第47話 お昼休憩と一風変わった種目達



「ご来場の皆様……観客の皆様も、参加者の皆様も、魔物大運動を楽しまれておいででしょうか? さて、これよりしばしの間、お昼の休憩時間を取ります。休憩時間の間は、種目が行われる事は御座いませんので、お気を付け下さいませ……」

「……この声は、アナウンさん?」

「そのようじゃ」


 聞こえて来たのは、魔法で増幅されたアナウンさんの声。

 その声によると、これからお昼休憩らしい。

 アナウンさんの声が聞こえて来てから、そこかしこで弁当を広げる魔物が出始めた。

 運動会と言えば、お昼休憩の弁当だよな……今回は持って来てないけど


 というかアナウンさん、闘技大会の実況だけでなく、こんなお報せをする役もやる事になったのか……。

 はきはきとした口調ではっきりと喋るため、凄く聞きやすい……魔法の影響もあるんだろうけど。

 観客の魔物が大勢いて、俺達が静かにしててもざわざわとしているのに、しっかり聞き取れた。

 ……こういう時って、結構聞き逃したりするものなんだけど……アナウンさんのおかげで、その心配もなさそうだ。


「お昼休憩じゃ。ずっと種目を行ってたら疲れるからと、そうする予定だったのを忘れてたのじゃ」

「休憩時間なら、ゆっくり昼食を頂けるわね」

「これなら、急いで食べる必要もないし、歩きながら食べる事も無いね」


 マリーちゃんは忘れてたらしいけど、運動会で行われる種目を見て興奮してたから、頭から抜けてたんだろう。

 それに、細々とした調整だとかも準備段階でしてたんだから、忘れてても仕方ないか。


「お昼休憩が終わりましたら、またお報せ致します。それまで皆様、ごゆっくりお過ごし下さい」


 ピーンポーンパーンポーン


 始めの音よりも、少し音程とリズムが変わった音を響かせて、アナウンさんのアナウンスが終わる。

 それと同時に、俺達も何か食べるべく屋台へと移動を開始した。

 弁当を持って来てる魔物もいれば、持って来てない魔物もいるみたいだし、屋台が混む前に確保しないとね。



「ふぅ……なんとか確保できたね」

「凄い混雑だったじゃ。でもやっぱり、クックの屋台は一番人気だったのじゃ!」

「そうねぇ。いつも美味しい料理を作ってくれてるから、味が美味しいのは間違いないしねぇ」


 屋台前の混雑を抜け出し、適当な場所でもらって来た料理を頂く。

 屋台には、色々な魔物が色々な料理を作って提供しており、全て無料でいくらでも食べられるという太っ腹具合。

 ……この世界に来て、お金を稼いだりしてないから、俺としては助かったかな。

 まぁ、魔王であるマリーちゃんなら、ある程度のお金を使えるんだろうけど……娘におごってもらうのは、父親としてちょっと、ね。


「クックさん、張り切ってたなぁ」

「そうなのじゃ。皆に料理を食べてもらう、良い機会だと言っていたのじゃ」

「……私も朝食だけじゃなく、そっちで参加するべきだったかしら?」

「カリナママは止めておいた方が良いのじゃ……。カリナママの料理は、屋台向きではないのじゃ……」


 料理をもらう時少しだけ話ができたけど、クックさんはこの機会に魔物達へ美味しい料理を食べてもらえると言って喜んでいた。

 料理人の鑑だね。

 他の屋台とは違って、城の料理人であることが知られてるクックさんは、他の屋台よりも魔物達が並んで一番人気のようだ。

 実際の料理も美味しいから、そうなるのも当然か。


 でも、マリーちゃんの言うようにカリナさんが参加するのは、俺としても向かないと思う。

 料理は美味しいし、俺としても手料理が食べられる喜びはある。

 けど……カリナさんの料理は豪快だからなぁ……屋台のような小さな空間では、満足に料理ができそうにない。


「そう? マリーちゃんが言うのなら、そうかもね。ちょっと残念だわ……」

「カリナママは、闘技大会で重要な役目があるのじゃ。仕方ないのじゃ」

「そうね。頑張って、飛んで来た魔法を跳ね返す事に集中するわ」


 闘技大会は全ての種目の最後に行われる、運動会の目玉だ。

