第45話 魔物大運動会開始!
「着いたじゃ! 降りるのじゃ!」
「あ、マリーちゃん!」
「待ちきれないのね。仕方ないわ」
「……そうみたいだね。それじゃ、俺達も降りよう」
運動場に着き、一部大きなステージのようになった場所の上空で、マリーちゃんが飛び降りる。
そんなマリーちゃんを追って、俺がカリナさんをお姫様抱っこをして飛び降りた。
身体強化(極限)のおかげで、これくらいの事は簡単にできるようになったからな。
バハムーさんは俺達が降りたのを見送った後、そこから少し離れた場所に降り立った。
「皆の者、準備は良いか!?」
「「「「おぉぉぉぉぉ!!」」」」
ステージになってる場所の中央に立ち、マリーちゃんが声を周囲に響かせて叫ぶ。
それを聞いた集まってる魔物達が、雄叫びのような叫びを上げて答える。
地響きのような大きさの叫びは、ステージにいても大きく聞こえ、少し耳が痛いくらいだ。
でもそれくらい、魔物達も楽しみにしていたと実感できて、無事開催できて良かったなと思う。
「魔界竜巻の発生により、一時は開催を危ぶまれた魔物大運動会じゃ! じゃが! マリーの両親……この二人の力によって、魔界竜巻は退けられた! 今回の運動会開催は、この二人のおかげじゃ!」
「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」」
マリーちゃんの演説で、先程よりも大きな叫びが地面とステージを揺らす。
カリナさんが気楽に手を振ってるけど、俺には耳が痛くてできそうにない……。
あ、身体強化(極限)を解除すれば良いのか……聴覚も強化されてるみたいだから。
「二人は、マリー自慢の親じゃ! その二人に感謝をし、そしてこの運動会を成功させるのじゃ!」
「「「「「わぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」」
「ここに、魔物大運動会開催を宣言するのじゃ!」
「「「「「グルァァァァァァァ!!」」」」」
マリーちゃんの宣言により、魔物大運動会はスタートした。
最後だけ魔物らしい雄叫びだったけど、毎朝のヒュドラ三姉妹の雄叫びのおかげで、こういうのも慣れたもんだ。
「さてじゃ、審判をする闘技大会まで時間があるじゃ。運動会を見て回るのじゃ!」
「そうだな。それじゃ、色々見て回ろうか?」
「魔物さん達がどんな種目をするのか、楽しみだわぁ」
ステージから降り、闘技大会までやる事の無い俺やカリナさん、マリーちゃんの三人で運動会を見て回る事にする。
始まってしまえば、マリーちゃんも指揮を執る必要はないみたいだ。
大きな問題が出れば対処に駆り出されるのかもしれないけど、ある程度は運営してくれる魔物達が対応してくれるらしい。
その運営を取り仕切ってるのは、婆やさんとコボ太らしいけど……有能な人、もとい魔物達だ。
「そういえば、クラリッサさんは……?」
「あれ、そういえばいないわね……?」
「どうしたんだろうじゃ?」
決して忘れてたわけじゃないんだけど、俺達と一緒にバハムーさんに乗っていたはずの、クラリッサさんが見当たらない。
俺やマリーちゃんのように、飛び降りる事ができなかったんだろうけど……ステージ近くにいると思ってたんだけどな……?
「まぁ、見て回ってれば、どこかで合うかもしれないな」
「そうね。向こうも、色々回ってるのかもしれないわね」
「うむじゃ。ここには人間に害を成す魔物はいないのじゃ。安心して見て回るのじゃ!」
人間界にいる魔物と違い、ここにいる魔物達は、人間だからと襲う事はあり得ない。
クラリッサさん一人だとしても、何かがあって危険に陥る事はないだろうな。
カリナさんやマリーちゃんと話し、安心して運動会を見るために歩き出した。
もちろん、マリーちゃんを挟んで手を繋ぎ、散歩をした時と同じような家族スタイルで。
これ、マリーちゃんが気に入ったみたいだからなぁ……俺もこうしてると楽しいし。
「ふむ、ここは球入れ競技じゃな?」
「そうみたいだな……」
「皆がんばってー!」
三人で運動場を歩き、最初にたどり着いたのは球入れ競技が行われている場所。
そこれは、大小様々な魔物達がチームを組み、球となった魔物を投げて大きな入れ物へと入れている。
確か……あの魔物は、アルマジローニアンだったっけか?
