第23話 運動会に備えた最終首脳会議
「さてじゃ、各自大きな問題も無く、準備も進んでおるようじゃ」
「はい、我々は滞りなく、足並みそろえて準備に邁進しております」
「俺達の方もそうですぜ。細かい作業をメインに、準備は進んでますぜ」
「リッチは皆、自由気ままなのよねぇ。でも、ほとんどがもう準備を終えてるようですね」
「うむ、じゃ」
種目の確認や、準備の進捗を聞き、改めて問題がないかを確認した後、マリーちゃんが頷く。
俺達も話を聞いていたが、問題らしい問題はないように感じた。
魔物とはいっても、ちゃんとまとまって、それぞれが考えて行動しているみたいだ。
……カリナさんの好きなラノベとかだと、魔物ってあまり知性がなかったりしてたんだが……その認識は改めた方が良さそうだ。
バハムーさんはドラゴンの種族、アムドさんは無機物の魔物、キュクロさんは巨人族、リッちゃんは不死系の魔物を束ね、それぞれ指示を出して準備をしているらしい。
アムドさんとかは騎士っぽいから、団体行動は得意そうに見えるけど、リッちゃんは自由だと言ってたリッチを、どうやってまとめてるんだろう……?
「では最後に、闘技大会の確認じゃ」
「武器の方はどうなりましたか?」
「それに関しては、問題無く作られておるじゃ。……予定よりも数が多くなるようじゃが……」
木剣なんかの木製の武器は、フェイスツリーの皆が頑張ってるみたいだからなぁ。
先日の値切り交渉の事もあるから、あまり頑張り過ぎないで欲しいとさえ思う。
「魔法は、使っても良いんですよねぇ?」
「無論じゃ。ただし、個人に対する魔法に限らせてもらうじゃ。広い範囲の魔法を使ってしまうと、無関係の者まで巻き込んでしまうじゃ」
「わかりましたわ。……そうね……なら、あれとあれと……あれも使えるわね」
魔法が使える事を喜び、リッちゃんが早速使える魔法を考えているようだ。
あまり強力な魔法は使わないで欲しい、と願う。
……俺も出場するみたいだからなぁ……もし対戦相手になれば、俺が今リッちゃんが考えてるであろう魔法の対象になるから。
というか、リッちゃんに魔法以外って効くのか……? 幽霊みたいなもんだろ?
あ、いや、でも前に物理も効くとか言ってたっけ……なら何とかなるか。
「対戦は1対1じゃ、相手を場外に叩き出すか、ダウンして10カウントの間に起き上がらなければ勝ちじゃ」
「相手を殺してしまった場合は?」
「その場合は失格じゃ」
ルールの確認をしている時、アムドさんが物騒な事を聞いた……こういうところは魔物らしいのかもしれない。
……殺してしまう程真剣に戦うのか……それだけ優勝賞品が魅力的なのかもしれないけど……出場するのが怖くなって来た。
「もちろん、殺してしまわないようにする配慮も必要じゃ。相手の急所……目や口、心臓を含む、一撃で大きな怪我をしてしまう場所を狙うのも禁止じゃ」
「制限の中で戦い抜いてこそ、ですな」
「小さい相手だったら、難しいなぁ……」
「……使える魔法が、さらに制限されるわね。それでも頑張るわ」
急所を狙うのは禁止か……闘技大会は殺し合いじゃないから、そのルールは俺にとって当然とも思えるけど、キュクロさんなんかは難しい顔だ。
確かに、キュクロさんは巨人族というだけあって大きい。
腕や足も、それに見合う大きさだから、小さい魔物が相手になると、狙いを付けるのが難しいかもしれない。
でも、それを判定するのって誰がするんだろう?
