを見ていたら、見咎められてしまった。

 シャドーと違って、本人はさすがの迫力で、俺には考えていた事を正直に話すしかできない。

 ……もっと訓練で慣れないといけないな、これは。


「マリー様の声には、魔力が込められているからな。どれだけ遠くにいても聞こえるのだ。それに、マリー様から直々の要請だぞ? これですぐに駆け付けねば、四天王の1柱失格だ」

「……そうなんですね」


 魔力を込めたマリーちゃんの声が聞こえる事で、バハムーさんは飛んで来るらしいけど……それができるから、四天王になってる……なんて事はないよね?

 バハムーさんにマリーちゃんが頼む時、いつも移動する時ばかりだから、もしかしたら移動用とマリーちゃんは考えてるのかもしれない……と想像して、すぐに止めた。

 マリーちゃんにも、何か考えがあってバハムーさんを四天王にしてるんだよな、うん。


「では、出発じゃ。飛ぶのじゃ、バハムー!」

「畏まりました!」


 皆でバハムーさんの背中に乗り、運動場へ向けて飛び立つバハムーさん。

 乗り慣れて来たからか、最近バハムーさんは俺が乗る事を渋る様子はない。

 ……渋っても、最後は必ずマリーちゃんに言われて飛ぶことになるから、諦めたのかもしれないが。

 高速で飛ぶバハムーさんには、何度か乗るうちに俺だけじゃなくカリナさんも、クラリッサさんも慣れて来たようだ。

 初めて乗った時は、降りた後にフラフラしていたけど、最近そんな様子はない。


「到着、じゃ!」


 マリーちゃんは、バハムーさんが地面に降り立った瞬間に、その背中から飛び降りる。

 建物の4階か5階くらいの高さがあるけど、マリーちゃんは平気みたいだ。

 俺も、身体強化(極限)を使えば大丈夫だろうけど、カリナさん達を支えて降りないといけないから、そんな事はしない。


「もうずいぶん形になってきたわねぇ」

「そうじゃな。運動会の開催は近いのじゃ!」


 バハムーさんから降りて、以前に俺が耕した場所を見渡すカリナさん。

 今もそこかしこで魔物達が、なにかしらの準備をしている様子を眺める。


 そこかしこに並んで設置されてるテントは、大きな魔物も入れる物から、小さな物まで様々だ。

 運動会でよくある、日を遮るためのテントで、4本足に屋根のように布が張られた形が懐かしい。

 ……でも、日差しの無い魔界で、日を遮るテントって必要なのだろうか?


「……あれはなんだ?」

「あれはじゃ、種目を行う範囲を決めておるのじゃ!」


 地面に白線ならぬ、人の足が入りそうな幅の溝が、そこら中に伸びていた。

 マリーちゃんに聞いてみると、それを使って種目を行う場所の目印にしてるみたいだ。

 運動場は広いから、ある程度の種目を同時に行う事はわかってたが、地面に書かれているのが白線では無く、溝という所が魔物っぽい。

 実際に運動会が開催される時には埋められるらしいが、準備中は足がはまり込まないように気を付けよう。


「では、マリー達も準備開始じゃ!」

「おう、任せろ」

「頑張るわ」

「……ここで存在感を……」


 マリーちゃんの言葉で、各々散らばり、運動会の準備を手伝い始める。

 カリナさんやクラリッサさんは、力仕事以外で、細々とした事を手伝うらしい……球入れの入れ物を作ったりだとかだな。

 マリーちゃんは、責任者というか主催者なので、問題が起きて準備が滞ってないかの確認や、各場所への指示を出したりとかだな。

 さすがに、マリーちゃんが荷物を運んだり、何かを組み立てたりするような実務は、周囲の魔物に止められたらしい。


「さて……俺は、と……」

「お前はこっちだ、ユウヤ」


 俺も手伝おうと、手が足りて無い場所を探そうとしたら、バハムーさんの爪でひょいっと運ばれた。


「……バハムーさん?」

「ユウヤは俺に、アームバトルで勝つくらいだからな。力仕事が良いだろう?」


 そう言われてバハムーさんに運ばれてきた場所は、大きな岩がいくつも転がっている所だった。


「これ、何するためにここにあるんですか?」

「これは岩転がし用の岩だ」

「あぁ、成る程……って、大き過ぎじゃないですか!?」

「大型の魔物も参加する競技だからな。これくらいの大きさでないといかんのだ」


 転がっている岩は、縦5メートル、横5メートルくらいの大きさだ。

 この大きさの岩が転がって来たら、人間なんて簡単にぺちゃんこになるだろうなぁ。



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