第44話 魔物大運動会準備完了!
「はぁ……家族で和気藹々と……ってのに憧れてたんだけどなぁ……」
マリーちゃんの部屋の風呂は、カリナさん達に占拠されて侵入不可なので、俺は用意されていた部屋まで戻り、そこで風呂に入る事にした。
マリーちゃんの部屋のよりは狭いが、ここも十分な広さがある。
髪や顔に付いた汚れを、早く洗い流したかったからここまで移動した。
カリナさん達が風呂から上がるのを待ってる間中、ずっと気持ち悪いのを我慢できそうになかったから。
「マリーちゃんも前向きで、今日こそはと思ったんだけどなぁ……よこしまな気持ちなんて、カリナさんにしか抱かないっての……ふぁ~」
ぶつぶつ独り言を呟きながら、一人寂しく風呂に浸かる。
身体強化(極限)を使って体を酷使していたせいか、少しだるい部分があったけど、温かいお湯が体にしみて気持ち良い。
顔を洗う時、傷が少ししみて痛かったけど、それは我慢した。
寂しい空間でも、気持ちの良い風呂に浸かって体を洗い流して風呂を出た。
「ただいまー。お、もう出てたんだ?」
「おかえりなさい、ユウヤさん」
「ユウヤパパじゃ、お帰りなのじゃ!」
風呂から上がってマリーちゃんの部屋に戻ると、先に出たカリナさん達が、ポカポカの体のまま上機嫌でベッドに座っていた。
「ねぇねぇ、カリナママ、ユウヤパパじゃ?」
「どうしたの、マリーちゃん?」
「なんだい?」
俺も二人が座ってるベッドに腰かけると、目を輝かせたマリーちゃんが、何かをせがむように声を出す。
「魔界竜巻はどんなだったじゃ? マリーもそうじゃが、魔物達も皆、誰も近づいた事のない竜巻じゃ。どんな感じだったのか聞きたいのじゃ!」
「そうねぇ……」
「寝る前の話としては、刺激が強いかもしれないけど……。興味津々のマリーちゃんには、敵わないね」
俺達は興奮した様子のマリーちゃんへ、バハムーさんに乗って魔界竜巻へ向かったところから、帰って来るまでの事を話して聞かせる事にした。
「……あら、寝ちゃったわね?」
「そうだね。俺達を心配して、あまり休んでなかったようだし、もう夜も遅いしね」
ほとんどの話を終えたところで、マリーちゃんはスヤスヤと寝始めた。
魔界竜巻を押し返して、帰る時にもまた苦労した……というところまで話したから、マリーちゃんに肝心な部分は伝わっただろう。
カリナさんと笑い合い、マリーちゃんをベッドに入れて、俺達も横になる。
「ユウヤさん、お疲れ様」
「カリナさんも、お疲れ様」
「……私達、この世界に来て良かったわね?」
「そうだね……可愛い娘もできたし、その娘のために頑張る事もしてやれた……」
「そうね……」
「むにむにじゃ……パパ、ママ……」
「私達はここにいるわよ。ゆっくりおやすみなさい」
「むにむに……」
「ふふふ、可愛いわね」
「そうだね……」
寝言を言っているマリーちゃんを見て、俺達は微笑みがら、家族仲良く就寝した。
ようやく、魔界竜巻へ向かって行った長い1日が終わった。
疲れたし大変だったとは思うけど、マリーちゃんが笑顔なのを見てると、頑張って良かったと思う。
疲労感よりも満足感いっぱいで、心地よい眠りに就いた。
翌日から、再開された運動会の準備を俺達も手伝う。
四天王の皆さんも、マリーちゃんも、魔界竜巻を退けた事でさらにやる気になったのか、いつも以上に張り切っていた。
訓練も合間を見て行い、少しは戦う事にも慣れて来て、闘技大会にも備えてる。
一つだけ困った事があったのは、俺やカリナさんが城下町に行ったり、運動場へ行くと、複数の魔物達に囲まれ、感謝されてしまう事だ。
感謝されるのは良いんだけど、皆、さすがマリー様の両親だとか、魔界竜巻を退ける偉業を成し遂げた、偉大な方々……なんて言われて、称えられるようになってしまったのは、少し困る。
