第16話 カリナさんの名案
「マリーちゃんに親がいないのなら、私達が親になれば良いのよ!」
「は?」
カリナさんの言い出した事に、思わず目が点になる。
親になるって……俺達は人間で、マリーちゃんは魔王なんだけど……?
「正確には、親代わりね。幸いなのか、私達にはまだ子供がいないわ。だから、マリーちゃんを子供にして、かわいがるの! それこそ、寂しさを感じないくらいにね」
「えーっと……でも種族が……」
「そんなの些細な問題よ! ユウヤさんは、あんな小さなマリーちゃんが、このまま寂しく過ごしていて良いと思うの?」
「……それは、そうは思わないけど……」
年齢や種族、魔王である事はともかくとして、見た目が完全に小さな女の子であるマリーちゃん。
そんなマリーちゃんが、親がいないと寂しがっている様子を見ると、心が痛むのは確かだ。
「だったら、私達が親になれば良いと思うの。そうすれば、マリーちゃんも親がいない事を悲しむ必要はないでしょ?」
名案とばかりに胸を張って言うカリナさん。
そりゃ、確かにそうなれれば、マリーちゃんに寂しい思いをさせないようにできるかもしれないけど……。
あぁ、そうか、いつものカリナさんの癖だな、これは。
俺達夫婦は、結婚して2年くらいになるが、まだ子供はいない。
欲しいとはお互い考えているんだが、俺の仕事が忙しく、それが落ち着いたら……という話になっていた。
だから、というわけでもないだろうが、カリナさんは以前から、可愛い子供をみると「自分の子供にしたいくらい」なんて言う事がよくあったのだ。
そう、カリナさんは子煩悩というか、母性が強い。
だから、今回親を知らないマリーちゃんの親になる、と言いだしたんだろう。
「でもなぁ……マリーちゃんが何て言うか……確か、148歳だっけ? 俺達より年上だよ?」
「そんな事は些事よ! マリーちゃんには親が必要なの! それで私達は子供がいない! 絶好の機会だと思うわ!」
自分の提案に絶対の自信を持っているカリナさんは、拳を握って力説する。
年上の子供かぁ……俺も子供が欲しくないわけじゃないから、そうなるのであれば歓迎するけど……子供扱いされる事を嫌がってた様子も見えるマリーちゃんが、この提案を受け入れてくれるかどうか……。
「そうだ、まずは婆やさんに相談よ!」
「あ、婆やさんは今、クラリッサさんと……」
「婆やさん、いますかー?」
「お呼びでしょうか?」
「……あがが」
突然婆やさんを呼び出そうとするカリナさん。
食堂でクラリッサさんと相談していたから、さすがに来る事は無いだろうと思っていたのに、カリナさんの呼び声に応えて、天井から降りて来る婆やさん。
一緒にクラリッサさんも落ちて来たが……婆やさんの移動に問題があったのか、全身を振るわせて、何やら怯えてる……この調子じゃ、存在感を出すのはまだまだ先になりそうだ。
「婆やさん、マリーちゃんには親が必要だと思うの。それで、私達が親になろうと思うんだけど、どうかしら?」
「そうですな……マリー様には、頼る者がいません。強者ゆえ、魔王ゆえの孤独……とでも申しましょうか。その点、貴女方は魔王であるマリー様をも圧倒した力の持ち主……」
カリナさんが細かい説明すらせず、単刀直入に婆やさんへマリーちゃんの親になると言うと、考えながら答える婆やさん。
……何も疑問には感じないんだな……カリナさんがそう言い出した理由とか……。
「マリー様には、我々魔物は全て従うようにできております。しかし、それだけではただの独裁者……マリー様にその気はなくとも、私達ではマリー様へ直接意見をする事はできません。そう考えると、親として可愛がり、時には叱る……そんな存在が必要かもしれませんな?」
「そうよね。マリーちゃんには私達が必要よね!」
婆やさんの話が本当なら、魔物は本能のような部分で、魔王であるマリーちゃんに従おうとするらしい。
