第24話 闘技大会に不足しているもの



「待たれい! 先程から気になっていたが……人間がマリー様に気軽に触れているのはどうしてだ? それと、四天王の我らを差し置いて、マリー様の隣に座るなど……羨ましい」

「そうだ! 俺も気になってたんだった! どうして人間がそこまでマリー様と親しく接しているんだ! ……俺もそこに座りたい」

「私は、あまり気にならないけどねぇ。むしろ……私がユウヤさんの隣に……というのは冗談よ、オホホホホ」

「なんじゃ、お主らじゃ……?」

「マリー様、こいつらは、人間達とマリー様の事情を知らないので……」


 カリナさんがマリーちゃんの頭を撫でているのを見て、四天王の皆さんが鼻息荒く反応し始めた。

 あ、いや、バハムーさんとリッちゃんは違うか。

 むしろバハムーさんは、突然沸き立ったアムドさん達に戸惑うマリーちゃんへ、どうしてこうなったか説明する側だ……初めて顔を合わせた時は、バハムーさんが文句を言って来たのになぁ。

 というか、アムドさんにキュクロさん……羨ましいのか……? 心の声が漏れてるけど。


「えーっと、これには訳があってですね……?」

「ユウヤパパとカリナママは、マリーの両親になってくれたのじゃ! じゃから、ここにいるのは当然なのじゃ。もちろん、マリーの事を撫でるのも許されるのじゃ。……ユウヤパパは除くがなじゃ」

「……おい」

「なんと! そうであったか! ……そうとは知らず、無礼な振る舞い申し訳ございません、ユウヤ様、カリナ様」

「なんだ、そうだったのか! すまんなぁ、変に血が騒いじまってよ! えーと、ユウヤ様とカリナ様だったか……マリー様をよろしくな!」

「そうなのねぇ。良い事だわぁ。でも、ちょっと悔しいかも……。マリー様をよろしくね、ユウヤ様ぁ。カリナ様も」

「皆簡単に受け入れるんだな……」


 俺がどう話したものかと考えながら、椅子から立ち上がって声を出すと、それを遮ってマリーちゃんが簡単に説明。

 それだけで、アムドさん達の興奮は収まり、すんなりと受け入れてくれた。

 こんなに簡単で良いの? 四天王……。


「皆さん、よろしくお願いしますね」

「はっ」

「よろしくな、姐さん!」

「よろしくねぇ」


 カリナさんが、皆にお辞儀をすると、頷いて答える四天王の皆さん。

 バハムーさんだけは前もって知っていたから、特に反応は無かったが。


「……というか、良いの? 皆が慕ってるマリーちゃんの親になるって……こんなに簡単に納得して?」

「我々も、マリー様にご両親がいない事を、気にしていたのです」

「例外はあるが、魔物にも親ってものがいるからな。俺達魔物だと、マリー様の親にはなれねぇし……」

「マリー様が信頼する人間が、親になるんなら……というところよね」

「矮小な者が、マリー様に……とは思うが、私もそう思うのだ」


 疑問に思って皆に聞いてみると、俺達と同じように、四天王の皆もマリーちゃんに親がいない事が気になっていたようだ。

 皆に気にされ、大事にされるマリーちゃんは、やっぱり良い子だなぁ。

 娘が皆に慕われてて、俺も鼻が高いぞ、うんうん。



「落ち着いたのじゃ。それじゃ、最後じゃが……実況者をどうするか……じゃ」

「……あ、私がまだ……」


 しばらくして、改めて俺とカリナさんの事を紹介した後、落ち着いた頃合いを見計って、マリーちゃんが会議を続ける。

 クラリッサさんの紹介が終わってないけど、以前と変わった事はないため、皆にスルーされた。

 ……クラリッサさん、ガンバ!


 ちなみになのだが、親がいないマリーちゃんを気にしていたのは、ここにいるメンバーだけでなく、魔界全体の魔物達からの心配事だったらしい。

 リッちゃんを含めての例外があるとは言え、魔物も人間と変わらず、親がいるのは当たり前。

 生まれた時から魔王であり、親がいなかったマリーちゃんの事を、魔界の魔物達は心配していたらしい。

 かといって、婆やさんの言っていたように、本能で従い、魔王に対して叱ったりする事もできないため、そこらの魔物が親になる事は不可能とされていた。

 そこに現れた人間なら、マリーちゃんに絶対服従というわけでもないので、歓迎する……と言う事なんだそうだ……魔物、こんな簡単で良いのか?

