第26話 闘技大会に備えて訓練開始



「上手くいったわね?」

「そうですね。まぁ、皆マリーちゃんに見てもらう事が……とこだわってるので、簡単な説得でした」

「あれほど上手く、マリー様に対する忠誠心を刺激されたら、私も乗せられちゃいそうよ?」

「リッちゃんは、実況より闘技大会の戦いを頑張って下さいな?」

「そうね。……それにしても、アナウンを説得してる時のユウヤ様……格好良かったわぁ。濡れちゃうくらい……」

「……帰ろう」


 リッちゃんが身悶えしながら何かを言っているが、それは無視して帰る事にした。

 何がとか、どこが……とかは聞いてはいけない気がするからな、危機回避だ。


 ちなみに、マリーちゃんは審判をするから、実況には集中できないだろう……という事は言わないでおいた。

 無駄な情報を省いて説得するのも、一つの手だよな?

 そこ、詐欺師の手口とか言わない! 俺はこの方法を、日本の仕事で学んだんだから!



「それじゃ、アナウンは実況を引き受けてくれたのじゃ?」

「あぁ、引き受けてくれたよ。マリーちゃんのためならって、喜んでね」

「そうか、そうかじゃ。それなら良かったじゃ。嫌がる相手を無理矢理、その役職にするわけにもいかんからじゃ」


 城に戻り、時間も遅くなっていたので食堂にて夕食を頂く。

 その途中、気になっていたのか、アナウンさんがどうなったのか聞いて来たマリーちゃん。

 言っている事はまだしも、喜んでるその様子は、運動会を楽しみにしている子供そのもので微笑ましい。


「さすが、ユウヤさんね」

「まぁ、マリーちゃんに見てもらうため……という事を聞いてたからね、難しくは無かったよ」


 言い方さえ気を付ければ、俺じゃなくともアナウンさんを説得できたとは思う。

 俺以外、マリーちゃんに見てもらう、という部分を刺激する事に気付かなかっただけだからな。

 でもカリナさんの言葉は、喜んで受け入れておこう……謙遜する必要もないしな。


「これで、運動会の準備が全て整うのじゃ。後は、会場の準備を進めるだけじゃ」

「そうね。魔物の運動会……楽しみだわぁ」

「そうだね」

「……私も、何か出場した方が良いのでしょうか……?」


 問題だったのは、実況者探しのみ。

 それも終わったので、後は会場が整い次第、魔物大運動会の開催だ。

 これまでにも色んな魔物を見て来たが、それ以外にもまだまだ魔物はいるんだろう。

 それを見るのも楽しみだな……。

 ただ、クラリッサさんは魔物に紛れて、運動会の種目に出ても大丈夫なのだろうか……?

 存在感を示すための試みなんだろうけど、ちょっと心配だ。


「あ、ユウヤパパも闘技大会にしっかり登録しておいたからじゃ? 優勝目指して頑張るのじゃ!」

「お、おう……」


 ……そうだった、もうすべて終わったような気がして観戦するつもりだったけど、俺にはまだ闘技大会出場という、一大イベントが待っているんだった。

 バハムーさんを始めとした四天王の皆さん、それから他の魔物達がこぞって参加する闘技大会……俺、生き残れるかなぁ?


「ユウヤパパの格好良い所を、見たいのじゃ!」

「私も応援するわよ、ユウヤさん。頑張って!」

「……やるぞ!」


 可愛い娘と、愛する奥さんに応援されたら、頑張るしかないな。

 俺は、食事中にも関わらず、どこぞのゲームのようなポーズをして、意気込みを表現した。



「ユウヤ様……食事中にあのような事をされるのは困ります。マリー様に示しがつきませんよ?」

「はい、すみません。反省してます……」


 夕食後、婆やさんにチクりと注意されて、その意気込みがしぼんでいくのを感じた。

 ……それでも、俺は頑張る!



