第17話 家族で穏やかな朝



「マリーちゃん!?」

「な、なんじゃ?」

「私の……私とユウヤさんの娘になるのよ!」

「は?」


 カリナさん、俺の事を忘れていなかったようで何より。

 それはともかく、いきなり娘に……と言われても、何の事かわからない様子のマリーちゃん。

 そりゃそうだよな。


「カリナさん、説明しないと。マリーちゃんもいきなりそんな事を言われたら、何が何だかわからないよ?」

「……そうだったわね。気持ちが逸ってしまったわ。ごめんね、マリーちゃん?」

「う、うむ。それは良いのじゃが……カリナは一体何を言っておるのじゃ?」

「それなんだけどね……」


 カリナさんでは興奮してまって、何を言っているのかわからなくなる可能性があるから、俺が代わりに説明した。

 横で鼻息荒くマリーちゃんを見ているカリナさんが、ちょっと怖い。


「ふむぅ……成る程、じゃ。それでカリナはマリーを娘に……という事なのじゃ?」

「あぁ」

「マリーちゃんには親が必要なの! だから私達がお母さんとお父さんになるのよ!」


 俺が説明して、なんとか理解してくれたマリーちゃん。

 寂しそうなマリーちゃんに、親が必要かもしれない……というのはわからないでもないけど、カリナさんは少し落ち着いて欲しい。

 ……考えるだけで、落ち着かせる事のできない自分が情けないが。


「むぅ……親、か。しかしマリーは、親というものをよく知らんのじゃ。じゃから……親になると言われても……じゃ」

「何も考えなくて良いのよ? 子供は親に甘えるものなの。だから、何も考えず、マリーちゃんが甘えたい時に甘えれば良いの」

「甘える……じゃ?」


 そもそも、親というものをよく知らないマリーちゃんは、いきなり親になったから甘えろ、と言われても、戸惑うしかできないだろう。

 それに、まだマリーちゃんと会ってから数日だ。

 お互いの事をよく知らないのに、カリナさんの申し出を受ける事はないだろうなぁ……。


「わかったのじゃ。カリナは今日から、マリーのお母さんじゃ!」

「良かったわ。それじゃあ、今日から私の事は、ママかカリナママって呼んでね?」

「カリナママ……じゃ。わかったのじゃ!」

「あぁ……ママ……何て良い響きなのかしら……。一度は呼んでもらいたいと思っていた事が、ここで叶うなんて。可愛い娘ができて良かったわ!」


 えっと……てっきりマリーちゃんが断ると思ってたんだけど……あっさり受け入れちゃった……。

 親が欲しいと考えていたのかもしれないけど、それは簡単に受け入れ過ぎじゃないか?


「良いのか、マリーちゃん?」

「構わないのじゃ。マリーが甘えるだけで良いのじゃろ? それなら、特に問題はないじゃ」

「マリーちゃん? 私の子供になったという事は、ユウヤさんの子供になった、という事でもあるのよ? ユウヤお父さんか、ユウヤパパって呼んであげてね?」

「……ユウヤパパ……何か嫌なのじゃ……」

「ほほぉ……カリナさんは良くても、俺は嫌なのか? ん?」

「痛い、痛いのじゃ! 身体強化(極限)を使うなじゃ! わかったから、止めるのじゃユウヤパパ!」

「パパはちょっと乱暴ね、マリーちゃん」


 マリーちゃんが受け入れた事に驚いたが、それよりも俺をパパと呼ぶ事を躊躇うマリーちゃんに、思わず身体強化(極限)を使ってマリーちゃんの頭をポンポンしてしまった。

 ちょっと無理矢理になってしまったが、マリーちゃんは見た目可愛い幼女だ。

 こんな子に、パパと呼ばれるのは……正直嬉しい。

 年齢は……気にしないでおこう。

 喋り方も、のじゃロリ……じゃないな、じゃロリだが、まぁ、そんな個性的な娘がいても良いだろうし。

 ……魔王は……良いか、別に……良いのか? いや、良いか。


「それじゃ、マリーちゃん、これからしばらく私達と一緒に寝ましょうね?」

「え……カリナさん?」

「わかったじゃ」


 これからは、夜寝る時にマリーちゃんが混ざるらしい。

 家族川の字で……という事を考えてるんだろうけど、そうすると、俺とカリナさんの二人きりじゃなくなってしまう!