「審判とかっているの?」
「マリーじゃ。マリーが直々に審判をするのじゃ」
「……大丈夫なのか?」
「もちろんじゃ。マリーは魔王じゃぞ? これくらい簡単なのじゃ」
審判はいるのかと気になって聞いてみると、なんとマリーちゃんが務めるらしい。
魔物が真面目に戦う場で、小さい体のマリーちゃん……と想像してみると、巻き込まれて怪我をするイメージが沸いて来てしまった。
とは言え、マリーちゃんは魔王で、俺がこの世界に来た時も戦っていたから、大丈夫なのだろう……多分。
薄い胸を逸らして自信満々に言うマリーちゃんには、不安もあるけど……。
「マリー様の御前で戦える栄誉、これこそが闘技大会の醍醐味!」
「そうだな。マリー様に日頃の成果を見せる、良い機会だ」
「正直、優勝賞品とか、どうでも良んだよな。マリー様に自分達の力を見せられるってだけで」
「そうねぇ。私も、マリー様に魔法を見てもらいたいわ」
「……皆、優勝賞品とかどうでも良いんだな」
四天王の皆は、マリーちゃんに戦いを見せられれば良いだけで、優勝賞品には興味が無いようだ。
もちろん優勝をすれば、それだけマリーちゃんに自分の力というものを見せられるから、勝ちを目指すのには変わらないんだろうけどな。
でも、そんなに気にされない優勝賞品って一体何なんだ?
「優勝したら、何がもらえるの?」
俺が疑問に思っていたら、代わりにカリナさんが聞いてくれた。
さすがカリナさん、俺の考えてる事と同じことを考えててくれたんだね!
夫婦とは、長く一緒にいる事で、同じ事を考えるようになるのかもしれない……。
と、俺が馬鹿な事を考えている間に、マリーちゃんが説明するようだ。
「優勝賞品は、マリーからの祝福じゃ!」
「それは、闘技大会の優勝賞品?」
「そうじゃ。運動会の優勝賞品とは、また別じゃ」
闘技大会と運動会の優勝賞品は、別に用意されているらしい。
運動会の種目はチームで争う物もある。
個人戦の闘技大会だけで、優勝者を決める事はできないんだろうな。
順位によって、ポイントもちゃんと振り分けられるみたいだから、闘技大会の成績も重要なんだろうけど。
しかし、マリーちゃんの祝福って、一体なんだ?
「祝福ねぇ……それはどんな事なの?」
「優勝者の魔物に対する、繁栄の祝福じゃな。それがあれば、種族だけでなく、受けた本人も繁栄していく……というものじゃ」
「成る程ね。それを受けて種族が繁栄する事で、魔物の中でも地位が向上するというわけね?」
「そういう事じゃ!」
闘技大会に出るのは、種族ごとに何名……という決まりはないが、種族のために戦うという者もいるんだろうな。
地位が向上したら、もしかすると四天王に……というのもあるのかもしれない。
四天王になる事でどんな利点があるのか、俺にはわからないが。
「我々は、マリー様の前で戦える事ができるのが、一番の望みですな。マリー様が統治している……それだけで、魔界は祝福を受けているようなものです」
「そうだなぁ。俺達なんて、力はあまりないくせに暴れるしかできなかったのを、マリー様が変えてくれたからなぁ。これぞ魔王様の祝福、だな!」
「我らを上手く乗りこなし、魔界を統べる事……。ドラゴンにとってこれ以上の祝福はないだろう」
「私達なんて、ただ浮かんでるだけだったからねぇ。それに、意思と思考力を与えてくれたのはマリー様だわ。あれが祝福と言っても過言じゃないわね」
四天王の皆が、口々にマリーちゃんを称えるように、闘技大会の優勝賞品とは別で、既に祝福されてると言う……。
なんだかんだで、こんな小さな体でも、マリーちゃんは頑張って魔王として魔界を治めてるんだなぁ。
初めて見た大男の姿以上に、マリーちゃんが魔王なんだと理解できた。
「マリーちゃんは皆に慕われてるのねぇ。ママは嬉しいわ」
「……恥ずかしいのじゃ」
四天王の皆から褒められ、称えられている事にカリナさんが自分の事のように喜び、マリーちゃんの頭を撫でる。
それに照れてか、恥ずかしそうに身を縮めたマリーちゃん。
こういう反応も、子供らしくて良いな。
会議中だが、カリナさんとマリーちゃんの微笑ましい触れあいで場が和んでしまった……と思たのは俺だけだったらしい。
何やらアムドさんが立ち上がり、兜の隙間から俺達の方を見ている気がする……目が無いから予測だが……。
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