 数日後、運動会の準備が順調に進む中、ヒュドラ三姉妹の雄叫びで起きた。


「今日から頑張るぞ!」


 朝食を取った後、片付けられる食器を見送りながら、気合の一言。

 そう、今日からしばらくの間……というより運動会開催の日まで、俺は闘技大会に備えて訓練をする事にしたのだ。

 いきなり闘技大会に出場しても、戦い方とかを知らないと、いくら身体強化(極限)があるからと言ったって、勝てないだろうからな。


「それでは、闘技場に案内するのじゃ!」

「……そんな物まであるのか、この城は」


 なんでも、数百年前は血の気の多い魔物が多く、魔物同士での諍いも多くあったらしい。

 そのため、どちらが強いか……という力が全てな風潮もあり、闘技場という場所が作られたそうだ。

 その時の魔王も、そういった争いを見るのが好きだったらしく、闘技場では盛んに魔物同士の対決が見られたらしい。

 マリーちゃんが行う闘技大会と違って、命をかけた戦いだったらしい……そういう闘技大会にならなくて良かった。


 マリーちゃんが魔王になってからは、元々穏やかな気性だった魔物を中心として、そういう風潮は無くなって行ったらしい。

 この小さい女の子を見ていると、争いを好まず、のんびりと穏やかな国にしているのは凄いと思うと共に、誇らしい。

 俺の娘だからな! 


「ここが闘技場じゃ!」

「……ここが」


 マリーちゃんに城内を案内され、地下へと続く階段と道を歩いてたどり着いた場所。

 そこは広く大きな地下闘技場だった。

 中心に広い場所があり、壁で円形に区切られており、その壁の外側は段々になって観客席のようになっている。

 見た目としては……簡単に説明するなら、古代コロッセオがそのまま地下にあるようなイメージだ。

 ……こんなデカイ施設を地下に作るなんて……当時の魔物達はよほど戦いたかったのか?


「さて、じゃ。ユウヤパパはどんな武器が得意じゃ?」

「どんな……と言われてもな。武器なんて生まれてこの方、使った事が無いぞ?」

「そうなのじゃ?」


 剣や槍、斧をどこからか持ち出して来たマリーちゃんは、どれでも好きな物を……とでも言うように、それらを見せて来る。

 だが、俺は今まで武器なんてほぼ持ったことが無い。

 あるとしたら……土産屋の木刀くらい……かな?

 学校の体育の授業では、剣道じゃなく柔道を選んだし……。

 あとは、昔変身ヒーローに憧れて買ってもらった、ヒーローが持ってた剣の玩具くらいだが……あれは武器のうちに入らないだろう。


「ふぅむ……だとするとじゃ、片っ端から試してみるじゃ」

「片っ端からか……わかった」

「頑張って、ユウヤさん!」

「私達はここから見てますねー」


 観客席まで移動して、俺に向かって声援を送って来るカリナさんとクラリッサさん。

 カリナさんに応援されたら、頑張るしかないよな。

 ……クラリッサさんは、どうでもいいけど。

 とりあえず、俺はマリーちゃんが用意してくれた武器のうち、まずはと槍を持った。


「槍なのじゃ?」

「剣だと、大きな魔物に攻撃が届かなさそうだったからな……」


 剣や斧でも良かったんだが、バハムーさんやキュクロさんを始め、大きな魔物が相手だった場合、向こうのリーチに負けて、こちらの攻撃が届かない可能性が考えられた。

 だから、少しでもリーチ差の不利を無くすために、まずは槍を選んだ。

 素人考えだけどな。


「それじゃ、その槍を持って、私に襲い掛かるのじゃ!」

「……マリーちゃんに? でも……」

「構わんのじゃ。素人の槍でマリーが怪我をする事は無いのじゃ!」


 マリーちゃんの持って来た槍は、当然刃がしっかりついている。

 よく切れそうな槍の穂先を、マリーちゃんへ向ける事を躊躇っていると、マリーちゃんは俺相手じゃ怪我をしないとの事。


「身体強化(極限)も使って、かかって来るのじゃぞ!」

「……わかった」


 娘に向かって全力で襲いかかるのは気が引けるが、マリーちゃんは俺達が召喚された時も、すでに武器を持った人間と戦ってたからな……俺よりは確実に戦い慣れてるだろう。

 俺は、マリーちゃんの言葉を受け、頭の中で身体強化(極限)と唱えて発動させ、マリーちゃんに向かって穂先を向けた。

 えーと……アニメとかで見たのは……こんな感じで……。


「せい!」

「シールドじゃ!」


 ガキンッ! という音と共に、マリーちゃんの前に現れた魔法の盾によって、俺の槍による突きは受け止められた。

 魔法か……それがあるなら、俺がいくら武器を使っても確かに大丈夫そうだ。



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