 落ち着いたら、二人であんな事やこんな事をしようと考えていたのに……!


「……ユウヤさん、マリーちゃんが落ち着いたら、一緒に寝ない日も作るわ。だから、お楽しみはその時に、ね?」

「……わ、わかりました」


 耳元でささやかれたカリナさんの言葉の、なんと甘美な事か……。

 早くマリーちゃんが家族に慣れて、寂しい思いをする事なく、一人で寝るようになって欲しいもんだな。

 いや、元々マリーちゃんは一人で寝てたんだから、そこまで気にする必要はないのかもしれないけど、こういうのは様式美だからな。

 マリーちゃんが、一人じゃない、親代わりの俺とカリナさんがいると、しっかり理解するまでは必要なんだろう。

 ……カリナさんがそう考えているからと、無理矢理自分を納得させた。



「それじゃ、おやすみ」

「おやすみなさい」

「おやすみ、じゃ!」


 あの後、しばらくして夕食を食べ、部屋に戻るクラリッサさんと別れて来たのはマリーちゃんの部屋。

 さすがに小さい体とはいえ、マリーちゃんが加わって3人になると、用意された部屋のベッドは狭いため、寝るのはマリーちゃんの部屋だ。

 クラリッサさんじゃないが、広すぎる部屋に慣れていないから、ちょっと落ち着かないけどな。

 俺、カリナさん、マリーちゃんの3人の順番に並んで、ベッドに入る。

 部屋の明かりは消してあるから、辺りは真っ暗だ。


「ふふふ、どうしたの、マリーちゃん?」

「あったかいのじゃ……」


 何やらゴソゴソとする音と一緒に、カリナさんとマリーちゃんの声が聞こえる。

 どうやら、マリーちゃんがカリナさんに抱き着いたらしい。

 ……やっぱり、魔王とはいえ、人肌恋しいものなのかもな。


「こうやって寝るじゃ」

「仕方ないわね」


 優し気なカリナさんの声と、マリーちゃんの嬉しそうな声。

 その事自体はとても良い事なんだが……マリーちゃんをカリナさんが抱きしめて寝る、という事は、俺に背を向けているという事だ。

 すこしだけ疎外感を感じてしまう……。

 娘を持つ男親って、こういう物なんだろうか?

 まぁ、見た目子供とはいえ、それなりな年齢のマリーちゃんだからな……俺に抱き着かれても困る。

 俺にその気はなくとも、カリナさんが気にするかもしれないからな。



「コケーコッコッコ! コケェェェェェェェ!」

「ん、朝か……」

「……ん、ふ」

「朝じゃ?」


 特徴的な雄叫びを聞き、目を覚ます。

 確か、ヒュドラ三姉妹だったか……今日はさらに違う叫び方だったから、またさらに別の顔が担当だったんだろう。

 ……さすがにこれでバリエーションは全て、だよな?


「んぅ……」


 はっきりと目を覚ました俺の横で、カリナさんが悩ましい吐息を漏らす。

 昨日はマリーちゃんに抱き着かれてたから、眠りが浅かったのかもしれない、今日は少し起きづらそうだ。

 寝ている間に離れたのか、今はマリーちゃんに抱き着かれていないが、しっかり手を繋いでいるのが、仲の良い親子に見えて、微笑ましい。

 

「カリナさん……んっ」

「んぅ……んっ」


 そっと仰向けになっているカリナさんに覆いかぶさり、目覚めのキスをする。

 その時、何やら視線が……。


「……マリーちゃん!?」

「……それは何をしてるじゃ? 親子ならそうするのじゃ?」


 カリナさんから顔を離し、ふと隣を見てみると、マリーちゃんがしっかり目を開けてこちらを観察していた。

 見られた恥ずかしさよりも、どう答えるべきか悩むな……。


「ん……おはよう、ユウヤさん。……んっ」

「カリナさん……んっ」


 マリーちゃんにどう答えようか考えているうちに、寝惚け眼なカリナさんが目を開け、体を起こしながら近くにいた俺にキスをして来た。

 嬉しいんだけど、マリーちゃんに見られてるんだよなぁ。

 まぁ、恥ずかしいよりも、この甘美な感触を味わっていたいから、俺から離れるような事はしないんだけどな。



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