第56話 優勝者ユウヤへ祝福の授与
「何と! 何とぉ! バハムー様、飛翔した事によりルール違反となってしまいました! 私を始め、観客の皆様も戦いに見入っていたため、忘れていた事でしょう! 確かに、確かにルールブックには、飛翔を禁止する旨が記されております! マリー様の宣言により、ユウヤ様の勝利が決定しました! これにより、今闘技大会は人間であるユウヤ様の優勝になります! 素晴らしい戦いを見せてくれたユウヤ様に、皆様拍手を!」
「「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」」
マリーちゃんの宣言とアナウンさんの実況で、バハムーさんの反則負けで俺の勝ちが決まった。
マリーちゃん以外、ルールを忘れて見入ってたらしいけど……ルールブックって何? そんなのあったの?
「負けたよ、ユウヤ。俺をここまで追い詰めるとはな……人間の分際で……」
「ははは、ルールに助けられたってだけですよ。普通に戦ったら、俺なんかがバハムーさんに敵うわけないじゃないですか」
「ふんっ! ほら、さっさと立て! 優勝者がいつまでも座ってたら、格好がつかないだろ?」
「はい。ははは、ありがとうございます」
マリーちゃんが間に割って入った辺りで、俺は体の力が抜けて尻餅をつく形になっていた。
それを見たバハムーさんが、俺に話しかけつつ指を差し出して来る。
悔しそうなのは、負けたから当然だろうな……。
大きなバハムーさんだから、手では無く指に掴まって立ち上がり、バハムーさんにお礼を言った。
「ふん、それじゃあな……」
俺が立ち上がったのを見て、すぐに指を引き、そっぽを向いて去って行くバハムーさん。
ズシン、ズシン、と地面を揺らすのはご愛嬌だ。
……左足を引きずってるように見えるのは、俺が攻撃を加え続けたからか。
「ユウヤパパ、おめでとう」
「ありがとう、マリーちゃん」
審判であるマリーちゃんが、バハムーさんを見送った後俺に声をかけて来る。
やっぱりまだ大男の魔王モードだから、ちょっと妙な気分だけど……慣れないな、これ。
というか、魔王モードでも呼び方はユウヤパパなんだな……父親と認められてるようで嬉しいけど。
「ついに、ついに優勝者が決定しました! それはなんと、四天王ではなく、魔物ですらない! 唯一の人間、ユウヤ様です! この結果を、誰が予想した事でしょうか! 並み居る魔物達に勝ち続け、遂に優勝を果たしました!」
「ほら、ユウヤパパ?」
「ん? あぁ……」
「マリー様直々に、ユウヤ様の腕を持ち上げます! 優勝者として、誇らしい姿と言えましょう!」
「「「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」」
ボルテージの上がったアナウンさんの実況を聞きながら、まだ優勝という実感がわかない事にぼんやりしていると、横に来たマリーちゃんが、俺の右腕を掴んで空へと掲げた。
その瞬間、アナウンさんの声と、観客が一斉に声を上げ、会場に割れんばかりの拍手が鳴り響く。
耳が痛いくらいだけど、それだけ皆盛り上がったみたいだから、良かった。
「う……」
「ユウヤパパ?」
「いや、ちょっと……」
「……どうしたのだ?」
歓声と万雷の拍手を聞いていると、ふっと体の力が抜けたのか、急に重くなる体。
身体強化(極限)が切れたんだろうと思うけど、それと同時に視界が揺れたので、そちらを気にする余裕は無かった。
俺を心配するマリーちゃんに答えようとするが、上手く言葉が出ない。
……どうしたんだろう、俺の体……。
「……うぁ……」
「ユウヤパパ! ん!? これは……誰か、ハイルンを呼んで来るのだ!」
ゆらゆらと揺れる視界と意識。
その中で、地面にまた座り込んでしまった感覚と、マリーちゃんの叫びだけがはっきりと聞こえる。
「……うぅ」
「早く、こっちだ!」
「はいはい、今行きますなぁ」
「どうだ?」
「これは酷いですなぁ……骨が何本か折れてますなぁ……」
「骨が……やはりそうか……」
「ユウヤさん、しっかりして!」
「ですが、私にかかればこの程度……ちちんぷいぷいちょちょいのちょい!」
定まらない意識の片隅で、誰かの声が聞こえる。
これは、カリナさんとマリーちゃん?