マリーちゃんは、運動会の会議を見ても思いあがって独裁をするような性格には感じないし、しようとは考えて無さそうだけど、自然と独裁者のようになって行ってしまうのかもしれない。
……まぁ、俺に政治やら統治やらの事はわからないけど。
俺やカリナさんなら、魔物達と違ってそんな本能はないし、カリナさんは魔法を反射、俺は身体強化(極限)でマリーちゃんに対抗できる、という事も大きいのかもしれない。
もしマリーちゃんが、魔王として間違った決断をしようとする事があれば、しっかり意見を言えるのは俺達なんだろう。
俺に、そんな間違いやらを判断できる頭脳があるかどうかは、さておいて、だな。
「クラリッサさんの両親はどうしてるんだ? ここに落ち着いてるけど、人間界に帰ったりは?」
「……私の両親は、数年前に魔物によって殺されました。だから魔物を憎み、それを従えて人間界を脅かす魔王を敵として、ここまで来たんです」
「……そうだったんだね」
白熱している婆やさんとカリナさんの話を余所に、ふと気になってクラリッサさんの親の事を聞いてみた。
この場所に残っているけど、もし両親がいるのなら、心配してるだろうと思っての事だったんだが……図らずも、重い内容が帰って来た。
……そうか、魔物に殺されてたのか……それなら確かに、魔王が原因と信じ込んでいたら、仇と憎んでも仕方ないのかもしれない。
「でも、今はその気持ちは薄れています。ここでマリーちゃんを見て、人間界で人間を脅かす魔物に、そんな指示を出すような存在だとは思えなくなって来ていますから」
「そう、なんだ」
クラリッサさんにとって、ここで暮らすのは悪い事じゃないみたいだ。
無邪気な子供にも見えるマリーちゃんを見る事で、魔王が悪いのではないと思えるようになって来たようだからな。
「ユウヤさん!」
「はい!?」
クラリッサさんと話し、しみじみしていると、婆やさんと話していたはずのカリナさんから、急に声をかけられた。
「マリーちゃんの所へ行くわよ! 婆やさん、案内して下さい!」
「畏まりました。マリー様をよろしくお願い申し上げます……」
「ちょ、ちょっとカリナさん!?」
婆やさんと話していた結論は、やっぱり俺やカリナさんが親代わりになる……という事らしい。
婆やさんの案内で、マリーちゃんの所へと急ぐカリナさんを追いかけて、俺も慌てて部屋を出て行った。
……あ、クラリッサさんとの話の途中だった……。
「……やっぱり私、どんな話をしても存在感が薄いから、すぐに忘れられるんですね……」
そんな呟きが聞こえたような気がしたが、今はカリナさんを追いかけるのが先決だからね……ごめん、クラリッサさん!
「マリーちゃん!」
「な、なんじゃ、何事じゃ!? 部屋に入る時はしっかりノックをするのじゃ!」
ノックをする事なく、マリーちゃんの部屋に突入するカリナさん。
マリーちゃんの部屋は、さすが魔王の部屋といったところか、俺達に用意された部屋よりも倍以上の広さがあり、部屋の中央にはキングサイズベッドを二つ、繋げたような大きさのベッドが鎮座している。
……天蓋付きのベッドとか、初めて見たな……高級そうだ。
「ノックなんて、今は些事よ。それよりもマリーちゃん!」
「ど、どうしたというのじゃ! カリナ、落ち着くじゃ!」
「落ち着いてなんていられないわ! これはマリーちゃんの将来に関わる事なんだから!」
押せ押せでマリーちゃんに迫るカリナさん。
その様子は、普段何事にも動じず、ホンワカとしているカリナさんからは想像できないくらいだ。
たまにこうなるけど……こうなったら最後、誰にも止める事はできないんだよなぁ。
マリーちゃんの方は、カリナさんの変貌ぶりに驚いている様子で、ベッドに座っていた体を、枕元まで避難させていた。
これだけの勢いで来られたら、怯えても仕方ないよなぁ。
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