第32話 訓練によるユウヤと身体強化(極限)の成長



「ふっ! おっと! そいっと! はっ! 危ねっ!」

「ほぉ、5体相手でも避けられるようになって来たじゃ」


 同時に俺を囲んで襲い掛かって来るシャドーから、身体強化(極限)を使って身をよじったりしながら避け続ける。

 前のシャドーが上段蹴りを放って来たら、上体を逸らして躱し、右のシャドーがパンチをして来たら、しゃがみこんで躱す。

 左のシャドーが下段回し蹴りを放って来たのを、ジャンプして避け、後ろのシャドーがフックをして来たら、それを掴んで上に逸らして躱す。

 最後にシャドーの間から突撃して蹴りをして来た1体を、なんとか後ろに飛んで躱す。

 ……最後のはちょっと当たりそうだった、危なかったな。


「まだまだ続くのじゃ!」

「ばっちこい、だ!」


 その後もしばらく、俺を囲んでの攻撃を躱し続ける。

 さすがに、俺が反撃をするような隙はないが、段々と躱す事にも慣れて来たおかげで、シャドーの動きがはっきりと見えて来た。

 今は、次の行動を予測して、避けられるように調整までできるようになった。

 ……やっぱり、近づいて攻撃する暇は無いけどな……相手のリーチが長い分、どうしても俺が一歩踏み込まないといけないから。


「よし……そろそろ……」

「お? 何かやるのじゃ?」


 俺が小さく呟いたのを聞き、マリーちゃんが何か動きがある事を期待している様子。

 ずっと俺が避けるだけの様子を見ているだけじゃ、つまらなさそうだしな。

 それに、俺は身体強化(極限)のおかげと、シャドーは元々魔法で作り出された存在だから、お互い疲れ知らず……このままだと時間だけが過ぎる一方だ。


「よし来た! ふっ! はっ! とや!」


 右横のシャドーがフックをして来たのを見て、チャンス到来。

 考えていた事を実行する。

 体を少し前もってずらしておき、正面にいるシャドーに近付いておく。

 右横のシャドーが左腕で放って来たフックを、できるだけ引き付けてから躱す。


 すると、そのシャドーの腕はそのまま止まることなく、正面にいたシャドーへと当たる。

 それを見ていた他のシャドーも、一気に俺に詰め寄って攻撃して来るが、左横のシャドーがやって来た前蹴りは、バックステップした俺に避けられ、右横のシャドーに。

 後ろのシャドーがやって来た右回し蹴りは、しゃがんだ俺の頭上を通り越して左横のシャドーへぶち当たる。

 最後に、シャドー達を乗り越えて、上から来たシャドーの攻撃を躱して、完全に体勢が崩れてるそいつに蹴りを放つ。


 ボウンッ! 


「おぉ、じゃ!」

「上手くいった、か……」


 それぞれのシャドーが同士討ちのようになり、残るは最初から後ろにいたシャドーのみ。

 慌てて体勢を立てなおし、俺に攻撃を仕掛けて来るが、1体相手ならもう慣れたものだ。

 その一体の攻撃を躱して、踏み込んで見様見真似の正拳突き。


 ボウンッ!