もう一人の声が誰だかはわからないけど、何となく聞き覚えはある。
「う……いててて……」
「意識がはっきりして来たようですなぁ。もう少しで、全部治りますなぁ」
「ユウヤパパ、私がわかるか?」
「……マリーちゃん?」
「そうだ。ユウヤパパの娘、マリーだ」
「ユウヤさん……しっかり……」
「う……カリナさんも……?」
「ふぅ……これで大丈夫ですなぁ」
「いてて……えーと、何がどうしたの?」
「ユウヤパパは、体の損傷のために倒れたのだ。それをハイルンが直した、というわけだ」
「あぁ、成る程。ハイルンさん、ありがとうございます……いててて」
「これが仕事ですからなぁ。でも、まだ少しだけ痛みが残りますなぁ。しばらくおとなしくしていれば、治りますからなぁ」
揺れていた視界や意識がはっきりとして、今の状況が段々とわかって来た。
俺の傍には、マリーちゃんとカリナさんの他に、以前医務室で会った事のある、白衣のハイルンさんがいた。
ハイルンさんは癒しの魔法を使うから、それを使って俺を治してくれたんだろう……痛みはしばらく残るみたいだけど、これくらいなら何とか耐えられる。
運動会で怪我人が出た時の対処のため、救護班として参加してたっけ、確か。
「まったく、無茶をしおって。バハムーの尻尾を受け止めるなど……何度割って入ろうとしたことか……」
「本当よ、ユウヤさん! こんな怪我までして、私も心配したんだからね!」
「ははは……あそこまでしないと、バハムーさんに勝てないと思ったからさ。ルールのおかげで、なんとか勝ったみたいだけど」
「ルールはルールだ。その中で見事にユウヤパパは勝ったのだ!」
「そうだね。これで、約束は守ったよ?」
「ユウヤさん……まったく貴方は……」
「無茶ばかりするな、ユウヤパパは……」
俺の様子を見てくれていたハイルンさんが離れると、すぐにマリーちゃんとカリナさんが詰め寄って来る。
バハムーさんの尻尾を受け止めるなんて無茶をしたんだから、怒られても仕方ないか。
カリナさんは目に涙を溜めて、俺が無事なのを安心しているし、マリーちゃんも同様だ。
……魔王モードのマリーちゃんが、目に涙を溜めてる姿は微妙な感じだけど、無粋だから口には出さないでおこう……気持ちは嬉しいしね。
無茶をした事は自分が一番よくわかってるけど、約束を守るために頑張った自分がちょっと誇らしい。
怒られるのはごめんだから、同じような無茶はもうしたくないけど。
「優勝者、ユウヤ! 前へ……」
「はい!」
しばらく後、いったん控室までカリナさんに付き添われて戻る俺。
立って歩くくらいは平気だったんだけど、カリナさんが心配してたのと、まだ少し痛かったから、付いて来てもらった。
控室に行く途中、バハムーさんの足の治療を終えたハイルンさんと会って、俺自身がどんな怪我をしたのか聞いたけど、良く生きてたと思えるくらいだった。
魔法で治療する時、怪我の具合もわかるらしい。
それによると……肋骨はほとんどが折れ、複雑骨折していた場所もあるらしい。
一部、内臓にまで骨が突き刺さったりしてたのに、血を吐いたり意識を失わなかったのがおかしいとまで言われた。
……多分、身体強化(極限)のおかげだろうと思う。
怪我の具合が自分でわからない、というのは危険な事かもしれないけど。
あとは、戦いに集中していたおかげで興奮状態で、痛みに鈍感だったのかも……という事らしい。
それだけの痛みを気にしないでいられるって……身体強化(極限)の影響もあるんだろうけど、自分でもびっくりだ。
隣で聞いてたカリナさんは、顔が蒼白になってたよ。
近くにいたバハムーさんも聞いてたらしく、カリナさんへ必死に謝ってた。
……怒らせたら怖いからな。
一旦控室へ戻った後、優勝者の表彰と賞品の授与に呼ばれた。
ステージに上り、少し痛みの治まった体で立ち、名前を呼ばれて前に出た。
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