第55話 ユウヤの作戦と勝敗



「ほらほらどうした!? 尻尾が当たるぞ?」

「くっ! ふっ! はっ! ぐぬぬ」


 最初の頃のように、タイミングを見計らって尻尾に取り付くのは、もうできそうにない。

 息切れで鈍って来た体は、バハムーさんの連続攻撃を避けるので精一杯だ。

 どうするか……。


「あんまり、やりたくなかったんだけどな……はぁぁ!」

「ぐっ! なんだと!?」

「まだまだ行きますよ! はぁ! せい! ふん!」

「また足を狙うのか……どうしてそんなに足を狙うのかはわからんが、それだけで俺は倒せぬぞ!」


 尻尾を避け、俺を狙って来るバハムーさんの腕に合わせて、俺の拳を打ち付ける。

 何度も見て軌道を覚えておいたおかげで、最初からそのために体に力を入れて、勢いをつけて拳を打ち付ける事ができた。

 これで、バハムーさんの動きは止まった!

 回転を止められたバハムーさんが驚いてる間に、再び足に向かって飛び込み、蹴りを何度も叩き込む。

 さっきので、結構拳が痛いから、今回は蹴りだけだ……それでも、目に見えて効果が出て来た。


「はぁ……はぁ……つぅ……」

「拳を痛めたか? あんな無茶をするからだ。しかし、俺の回転を止めたのは見事だ!」

「バハムー様の動きに合わせ、拳を打ち付けたユウヤ様! どこにそんな力が残っていたのか、回転を止める事に成功しました! しかし、その隙にバハムー様を攻撃するも、やはりダメージは少ない様子! ユウヤ様、絶体絶命です! このまま体力を使い切ってバハムー様に負けてしまうのか!?」

「実況も、ユウヤが不利だと見ているようだな?」

「そのようですね……はぁ……はぁ」


 息も苦しく、動きも鈍って来た……そろそろ本格的にヤバイかな、これ。


「さぁ、そろそろ終わりにするぞ! 今度はこっちだ! はぁ! ……ぬぅ!」

「よし来た! 今だ!」


 バハムーさんが力を入れて、再びやって来る回転攻撃。

 さっきの右足を軸にした左回転は、俺に軌道を読まれて拳を打ち付けられたせいか、今度は左足を軸にした右回転だ。

 これを待ってた!

 何度もしつこく攻撃して来た足。

 常に狙うのは左足ばかりだった。


 痛みはあるのだから、少しでもバハムーさんに影響を与えてると信じ、同じ事を繰り返して来た。

 事実、離れて見てもわかるくらい、バハムーさんの左足の一部の色が変わっている。

 その足を軸足にしたもんだから、痛みに一瞬顔をしかめたバハムーさん。

 狙い通り、勢いがいつもより弱い! 


「これを待ってましたよ、バハムーさん! ふん! ぬぬぬぬ!」

「受け止めた、だと!?」

「おぉっと、今まで避けていたバハムー様の尻尾攻撃! それをユウヤ様が足を踏ん張って受け止めた! 飛ばされない! ユウヤ様、そのままバハムー様の尻尾を掴んでいます!」


 勢いが衰えているとはいえ、強力な尻尾攻撃。

 でもなんとか、足を地面にめり込ませる事で弾かれず、掴んだままにできた。

 これも、魔界竜巻に向かって行った経験が生きてるのかもな。

 そしてこのまま……。

 バハムーさんの尻尾を全身に力を入れて受け止め、そのまま回転の力を流すようにしながら体を動かす。


「これで、どうだ!」

「ぬぉあ!」


 全身に走る激痛を耐えながら、尻尾を掴む体に全力を込め、回転しようとするバハムーさんの力を利用して、そのまま遠くステージの外へ投げる。


「おぉっと、投げた! 巨体のバハムー様を投げたぁ! 自分の体の数倍はあるはずのバハムー様を、ステージ外へ投げ飛ばしたぁ! 凄まじい力です! こんな事ができるとは、誰も予想していなかった事でしょう! バハムー様はこのまま負けてしまうのか!?」