「カラメ……マシマシ」
「アブラ……マシマシ」
「ニンニク……マシマシィィィィ!」
「……何か、変な事を叫びながら飛んで行ってるんだけど……?」
「あれは、アルマジローニアンの口癖なのじゃ。球として投げられたり、蹴られたりするのが喜びな種族なのじゃ……が、あの口癖は何ともならんらしいのじゃ……」
「そ、そうなんだ……」
「なんだか、聞き覚えがあるわねぇ?」
競技に参加している魔物に投げられる度、あの特徴的な口癖が各場所で叫ばれている。
……ここは、どこかのラーメン屋なんだろうか?
何か変な錯覚を覚えそうだ。
話した事は無いけど、さっきから投げられているアルマジローニアン。
一度準備の手伝いの時に球の状態を触ったが、なんとなくバスケットボールに似た質感だったのを覚えてる。
大きさも、バスケットボールを少し大きくしたくらいだし、何かに当たって弾む丸い球は、なんとなくバスケットボールを彷彿とさせる。
魔物の中には、シュートフォームで投げてるのもいるから、というのもあるかもな……3Pシュートかな?
「お、こっちは綱引きじゃ!」
「おー、やっぱりこれは単純な力を競う競技だけあって、大きな魔物が揃ってるなー」
「皆、力持ちねぇ」
球入れが行われている場所から少し歩いた先には、俺とバハムーさんが頑張って作った綱を引きあっている魔物達の姿が見えた。
あれ、結構苦労したんだよなぁ……。
「バハムー、頑張るのじゃ!」
「お、バハムーさんも出てるのか」
「そうみたいねぇ」
力自慢のバハムーさんだけあって、この種目は外せなかったのかもしれない。
俺達から見て右側に、バハムーさん率いるドラゴン達と大きな体を持つ魔物達。
左側にも、バハムーさんに匹敵する大きさの魔物が多くいる。
力は拮抗しているようだったけど、マリーちゃんの声援が聞こえたのか、バハムーさんが力を入れて少しづつ右側に綱が引かれている。
……このままバハムーさんが勝つのかな?
「あれ?」
「どうしたの、カリナさん?」
「どうしたのじゃ、カリナママ?」
「いえ……あれは……?」
「ん?」
「なんじゃ?」
何かに気付いたカリナさん。
指を差して何かを伝えようとしているけど……?
そちらの方へ俺とマリーちゃんが視線を向けると、そこには……。
「……クラリッサさん?」
「間違いないのじゃ。あれはクラリッサじゃ」
「そうよねぇ?」
巨体を持つ魔物に紛れて、ひと際小さい体の人間が頑張って綱を引いている姿が見えた。
それは見間違えようもなく、クラリッサさんだった。
しかし……なんでまたあんなところに……?
クラリッサさんがいるのは、バハムーさんとは逆側……左側の陣営だ……もしかして、チームを組んで参加してるのかな?
「ぐぬぬぬ……私は存在感を示すんです……ここでなんとしても勝たなくては……!」
「クラリッサさん……」
顔を真っ赤にしながら力いっぱい綱を引きながら、何かを言っているのが聞こえてしまった。
しかし……人間には不利な綱引きに出なくても、他に存在感を示す方法があったんじゃないかなぁ……?
「クラリッサも頑張るのじゃ! そのままではバハムーに負けてしまうのじゃ!」
「ふぬぬぬぬぬ……!」
マリーちゃんの声援が聞こえたかどうかはわからないが、さらに力を込めて綱を引くクラリッサさん。
……顔が赤を通り越して、青くなって来てるように見えるけど、大丈夫かな?
しかし、クラリッサさんの検討もむなしく、徐々に綱はバハムーさんのいる右側へ引かれて行き……。
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