第34話 バハムーさんとユウヤのお手伝い
「でも、これを運ぶんですか? さすがに持てそうにないんですけど……」
「運ぶのは別の大型の魔物の仕事だ。まずは、岩を丸めないとな」
バハムーさんに言われて岩を見ると、確かに所々角ばった場所がある。
それを削って丸めないと、転がそうとしても転がらないだろうな。
「これを使え」
「これは……ノミ?」
「それと、これだ」
どこから取り出したのか、バハムーさんが渡して来たのはノミとハンマー。
おそらく、これで岩を削って丸めろ……という事なんだろう。
その二つの道具は、日本で見た物よりも大きく、人間の手で何とか握れるくらいだ。
これで岩を削るのか……小さいと時間がかなりかかりそうだから、大きいのはわかるけど……これはやっぱり身体強化((極限)の出番だな。
こういった作業で使う事でも、能力に慣れる事に繋がるかもしれない……と前向きに考え、俺はバハムーさんと一緒に岩を削る作業に入った。
バハムーさんの持ってるノミとハンマー、俺くらいの大きさがあるんですが……?
ガンッ! ガンッ! ガンッ!
ノミにハンマーを打ち付け、岩を削る音が辺りに響き渡る。
俺以外にも、同じように作業している魔物がいるから、その音はそこら中で響いている。
「あ……」
バキッ! という大きな音がして、バハムーさんが削っていた岩が真っ二つになった。
あの大きさのノミじゃなぁ……細かい作業には向いてないだろうし、バハムーさんも力を入れ過ぎだ……。
「……あ」
バキッ! と、俺の削っていた岩も、バハムーさんと同じく二つに割れてしまった。
バハムーさんの方を見て力を入れ過ぎだと思いながら、俺の方も身体強化(極限)の加減を間違えてしまったようだ。
「……困りますよ、バハムー様も、ユウヤ様も……岩の数は限られているんですからね?」
「いや、そのな……? ……すまぬ」
「ごめんなさい」
「はぁ……新しい岩を取って来る時間はもうないんですから、気を付けて下さいね?」
「「はい……」」
バハムーさんと一緒に、現場監督のように指揮している魔物に怒られる。
監督さんは、腕が4本あるフォーアームという魔物で、呼び方もそのままフォーさんらしい。
フォーさんに叱られた俺とバハムーさんは、力加減に気を付けながら、黙々と作業を続ける。
……身体強化(極限)の加減が少し難しいけど、これも能力に慣れるためだ……頑張ろう。
「終わったー」
「うむ、完成だ」
「ご苦労様でした、ユウヤ様、バハムー様。最初はどうなる事かと思いましたが……無事完成したようですな?」
「はい。割らないようにするのが難しかったですが……何とかできました」
「力を加減するのは難しいな……だが、なんとかやり遂げたぞ」
「ありがとうございます。お二人に手伝っていただけたおかげで、予定よりも早く終わりました。これで岩転がしも予定通り行えそうです?」
「そうだな」
黙々と岩を削る事数時間、何個かの岩を丸めて転がるようにしたところで、作業は終了だ。
他の岩やバハムーさんの方もできあがったようで何よりだ。
独特の、最後にはてなを浮かべるような喋り方をするフォーさんに褒められ、予定通り岩転がしができる事を喜びながら、その場を離れる。
「次は……あそこだな」
「俺も行くんですね……」
「当然だろう? 力仕事は山ほどあるのだ。できる者がやらねばならん」
バハムーさんに連れられて、運動会の準備を手伝う俺。
本来は普通の人間であるはずの俺が、魔物達に混じって力仕事をするっていうのは、ちょっと妙な気分だ。
見るからに、魔物の方が力がありそうなのになぁ……バハムーさんはその中でも特にだが。
これも、身体強化(極限)のおかげか。
「今日の準備はこれでお終いじゃ! 皆、気を付けて帰るのじゃ!」
「「「はーい!」」」
各場所を手伝ってさらに数時間が経った頃、周囲にマリーちゃんの声が響き渡った。
拡声器はないようだから、魔法とかで声を大きくしてるんだろうな。
朝も昼も、ずっと暗いままの魔界だから、日が暮れて来たとかそういう事で時間を感じられない分、ちょっと不便だ。