 気の抜ける音と、ゴムのような感触と一緒に、最後のシャドーが消えて終了だ。


「すごいのじゃ! 全てやっつけたのじゃ!」

「……なんとかなったな」


 俺一人を相手にしているため、シャドー同士の距離が近かったおかげで、相手の攻撃を利用するという事ができた。

 5体のシャドーが消えてホッとする俺に、喜んでるマリーちゃんが駆け寄って来る。

 観客席では、カリナさんとクラリッサさんが拍手してくれてるな……ちょっと嬉しい。


「すごいのじゃ、ユウヤパパ! まさかシャドーを同士討ちさせるとはじゃ!」

「相手のリーチが長い事と、距離が近かったからな。まぁ、でも……」

「どうしたのじゃ? これができるなら、闘技大会でも戦えそうじゃが?」

「いや、闘技大会は1対1だろ? それだと、同士討ちを狙えないからな」

「……確かにそうじゃ。自分で自分を攻撃するようなヘマは、普通しないのじゃ」


 さすがに、自分で自分を攻撃するようなヘマをする魔物は、闘技大会にはいないだろうと思う。

 上手く誘導すれば、近い事はできるかもしれないが……俺にはまだそんな技量はないからな。

 今回上手くいったのは、シャドーの数が多く、それぞれ独自に動いてたからだし。


「では、これからどうするじゃ? ユウヤパパ一人を相手にするのに、シャドーは5体が限界じゃ」

「そうだな……」


 俺一人を取り囲むのだから、数が多過ぎても攻撃できないシャドーも出てくるため、連続攻撃に対する訓練と考えると、5体が限界だろう……それでも少し多く感じる。

 ただ、同じように5体を相手にする場合、今回のように同士討ちを狙う事になるから、これ以上同じ事をする利点は少ない。


「シャドーの大きさって、変えられるのか?」

「可能じゃ。大きくするのかじゃ?」

「あぁ。バハムーさんなんか、特別大きいしな。大きい魔物との対戦も考えて、大きいシャドーを出してくれないか? まずは1体で」

「わかったじゃ。……カモンシャドー!」


 俺の提案に頷き、マリーちゃんが魔法でシャドーを作り出す。

 細かい大きさ指定をしなかったため、話の中で出たバハムーさんと同じくらいの大きさになってるな……。

 しかも、今度は形も人型じゃなくドラゴン……完全にバハムーさん想定になってる。


「これで良いかじゃ?」

「……ここまで似せられるとは思わなかったけど、ありがとな。これでバハムーさんと戦う時の訓練ができる」


 力自慢らしいバハムーさん。

 俺の事をライバルのように思っているらしいから、必ず闘技大会では勝ち上がって来るだろう。

 優勝を目指すなら、倒す事を考えないといけない。

 ……その前に死ぬかも……という考えは、神様にされた助言のおかげで今は頭にない。

 身体強化(極限)を使いこなせば、それくらいできるような事を言われたしな。


「よし、来い!」

「わかったじゃ! ゴーじゃ、シャドー!」

「グルゥァァァァ!」


 先程までの人型シャドーと違い、今回は唸り声のように声を発するシャドー。

 おかげで迫力もバハムーさんに近くて、想定バハムーさん戦に備えるのにちょうど良いな。



「いててててて……」

「ふぅむ……避けるのは上手くなったじゃ。けど、まだ攻撃に転じる時に守りが疎かになるのじゃ」

「ずっと、シャドーの攻撃を避けるばっかりだったからな。避けた後、スムーズに体を動かすのに慣れて無いみたいだ」


 マリーちゃんの合図で襲い掛かって来た、ドラゴンシャドー。

 その大きさを生かして、前足……手か……で俺を押しつぶすように攻撃して来たのを避け、攻撃しようと考えた時、避けられた手を地面についてその場で回転。

 すごい勢いで、俺に向かって来る尻尾のぶん回しに直撃してしまった。

 重い一撃は、身体強化(極限)のおかげで、闘技場の半分くらいの距離を弾き飛ばされただけで済んだけど、これ……身体強化(極限)が無かったら死んでるよな?


 マリーちゃんがドラゴンシャドーの動きを止めて、俺へと近づきながら分析。

 今まで反撃の機会を窺う訓練はしたけど、ほとんどが避けるばかりだったからな。

 避けた瞬間にすぐ攻撃……と考えると、回避行動が疎かになってしまうようだ。

 

「こればかりは慣れしかないのじゃ。……大丈夫じゃ?」

「ふぅ……身体強化(極限)のおかげで、痛みもそんなに無いからな。大丈夫だ」


 心配するように俺を見るマリーちゃんに、安心させるように笑って見せる。

 本当はまだズキズキと痛むが、あまり情けない姿を見せたくないしな。


 以前のように尻尾も鉄みたいに固く、それにぶち当たった俺は、身体強化(極限)をしていてもかなり痛い。

 それでも、勢いも威力もあった尻尾の痛みを、何とか堪えられるようになったのは、神様の言った通り身体強化(極限)が強くなった証拠かもしれないな。

 前の蹴りに当たった時と同じだったら、今頃我慢できない程の痛みが来ていたのかも……と考えるとさすがに怖いな。


「大丈夫なようじゃ。それじゃ、訓練を再開するじゃ! ゴーシャドーじゃ!」

「よし、来い! 今度こそ!」


 立ち上がって平気な様子を見せた俺に頷き、再びドラゴンシャドーを俺に向かわせるマリーちゃん。

 向かって来るドラゴンシャドーに備え、今度こそ避けて攻撃を当ててやる……という決意のもと、訓練を再開させた。



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