俺もカリナさんも、マリーちゃんのためを思ってやった事で、ここまで称えられたいとか感謝されたいとかまでは、考えて無かったんだけどなぁ。
俺達の姿を見た魔物達が集まる事で少し準備が遅れたりもしたけど、準備している魔物達の士気は高く、皆頑張ってくれてた。
おかげで、魔界竜巻が発生してから数日で、運動会の準備が終わった。
「ようやく、全部終わったのじゃ。予定より数日遅れたくらいで済んだのじゃ」
「魔界竜巻が近付いてる時は、準備できなかったしな」
「それに、端の方のテントが少し崩れてたりもしたものねぇ?」
「それも全て終わったのじゃ。これも、ユウヤパパとカリナママのおかげじゃ! 二人のおかげで運動会が開催できるのじゃ!」
「マリーちゃんが喜んでくれるだけで、頑張ったかいがあったよ」
「そうね。それだけで、あの苦労もして良かったと思うわ」
「……でもじゃ、もうあんな危険な事は止めて欲しいのじゃ……」
「大丈夫だよ。マリーちゃんに心配を掛けるような事は、もうしないからさ」
「こんな可愛い娘に心配ばかりかけちゃ、いけないわよね」
魔界竜巻へ向かったのは、無謀にも見える行動だったけど、やって良かったと思う。
結果だけ見ると俺もカリナさんも無事だから、無謀な事では無かったのかもしれないけど、マリーちゃんを心配させるのは良くないからな。
皆が危険にさらされるような事が無ければ、もうあんな無茶はしようとは思わない。
それはともかく、ようやく運動会の準備も全て終わった。
魔界竜巻の影響で、建てていたテントが崩れたりした部分もあったみたいだけど、被害が少ないおかげで、数日遅れたくらいで準備を終える事ができた。
まぁ、俺達に群がって感謝して……という事があったから、さらに少し遅れたみたいだけど……。
ちなみにだが、魔界竜巻に向かってる時に負った軽い傷だけど、それは翌日には治っていた。
これも、身体強化(極限)のおかげ……なのかな?
「いよいよ運動会の開催じゃ! 運動場へ行くのじゃ!」
「あぁ。訓練もやるだけの事はやったし、あとは試合に臨むだけだ」
「楽しみだわぁ。皆、楽しんでくれるかしら?」
「それは当然なのじゃ。皆、楽しみにしてたのじゃ! 楽しい事は約束された事なのじゃ!」
運動会開催当日、興奮気味のマリーちゃんを微笑ましく見ながら、俺も気合を入れる。
俺やカリナさんは、準備こそ手伝ったが、競技にはほとんど参加しない。
俺は闘技大会があるし、カリナさんは魔法を反射するだけで、普通の人間だしな……魔物達に混じっての参加は断念したようだ。
……次にまた運動会があるようなら、カリナさんでも気軽に参加できるような協議を考えて、提案するのも良いかもしれない。
それにカリナさんには、闘技大会で魔法が観客に当たらないよう、壁としての役割もある。
魔界竜巻に向かった時の様子を見るなら、規模が大きすぎない魔法が来なければ大丈夫だろう、と安心してる。
規模が大きかったり、危険すぎる魔法は禁止されてるしな。
「バハムー、飛ぶのじゃ!」
「はっ!」
城を出る準備を終え、バハムーさんに乗って運動場へ向かう。
今日は運動会という事もあり、城下町にはほとんど魔物はいない。
観客になる魔物、参加する魔物はほとんど運動場に行ってるからだ。
城下町を離れて運動場へ向かう途中、バハムーさんの背中から地上を見てみると、魔物達の群れが運動場へ向かっているのがわかる。
……クラリッサさんだけは、その群れを見て顔を青くしてたけど、俺とカリナさんにとって魔物達は友人と一緒。
マリーちゃんの臣下だったりもするから、特に怖くはない。
結構面白い魔物さんもいるから、人間界じゃなく魔界に召喚されて良かったと思う。
ここじゃ、人間同士の諍いとかもないしなぁ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます