第57話 神様からの祝福



「ユウヤ、闘技大会で勝ち上がり、優勝してみせた力、見事であった! これより、優勝賞品である、我の祝福を授ける!」

「「「「わあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」


 魔王モードのままのマリーちゃんに名前を呼ばれ、優勝賞品の授与。

 ここに来る前に聞いていた作法通り、マリーちゃんの前に跪いて頭を垂れる。

 その俺の頭にマリーちゃんが手を当て、そこから暖かい感覚が全身に広がっていった。

 ……これが祝福かぁ。

 疲れと暖かさで、何だか寝そう……。


「これで、ユウヤには繁栄の祝福が与えられた!」

「ありがたき幸せ!」

「うむ」

「「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」


 もはや、ステージ上で何かをする度に上がる、観客の歓声を聞きながら、作法通りマリーちゃんに返す。

 これで繁栄の祝福がもらえたのか……何が変わったとかはないけど、少しだけ体が暖かい気がする。

 

「では、ユウ……」

「……ん、あれ?」


 祝福の授与が終わり、次へと移ろうと声を出したマリーちゃんが、途中で言葉を止めた。

 どうしたのかと思って見てみると、目の前にいたマリーちゃんが目を開けたまま止まっている。

 どうしたんだ?

 周りを見回すと、観客を含めた全員が、まるで時を止められたように動きを止めていた。

 ステージ傍で俺の事を見守っていたカリナさんまで……。

 俺以外全ての者の動きが止まったようで、何も動かないし聞こえない……。


「何だ……どうしたって言うんだ!?」

「落ち着きなさい。問題無いわ、ちょっと止めただけだから」

「……この声は……?」

「お久しぶりね、ユウヤ?」


 周囲の全てが止まった世界で、聞こえて来た覚えのある声。

 その声は、この世界に来る時と闘技場で聞いた声……神様の声だ。

 声の主が分かったと同時、目の前にまばゆい光が浮き上がり、それは拳くらいの大きさまで広がった。


「神様……一体どうしたんですか? 皆、動いてないみたいですけど、止めたって……?」

「神様の声は、あまり多くの者に聞かせてはいけないの。だから、ユウヤにだけ聞かせるために、皆の時を少しの間だけ止めさせてもらったわ。これで、ユウヤ以外に私の声を聞く者はいないって事。大丈夫よ、用事が終わればすぐに動き出すし、体にも影響はないわ」

「はぁ……そうなんですか。それで、用事って?」


 何やら、神様が神様的な力で皆の時間を止めたって事らしい……俺以外。

 そんな事ができるのかと思ったけど、神様だから、何でもありなのかもしれない。

 多くの者に声を聞かせられないって事だから、制約のようなものもあるのかもしれないけど。

 しかし、神様がまた俺に用事って……一体なんだ?


「いやね、忘れたの? 約束したでしょ。闘技大会で優勝したら、本物の祝福を授けるって」

「あぁ、そういえばそうでしたね。戦う事に夢中で、忘れてました……」


 そういえば、そんな約束もしたっけな。

 バハムーさんを含め、強敵に勝つにはどうしたら良いかを必死で考えていたから、頭から抜け落ちてた。

 ……飛翔禁止ルールの事もあったし、俺って結構忘れっぽいのかな?


「思い出したようね? まったく、神様との約束を忘れるなんて……」

「いやぁ、ははは……」

「褒めて無いわよ? まぁとにかく、さっさと用事を済ませましょ。その目の前の光に触れてみて?」

「これに、ですか……?」


 俺の目の前には、ふわふわと浮かんでいる光り。

 直視するのは少し眩しいくらいだが、熱さも感じないし危ない物には見えない。

 まぁ、神様が触れって言う物なんだから、危ない物じゃないんだろうけど。


「その光に触れる事で、ユウヤに祝福を授ける事ができるわ。さしずめ、祝福の光ってとこね」

「祝福の光……わかりました」


 神様命名の祝福の光へ、手を伸ばす。

 体がまだ少しだけ痛むのを我慢しながら、おそるおそる手を光に近付け、触れる。


「うっ!」

「発動したわ。そのまま、触れていてね」


 俺の手が光に触れた途端、浮かんでいた光がとてつもない眩さで発光し、周囲を包む。

 何かに触れているような感覚は無いのだが、何かに触れているという確信がある……不思議な物だ。

 周囲を包んだ光のため、目を開けていられないが、神様の言う通りそのまま動かず、手を触れている状態のまま保つ。


「ユウヤは頑張ったから、特別にカリナにも祝福を授けておくわ」

「カリナさんにも?」

「ええ。夫婦である事と、一緒にこの世界へ召喚された者同士という事で……特別よ?」

「はぁ……ありがとうございます」


 目は眩しくて開けられないが、神様の声はよく聞こえる。

 カリナさんにも祝福をくれるようだから、ありがたく頂いておこう。

 祝福をもらう事でどうなるのかはわからないけど、悪い事にはならないだろうしな。

 相手は神様なんだし。


「そろそろね……」

「え?」


 神様が呟いた声に対し、俺が声を上げた瞬間、目を閉じていても感じていた光が収まるのを感じる。

 おそるおそる目を開けると、光はもうその場には無く、周囲の皆が止まっている様子だけが見られた。


「体内に意識を向けてごらんなさい。何かがあるのがわかるはずよ?」

「体内……? これは……暖かい……?」


 神様の言葉に従い、体へと意識を向ける。

 すると、全身がほんの少し暖かくなっているのに気付く。

 熱があるとかそういうものじゃなく、何か暖かい物に包まれているような感覚だ。

 優しいその感覚を感じていると、残っていたはずの痛みも消えていた。

 ……怪我を治してくれた? いや、それだけだと神様の祝福とは言えないか。


「それが祝福。効果は……」

「効果は?」

「秘密よ。……まぁ、そのうちわかると思うわ」

「……教えてくれないんですか?」

「全部教えると面白くないでしょ? ユウヤが驚く顔も見たいしね」

「まぁ、そのうちわかるって言うんなら、良いですけど……悪い事じゃないんですよね?」

「神様の祝福で悪い事なんて起きないわよ。安心しなさい」


 効果を説明しようとした神様が言い淀んだので、聞き返してみると、効果は秘密との事。

 どうして教えてくれないのかはわからないが、俺が効果を知った時に驚く顔が見たいのも一つの理由らしい。

 ……悪趣味な神様? いや、失礼な事を考えるのは止めよう。

 何にせよ、悪い事は起こらないみたいだし、いずれわかるというのだから、今は気にしないでおこうと思う。


「先に言っておくわ。……おめでとう、ユウヤ。それじゃあね……」

「あ、神様?」


 祝福の言葉を残して、神様の声は聞こえなくなった。

 おめでとうって……先に言うという事だから、闘技大会の事じゃないんだろうけど……なんだったんだろう?

 まぁ、神様の考える事だし、俺が考えても答えは出ないか……。


「ユウ……! ……ヤパパ! ユウヤパパ!」

「はっ!? ……マリーちゃん?」

「マリーちゃん? ではないだろう! 急に動かなくなって……どうしたのかと思ったぞ?」

「えっと……?」


 神様の言葉の意味を考えていると、別の声が聞こえて来て我に返った。

 目の前には、何やら心配顔の大男……マリーちゃんがいる。

 周りを見回すと、観客がざわめきながら俺を見ていた。

 ……時を止めたとか言ってたから、それが動き出したのか……来る時も帰る時も唐突だな、神様。


「大丈夫なのか、ユウヤパパ?」

「あぁ、まぁ……大丈夫……かな?」

「はっきりせんのう……本当に大丈夫なのか心配だ……」


 周囲を見回していると、俺を心配して覗き込んで来るマリーちゃん。

 いつもの小さい女の子の姿ならまだしも、魔王モードの大男状態だと、ちょっと怖い。

 心配してくれるのはありがたいんだけど、そういうのは、元に戻ってからにして欲しいな……。


 そうして、マリーちゃんからの祝福と、神様からの祝福を受け取り、闘技大会の表彰は終わって行った……。

 ステージ上で、ぼーっと突っ立ってたのを皆に見られてて、少し恥ずかしかったけどね。



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夫婦で異世界召喚されたので魔王の味方をしたら小さな女の子でした~身体強化(極限)と全魔法反射でのんびり魔界を満喫~ 龍央 @crim122

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