 まぁ一番は、マリーちゃんをしっかり可愛がってるように見えるのが重要だったらしいが……魔物って……。


「実況できる者を探しておりますが……私共の方ではまだ……」

「俺達の方も難しいですぜ……頭の良い奴なんて、巨人族にいないしなぁ」

「私は一人、心当たりがありますよ?」

「本当じゃ、リッちゃん?」

「ええ。私と同じ、リッチの魔物ですけれど……問題は、あの子が受けてくれるかどうか……」


 実況者、というのが何なのかわからないが、どうしても必要な事らしく、マリーちゃんを始め、皆難しい顔をしている。

 そんな中、リッちゃんが気楽に言った心当たりがあるという言葉に、皆の視線がそちらへ向く。

 ただ、何か問題があるようだが。


「何かあるのじゃ?」

「いえ、その子、闘技大会に参加するのを楽しみにしてるんです。だから、そちらに集中して、実況を引き受けてくれないかも……と」

「ふむぅ、そうなのかじゃ……」

「あのー、その実況者って、なんなの?」

「実況者は、闘技大会で行われる戦いを、実況してくれる者の事じゃぞ?」

「はぁ……それは必要なのか?」


 何となく単語からしてそうじゃないか、とは思っていたけど、そのままだったらしい。

 闘技大会の審判はマリーちゃんがやって、参加者は皆マリーちゃんに戦いを見せられるからと、喜んで参加するから出場者が少ない、なんて事はない。

 ルールも決まって、あとは準備をするだけ……だと思うんだけど……そんなに実況者って必要か?


「何を言っておるのじゃ。実況者がいるからこそ、観客の皆に戦闘の様子を報せる事が出来るのじゃ」

「それに、こういった催しには、実況が付き物ですからな」

「実況のない催しなんて、魔法の使えないリッちゃんみたいなもんだぜ?」

「そうよねぇ、私が魔法を使えなくなったら、単に浮かんでるだけだもんねぇ」

「実況者がいないと、盛り上がりに欠ける」


 マリーちゃんを始め、四天王の皆も実況者が必要だと言ってる。

 まぁ、必要だと言うのなら、必要なんだろう。

 キュクロさんとリッちゃんの例えは、よくわからないが。


「しかし引き受けてくれる者がいないとじゃ、実況者なしで開催する事になるのじゃ」

「むぅ……」

「ぬぅ……」

「困ったわぁ」

「グルル……」


 皆、実況者が決まらない事に困っている様子。

 とりあえず、バハムーさんは喉を鳴らして唸るのは止めて下さい……食べられそうで怖いから。

 しかし実況者ねぇ……?


「皆、マリーちゃんに自分の戦う姿を見せたい……ですよね?」

「そうですな」

「そうだ」

「そうね」

「うむ」

「ふむ……それなら、俺に良い考えがあります。一度、そのリッちゃんが心当たりがあるって人……じゃないか、リッチに合わせて下さい」

「ユウヤ様が? でも……あの子は強情よ? 説得できるかしら……?」

「まぁ、なんとか説得してみせますよ」

「ユウヤパパに任せてみるのも、良いかもしれんのじゃ。どちらにせよ、このままじゃ決まらいないからじゃ」


 マリーちゃんの言葉で、皆が頷き、俺が説得にあたる事になった。

 多分だけど、これまでの四天王の皆さんを見ていたら大丈夫だと思うんだよなぁ。

 魔物達は、マリーちゃんに自分を見せる事を、闘技大会参加の目的としてるみたいだしな。

 俺が説得すると決まった事で、会議は終了。

 四天王の皆さんは、それぞれ帰って行った。



「まさか、ユウヤパパに名案があるとは思わなかったじゃ」

「むしろ俺からすると、どうしてこれを考えられなかったのかって、疑問なんだけどな?」

「ユウヤパパに期待じゃ!」

「ははは、可愛い娘を困らせるわけにはいかないからね。頑張るよ」

「頑張ってね、ユウヤさん」


 マリーちゃんとカリナさんから期待されたら、失敗するわけにはいかないな。

 説得は明日、リッちゃんの案内で、その実況者に相応しいリッチの所へ行く事になったから、今日中にどう説得するか、しっかり考えておこう。


「私……いる意味があったのかしら……?」


 ポツリと呟いたクラリッサさんの声は、意外にも人数の少なくなった広間に大きく響いた。

 ……クラリッサさん、強く生きて!



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