いつの間にか結構な時間が経ってたらしい事に、マリーちゃんの声のおかげで気付けた。
身体強化(極限)のおかげで、疲れを感じにくいからなぁ。
……集中し過ぎたら、時間を忘れていつの間にか数日……なんて事もありそうだから、気を付けないとな。
「終わりのようだな。ユウヤ、帰るぞ?」
「わかりました。何とか、ここは終わらせられてよかったです」
「うむ。……ここが一番力を使ったな……少し肩が重い」
「ははは、それだけ頑張ったって事ですね。……おっと」
「おぉ、すまない」
「いえいえ」
俺達が最後にしていた手伝いは、綱引きに使う綱作りだ。
魔物達が綱を引くのに合わせて作るから、その綱はかなり大きい。
人間の俺が手で持つのではなく、抱える程の太さで、さらに100メートル以上の長さがあるから、その作業は大変だ。
しかも、綱に使われる素材が結構硬い。
俺の知ってる綱は、植物繊維や針金を合わせて作った物だが、魔物達が作る綱は違う。
中に一本の金属を通すのは、針金を通すのと似たような感じなんだが、その周りを覆うのがさらに金属のような物でできていた。
正確には金属じゃないそうなんだけど、触り心地は鉄のような硬さで、それを折り曲げて中に通してある金属に巻いて行かなければいけない。
当然、硬い物を巻くなんて、力のいる作業だから、俺もバハムーさんも岩を削っていた時とは違い、あまり加減をせず作業をした。
おかげで、バハムーさんは肩が重いと言って、腕をブンブン回して俺に当たりそうになったけど……。
身体強化(極限)と、今日までの訓練のおかげで避けられたけど、何もせずにまともに当たったら、体が遥か彼方に飛ばされそうな勢いだった。
腕を回すときは気を付けて下さいね? バハムーさん。
「お、ユウヤパパとバハムーじゃ! 一緒だったのじゃ?」
「そうみたいね」
「……仲が良さそうですね」
最初にバハムーさんで来た時、降りた場所へと戻ると、手伝いを終えたマリーちゃんとカリナさん、クラリッサさんが既に待っていた。
「お待たせ。力仕事が多かったからね、バハムーさんと一緒に頑張ってたよ」
「成る程じゃ。力自慢のバハムーとユウヤパパなら、ぴったりじゃ」
「マリー様のため、頑張りましてございます」
バハムーさんと一緒にいる理由をマリーちゃんに話すと、皆納得したように頷く。
まぁ、本当はバハムーさんに無理矢理連れて行かれたに近いんだけど、それは言わないで良いか。
どうせ、身体強化(極限)に頼って手伝いをしようとしたら、力仕事になってバハムーさんとは一緒になってただろうしな。
「では、城に帰るのじゃ。腹が減ったのじゃ!」
「今日は皆頑張ったものねぇ。空腹は最上の調味料よ」
「……お腹、減りましたね」
「確かに、お腹が空いてると、どんな物でも美味しく感じるね。マリーちゃんが待ちきれないようだし、城に帰ろうか」
「では、マリー様。私の背にお乗り下さい」
「うむ、じゃ!」
お腹を押さえて、空腹を訴えるマリーちゃん。
いつもはあまりそういう事はしないんだけど、今日は運動会の準備を頑張って、いつもよりお腹が空いてしまったんだろう。
俺も力仕事ばっかりだったからな……カリナさんの言う通り、空腹のおかげで美味しくなる夕食を期待しようと思う。
……いつもクックさんの作ってくれる料理は、美味しいんだけどな。
早くお腹を満たしたいマリーちゃんを先頭に、皆でバハムーさんの背に乗り、城へと向かって飛び立った。
「はぁ……今日は結構色んな事をやったなぁ……」
「ユウヤパパは何を手伝ったのじゃ? カリナ達の方は、待っている間に聞いたけどじゃ」
「そうだな……岩転がしのための岩を作ったり……」
夕食を頂き、風呂にも入って後は寝るだけ……という時間。
マリーちゃんの部屋でまったりしながら、手伝った内容を話していく。
カリナさんも、ニコニコしながらその話を聞いてる。
こういう家族の時間って、疲れがあってもかなり心地良いなぁと感じながら、うとうとし始めたマリーちゃんを寝かせ、俺とカリナさんも就寝した。
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