 けど、その闘技大会で観客を守る役目のカリナさんは、屋台で料理をしている時間はなさそうだ。

 昼休憩の時間だけじゃなく、種目の合間の休憩や観客のためにも、常に屋台では料理してなくちゃいけないみたいだからね。

 闘技大会の観客達も、適当に何かをつまみながら観戦したい……という魔物もいるだろうし。


 ピンポンパンポーン


「ご来場の皆様、競技の再開をお報せ致します……」

「お? お昼休憩が終わるみたいだね」

「しっかり食べたし、また見て回るのじゃ!」

「クックさんの料理も、他の料理も美味しかったわぁ……」


 アナウンさんのお報せから少しして、色んな場所でまた競技が再開される。

 ……そういえば、休憩の間もクラリッサさんはいなかったんだけど……チームの魔物達と一緒に、昼食を食べたんだろうか?

 忘れてなんて無かったよ? うん。



「お、あれは骨投げじゃな」

「骨……? まさか……」

「シャレさんとコウベさんかしら?」


 休憩が終わった後、何か見ようと会場を歩いて回る俺達。

 マリーちゃんが発見した種目は、骨投げという種目らしいけど……。

 種目に参加する魔物達が、一本の白線の上に並び、そこから各々白い何かを投げて、飛距離を競うものらしい。

 白い物……種目名通りなら、骨かな?


「シャレとコウベの他にも、スケルトン族が骨を提供してくれたのじゃ」

「骨を投げるって……傷が入ったり壊れたりしないのか?」

「大丈夫じゃ、スケルトン族は簡単に骨を再生させる事ができるのじゃ!」

「骨を再生……便利だな」

「本当ね。カルシウムとか足りてるのかしら?」

「カリナさん……気にするのはそこなの?」


 スケルトン族の骨は簡単に着脱可能で、頭蓋骨さえ無事なら、どれだけ他の骨が傷ついたりしても、再生が可能らしい。

 だからって、骨を投げる競技を俺には考え付きそうにないが……これも魔物特有、なのかな?

 砲丸投げにして、アルマジロ―ニって種族を投げれば……とも思うけど、そちらは球入れの球になってるからこうしたらしい……他に投げるのに適した物ってなかったのかな……?


「他の種目も見てみるのじゃ!」

「そうね。ここだけじゃなく、色んな場所で色んな種目が行われてるみたいだものね」

「さすがに全部見て回れないけど、できるだけ色々見てみよう」


 種目はそれぞれ、各場所で同時進行的に行われているから、どうしても見れない種目が出て来る。

 種目の数や、参加する魔物の多さから考えると、仕方ない事だね。

 一つの場所で順番に種目を行う……とかだと、時間にも制限があるから種目に参加できる魔物の数も限られてしまうし、数日かかってしまいそうだ。

 広大な場所を使ってるんだから、場所ごとに別れて種目が行われるのも仕方ないか。


 まぁ、もう少し整理して、見れない種目を減らすよう考える必要はあるだろうけど。

 これも、また次の運動会で……だな。

 すっかり次の運動会が行われるように考えてるけど、すれ違う魔物達も、見て回ってる俺達も皆笑顔で楽しそうだ。

 これだけ皆が楽しめるものなら、次もまた開催される事だろうと考えていて、良いと思う。


「次はどんな種目じゃ……?」

「えっと、あれは……」


 マリーちゃんが見つけた競技へと目を向ける。

 そこでは複数のコースの地面に、伏せた魔物が横の空いた箱のような物の中で、ほふく前進のような事をしながら、前に進んでる。


「……キャタピラレース……かな?」

「キャタピラレースかじゃ! 徒競走と違ってこっち速度はないがじゃ、頑張って進むのじゃ!」

「懐かしいわねぇ……段ボールを使って小さい頃やったわ……」

「そうだねぇ……」


 段ボールやマットで作った、戦車のキャタピラに似た物の中に複数で入り、中から一生懸命押して進む競技だ。

 魔物が力強く押すからか、このキャタピラは木でできてるようだけど……よく進めるな……。

 小型の魔物、中型の魔物、大型の魔物と別れて行われ、それぞれの合計点がもらえる、という事になってるらしいね。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る