第46話 運動会を家族で見て回る
「……勝負あり! 勝者、バハムー隊!」
「よっしゃぁぁぁ!」
「……あぁぁぁぁ」
マリーちゃんの声援もむなしく、クラリッサさん側は負けてしまい、勝ったバハムーさんが叫びを上げた。
審判をしていたコボルト族の宣言を聞き、その場に崩れ落ちてしまうクラリッサさん。
対格差があり過ぎだからなぁ……どれだけ頑張っても、一人で覆せるような力の差じゃなかったか……。
そもそも、召喚魔法を使えること以外、普通の人間と変わらないと言っていたクラリッサさんが、力自慢の揃う種目に出る事自体が間違いなんじゃ……と思うが、さすがに可愛そうなので口には出さない。
こんな無理をするくらい悩んでいるのなら、今度から忘れないように気を付けよう。
「両方とも健闘したのじゃ。名勝負だったじゃ!」
「そうね。大きな魔物達が頑張ってて、見ごたえがあったわぁ」
「そうだね。……クラリッサさんも頑張ったよ、うん」
チームメイトと見られる、大きな魔物達に励まされているクラリッサさんを見ながら、その場を離れた。
「お次は……徒競走じゃ!」
「距離がある分、ここは広く場所を取ってあるなぁ」
「私達の世界の陸上競技場より、広いわね」
徒競走は運動会として相応しいのか少し疑問な程、距離が長い。
一番長い距離が、42.195キロというフルマラソンの距離だから、その分用意してある場所も広い。
楕円形に整備されているフィールドには、準備段階では溝で区切られていたのが今は埋められ、しっかり白線が引かれている。
確か……1週10キロだったかな?
「まずは、四足歩行の魔物からじゃな。犬男も出るようじゃ」
「そうみたいだね」
広大なフィールドだから、端から端まで全て見渡せるわけじゃないけど、俺達がいる位置がスタート地点に近く、誰が出場するのかはっきりと見えた。
以前、城下町を案内してもらっている時に見かけた、狼というより犬の犬男だったっけ……。
シャレとコウベの骨を、追いかけるのが好きだったはずだ。
しかし、大通りで見かけた狼男は出て無いようだ……もしかすると二足歩行扱いなのかな?
「犬男ー、骨を追いかける気持ちで頑張るのじゃ!」
「あの時はかなり早かったよね?」
「そうね。馬より速そうだったわ」
スタート位置に着いた魔物達を見て、マリーちゃんが犬男に声援を飛ばす。
魔王であるマリーちゃんだから、贔屓は良くないような気がするけど、単純に楽しんでるようだから気にしなくて良いか。
それに他の魔物達も、特に嫌な顔もしてないしな。
「フレア!」
ドガァァァンッ!
「始まったじゃ!」
「凄い音だな……」
「そうね……爆発だったわね」
リッちゃんの同族と思われる、半透明で半分骨のリッチが、空に向かって魔法を放つ。
その魔法の爆発を持って、徒競走がスタートした。
魔法で合図っていうのも、魔物らしい……のかな?