「ぐぬぅ! はぁ!」

「嘘だろ!?」


 ステージ外へ飛んで行ったバハムーさんだが、その体が地面に着く前に、大きな翼を広げて空中で静止。

 そのまま空に浮かび上がって、ステージで着地した。

 ……そうだった、バハムーさんは空を飛べるんだった……何度も乗ったはずなのに忘れてた……戦闘に集中し過ぎて頭から抜け落ちてたのか……。

 後悔してももう遅い。

 俺の狙いは、バハムーさんを場外まで投げ飛ばす事。


 足を攻撃し続ける事で、回転の勢いを衰えさせ、尻尾にぶち当たるのを我慢して、そのまま回転の力も加えて投げる……という作戦だ。

 しかし、空を飛べるバハムーさんに、場外負けという事はなかったんだ……。

 それを忘れてなければ、他の場所を攻撃していたと思うが、今更そう考えても後の祭りだ。

 それに、他の場所を攻撃しても、勝てる見込みは無かったしな。


「ふぅ……凄いな、ユウヤは。まさか俺を投げ飛ばす算段をしていたとは。足を狙っていたのも、回転を緩めさせるための布石、か……」

「はぁ……はぁ……はぁ……でも、結局駄目でしたからね」

「そうだな。もうユウヤの方は、まともに動けないようだ。これで私の勝ちだな……」

「……悔しいですけど、そのようですね」


 尻尾をまともに受けてしまったため、体中が悲鳴を上げてる今、まともに動けそうにない。

 今の状態で、バハムーさんが攻撃して来たら、避ける事もできずに弾き飛ばされるだろう。

 このあたりが、俺と身体強化(極限)の限界……か。

 マリーちゃん、カリナさん、優勝するって言ったのに……ごめん。

 ……あと、神様も。


「ここまで戦ったユウヤの凄さは、見る者全てに伝わっただろう。……では、そろそろ勝負を付けようか……はっ!」

「待つのだ!」

「え? ぐお!」


 俺が諦めてバハムーさんを見つめながら、避けられない攻撃で負けると覚悟を決めた時、横から大きな影が入り込み、何かの力でバハムーさんを弾き飛ばした。

 この大きな影……もしかして、マリーちゃん?

 でも、どうして?


「マ、マリー様? 戦ってる俺達の間に乱入するなど……」

「何を言っているのだ。もう勝負はついているのだぞ? これ以上無駄に攻撃する必要もあるまい」

「そう、ですか。わかりました、マリー様がそう仰るのであれば。これ以上戦えないユウヤを攻撃する事もないでしょう。これで私は優勝ですね」


 マリーちゃんは、ただ黙って俺がバハムーさんの攻撃を受けるのを、黙って見ていられなかったんだろう。

 優しい子だ。

 でも、俺も覚悟を決めてたんだから、死なない程度に弾かれる方が良かったなぁ。

 娘に守られるのは、格好がつかない……。

 とは言え、俺が出来なかったバハムーさんを弾き飛ばす、というのを軽々とやってのけるなんて……さすがは魔王ってとこかな。


「勘違いしておるな、バハムー。お主の負けだぞ?」

「は?」

「え?」

「はえ?」


 見ている皆が、バハムーさんの勝ちだと考えていたのを、マリーちゃんの一言が覆す。

 俺もバハムーさんもアナウンさんすら、思ってもみない言葉だったため、間抜けな声が出てしまった。


「バハムー、お主……飛んだであろう? この闘技大会では、どのような種族も公平に戦う必要があるため、飛翔は禁止している。そのため、バハムー……お主の反則負けだ」

「あ……」

「そういえば、そんな事も聞いたような……?」


 ルールは確認してたけど、飛ぶのは駄目だって事を覚えてなかった。

 人間で魔法も使えない俺は、飛ぶ事ができないから、自然と頭から除外してたんだろう。

 でも、リッちゃんは飛んでたんだけど……と思ったけど、あれは足が無いから浮かんでるだけと言った方が正しいのかもしれない。

 実際、俺に殴られた後は地面に倒れてたしな。

 上空に飛んで離れたり、空を飛んでる利点を全く使う様子がなかったのは、そのためか……。


「バハムー、反則により敗北とみなす。これにより、闘技大会優勝はユウヤとなる!」

「えっと……?」

「ぬぅ……私の負けか……悔しいが、認めるしかあるまい……ぬぅ」


 悔しがるバハムーさんと、まだよく事態が飲み込めて無い俺。

 ルールに救われた形だけど、こんな勝ち方で良いのかな……?


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