轟音と共に、一斉に走り出した魔物達。
四足歩行だからか、皆走りに安定感があるようだ。
「おぉ、早いのじゃ!」
「さすが魔物……と言うべきかな?」
「そうねぇ。日本の馬なんて目じゃないわね」
轟音と共にスタートした徒競走。
走り出した魔物達は、それぞれ信じられないスピードで走っている。
フィールドが大きいおかげで、俯瞰して見られるから目で追えるけど、これが近くなら……身体強化(極限)を使っても見えるかどうかわからないな……。
この速さで走るのなら、確かにキロ単位の徒競走になってもおかしくないか……と妙に納得。
「おぉ、もうすぐゴールじゃ!」
「誰が勝つのかな?」
今回は5キロの短距離の区分にされている徒競走らしく、フィールドを半周した辺りにゴールテープがあった。
そこに迫るのは、2人の魔物
片方は犬男、もう片方は上半身が人間に似ていて、下半身が馬の……ケンタウロスだ。
「馬と犬かぁ……どっちが早いんだろう?」
「私達がいた世界だと、短距離は犬で、長距離が馬って言われてたわね。確か、加速は犬の方が早くて、トップスピードは馬の方が早いとかなんとか……」
「へぇー、そうなんだ……」
カリナさんの知識を聞きつつ、手に汗を握って犬男とケンタウロスのドッグファイトを見守る。
両者互いに譲らず、体をぶつけ合うくらいの距離で走っている。
その速度は、高速道路の車も簡単に追い抜くくらいのスピードだろう。
二人の後ろでは、他の魔物達が頑張って追いかけている様子だけど、二人には距離を離される一方だ。
犬男ってあんなに早かったんだなぁ。
「ゴール! 1着、犬男! 2着、ケンタロウ!」
「勝ったじゃ、犬男が勝ったじゃ!」
「ほとんど同着だったけど、犬男の方が少し先だったみたいだね」
この場合、鼻差とでも言うんだろうか……犬男は形が犬だから、口や鼻が前に突き出している。
それとは別に、ケンタウロスのケンタロウの方は、体が人間なため、馬の体から上に体が伸びていた。
ケンタロウの胸部分よりも、先に犬男の鼻がゴールテープに掛かるのが早かったようだ。
「いつも骨を追いかけてるかいがあったじゃ。練習のおかげじゃ」
「……あれって徒競走の練習だったのか?」
マリーちゃんが投げたシャレとコウベの骨を、走って犬男が取りに行くという遊び……それがあったおかげで勝てたのかもしれない。
「これからどんどん距離が伸びるのじゃ。楽しみなのじゃ」
「そうね」
「距離が伸びるのか……競技時間も長くなりそうだな……」
マリーちゃんの言う通り、次は10キロの徒競走のようだ。
段々距離が伸びて、最後が42.195キロか。
どれだけ時間がかかるんだろう……。
「案外、時間がかからないものなんだな」
徒競走自体は、予想より早く終わった。
というより、走る魔物達の足が速すぎた。
チーターとか目じゃない速度で、ぐるぐるとフィールドを周って42.195キロを完走したのには驚いたな……。
「じゃろ? 魔物達も頑張って走ったのじゃ! ……次は二足歩行の徒競走じゃ?」
「さっきまで四足歩行だったから、そうかもね」
「次開催する時は、何処でどんな種目が行われて、いつから開始か……というプログラムの用意が必要かもな……」
マリーちゃんも、徒競走が行われる順番を詳しくは知らないらしい。
まぁ、四足歩行の徒競走が終わったんだから、次は二足歩行になるのが普通だろう……他に、この広いフィールドを使う種目もないしな。
運動会によくある予定種目の書かれたプログラムがあれば、いつどこで何の種目が行われるかわかるから、見たい種目を見逃さずに済んで、観客側も安心だろう。
種目に参加する魔物も、参加していない時は観客側になるのだから、空き時間を見物で上手く使う事ができるだろうし。
次にまた、運動会が行われるのかはわからないが、その時はプログラムに関しても提案したいと思う。
「……そろそろ、お腹が空いて来たわね……」
「でも、食べてると各地の種目を見逃してしまうじゃ。もっと色々見てみたいのじゃ」
「屋台があるようだから、そこで適当な物を見繕って、歩きながら食べるか?」
「それも良さそうじゃ!」
「そうね。あまり行儀が良いとは言えないけど、お祭りみたいなものだしね」
「決まりだね。それじゃ……」
ピンポンパンポーン
適当に食べ物を調達するため、屋台へ歩き出そうとした時、何やら聞き覚えのある音が会場中に響き渡った。
アナウンス前の、お報せの音?
魔法か何かで再現してるんだろうけど、懐かしい音だなぁ。
「何かしら?」
「何かを報せるようじゃ。聞いてみるのじゃ」
「そうだな」
周りのざわめきも少しだけ鎮まり、お報せを聞くために、俺達は口を閉じて耳を澄ませた。
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